第2話 ここは魔王城!?初対面の契約結婚宣告
ゴブ男はメイベルの荷物をヒョイと持ち上げた。
そして馬車の後ろにそっと乗せる。
御者の巨大なオークはメイベルをチラッと見て会釈した。
口角が少し上がったのは笑顔なのだろうか……。
メイベルも小さく手を振り、若干引き攣り気味の笑みで返した。
馬車に繋がれている馬に違和感を感じる。
「ゴブ男、この子は?」
「一角獣デ、ゴザイマス」
目の前の馬車に繋がれた一角獣。
しかし、黒くてゴツくてドリルみたいに角がネジれていて
——なにより目つきが最悪だ。
(まぁいいわ。ユニコーンの馬車でお城に向かうなんて全女子の夢。ちょっとイメージと違うけど全然オッケーよ)
そうしてメイベルが馬車の座席に座るなり、オークの御者はユニコーンに鞭をくれた。
「うぉっ!」
メイベルはオッサンのような声でのけぞった。
馬車は猛烈な勢いで走り出す。
ふと見るとゴブ男も必死に馬車にしがみついている。
(手加減なしってことね! でもこれならアンブロウス城まできっとすぐだわ、タイパ最高!)
メイベルは覚悟を決めて馬車の手すりを握りしめた。
一時間後。
「お城ニ付キマシタ」
息も絶え絶えのゴブ男がさし示したのは……
黒い城壁。
溶岩みたいな堀。
聳り立つ尖塔。
門を守るガーゴイル。
上空を飛んでいるのは、多分鳥じゃない。
「……どうみても魔王軍の城ね」
メイベルは不敵に微笑んだ。
黒ユニコーンの馬車は少しだけ速度を落とし、お堀にかかる跳ね橋を渡った。
◇◇
メイベルとゴブ男はお城の中庭に止めた馬車から降りた。
「おう、ゴブルギ、ご苦労だったな。もしかしてそちらのご婦人が……」
メイベルは振り返った。
そこにいたのは巨大な両手剣を肩にかついた隻眼の大男。
抜き身の刃には無数の刃こぼれ。
数々の敵を葬ってきたのだろう。
眼帯のない方の血走った片目がニヤリと笑う。
(出たー! 脳筋突撃隊長、魔王軍幹部Aってところね!)
「ハイ、メイベル様デス」
「クックック〜! 王都からはるばるお疲れ様ですなぁ〜」
もう一人、今度は後ろにいた真っ黒でボロボロのローブの男がフードの奥から怪しげに笑う。
細腕に握られているのは背丈ほどの曲がりくねった木のワンド。
先端のオーナメントが紫色に怪しく光る。
(……こっちは胡乱な黒魔術師。絶対最後に裏切るやつ、声でわかるわ。魔王軍幹部Bね!)
「俺は戦士長のガルド。こっちは魔術師のゼノスだ。よろしくな」
幹部Aは人懐こい笑顔でメイベルに話しかけてきた。
(あれ? 見た目やばいけど意外とアットホームなのかしら?)
とっさに、メイベルは全力笑顔の会釈で応じた。
「メイベル・オルドリッジです。以後お見知り置きを」
◇◇
そうしてメイベルはゴブ男の案内で城主の部屋にたどり着いた。
「アレクシス様、メイベル様ガ、オツキニナラレマシタ」
(いよいよね……幹部A、Bですらあの風体。きっとラスボス魔王は絶対身長が三メートルくらいあるムキムキマッチョで上半身裸。我が生涯に一片の悔いなし!とか言って拳を突き上げるタイプよ)
メイベルはゴクリと唾を飲み込んだ。
「入れ」
ゴブ男がドアを開け、メイベルは足を踏み入れた。
アレクシス・アンブロウス辺境伯。
服の上からでもわかる無駄な脂肪のない細マッチョの長身。
整えられた黒い髪に、ペールブルーのクールな瞳。
「遠路ご苦労だった。私がアレクシス・アンブロウスだ」
低く落ち着いたバリトンボイスが部屋の中に響いた。
(ん……!?めっちゃ普通にイケメンじゃない。王都の夜会で令嬢たちが群がるタイプ……)
勝手に世紀末覇者を想像していたメイベル。
心の中で謎の敗北感に襲われていた。
(だけど……さっきとは逆に心は冷徹かも、油断禁物よ!)
メイベルは優雅かつ完璧なカーテシーで答えた。
「メイベル・オルドリッジでございます。お初にお目にかかります。閣下」
フッ、とアレクシスは笑って続けた。
「すでにわかっていると思うが我が領地は国境の最前線だ。安寧な王都の暮らしとは違う。我々は王国を守るため、周辺の部族や魔物たちとも友好関係を築く必要がある。もちろん場合によっては戦もな」
「……はい」
「ここでは独り者は信用されづらい。私には妻が必要なのだ。それで、王と相談し君を娶ることにした」
アレクシスは話をいったん区切り、冷徹に言い放った。
「しかし私は君を愛するつもりはない。内政と戦で忙しい。結婚式の予定も、ない」
アレクシスはそっと視線を落とした。
普通なら、ここで愛されない結婚と知り、泣き崩れるところかもしれない。
心に痛みを感じながら、机の引き出しを探り、1枚の羊皮紙を取り出す。
「これが婚姻の条件だ」
一、花嫁は一年間、辺境伯夫人として領地で生活する。
二、一年後、双方の意思を確認し、本婚姻を継続するか離縁するか決定する。
三、その間、双方の合意なく夫婦関係を持ってはならない。
「主に外交行事だが、用事のある時は呼ぶので付き合ってもらう。おそらく月に一度か二度くらいだろう。それ以外は好きにしろ。わかったら署名して下がれ。嫌なら今すぐ帰っても良い」
メイベルは下を向き、紙を見たままプルプルと震え出した。
(泣かせてしまったか、やはり王都の令嬢ではなく地方貴族の方が……しかし……)
アレクシスはバツの悪そうな顔で紙を戻そうとした。
(神!……神条件すぎる……!!)
メイベルは湧き上がる歓喜の感情を必死で堪え、震えていたのだ。
(愛する暇がない?放置?夫婦の義務もなし?魔王城?イケメン旦那の資産を使ってこのお城でのんびり食べまくりお昼寝しまくりで1年過ごしていいってことよね!夢のニートライフ、執事付き!!ゴブ男だけど……神様ありがとう!!!)
「気分でも悪いのか?」
心配そうに顔を覗き込んだアレクシスに、メイベルはキリッ!と顔をあげ視線を返した。
そして契約書をひったくると机のペンをとり、サラサラとサインをする。
「一年間、よろしくお願いいたします、閣下!」
メイベルは人生最高の笑顔でアレクシスを見据えた。
「お、おお……」
アレクシスは唖然としてメイベルの瞳を見返した。
「ゼノスのCVは絶対⚪︎⚪︎だろ!」とか「メイベルそれ魔王じゃない⚪︎オウや!」と思っていただけた方は、ぜひページ下部の【★★★★★(星)】(5コで!)と【ブックマーク】をぽちっと押してやってください。
お疲れゴブ男の食事が大盛りになります(執筆の原動力)!
(感想も「夢のニートライフ!」とかでも!)




