第1話 いざ辺境伯の領地へ。迎えに来たのは魔物でした!
「メイベルさんもお気の毒、よりにもよってあんな東の果てにお嫁に行くなんて」
「熊が出るって本当かしら?食べられちゃいません?」
「辺境に出るのはオークですってよ、学校で習いましたでしょ!」
「きゃー!」
華やかな王都の夜会。
着飾った令嬢たちの噂話がヒソヒソと響く。
その噂の主である、メイベル・オルドリッジ伯爵令嬢。
彼女はテーブルの上の料理をひたすら食べ続けていた。
モグモグモグ……
チーズと生ハムのカナッペを食べ尽くす。
モグモグモグ……
次はレバーペーストのバゲット添え。
(美味しい、美味しすぎる……しかも無料……)
メイベルは先週の誕生日、父からとんでもないプレゼントを受け取っていた。
王国東の果て、アレクシス・アンブロウス辺境伯との縁談である。
どうやら王室から多額の支度金が支払われるとのこと。
もちろんメイベルの懐には入らず、そのまま実家の借金の返済に充てられる。
……しかしメイベルは心の中では快哉を叫んでいた。
(これで貧乏実家暮らしともおさらばよ。グッジョブだわ、お父様!)
悲壮感など微塵もない。
数少ない王都の親友の一人が心配そうに話しかけてきた。
「メイベル、辺境ではお水に気をつけてね」
「平気平気!この日のためってわけじゃないけど、趣味と実益を兼ねて身につけた薬草知識がきっと役に立つわ」
「お腹は壊す前提なのね……」
「うっ、でもまぁなんとかなるわよ!」
メイベルは笑顔でスプリッツァのグラスを傾けた。
◇◇
それから二週間後。
メイベルはアンブロウス辺境伯領の端にある、小さな街の広場に降り立った。
王室の用意した早馬車に揺られて長旅の末だ。
寒風吹き荒ぶ周囲を見渡す。
背の低く無骨な建物が並んでいる。
王都の街並みとは全然違う。
(やっぱりちょっと物騒よね。でも借金取りに比べたらどうってことはないわ)
行き交う人々も皆ガタイがよく、男たちは皆、武装している。
(さてさて、どんなイケメン騎士が現れるのかしら……ご挨拶の練習をしておかないとですね)
「お迎えありがとうございます。オルドリッジ伯爵家のメイベルと申します」
そう言って会釈(あくまで練習だ)すると、目の前に小さな人影が現れた。
尖った耳。
鋭い目つき。
緑色の肌。
(ヒエッ!)
声が出そうになるのをメイベルはこらえ、平静を装った。
これ……ゴブリン!?噂に聞くモンスター!?
「……どちら様?」
「アンブロウス様カラノ使イデ、ゴザイマス。今後奥様ノオ世話ヲ、仰セツカッテ、オリマス」
「いや……あの……」
「丁寧ナ、ゴ挨拶、アリガトウ、ゴザイマス」
メイベルは心の中で冷や汗を流した、しかし……
(まって……お世話を?……ということは、私もついにかしずかれる側に……!?)
実家では姉たちのパシリに使われ——
数少ない使用人からも無視されてたこの私が——
人生初のマイ執事!
(ちょっと小さくて緑色なのくらい、誤差よ誤差!)
「名前はなんというのかしら」
「ゴブルギボンゴベルギンボルゲリオ、デゴザイマス」
「ごめん、もう1回」
「ゴブルギボンゴベルギンボルゲリオ、デゴザイマス」
「ゴブ男って呼んでいい?」
「ハイ。デハご案内イタシマス。アチラヘ」
ゴブ男は背後に止まった馬車を指差した。
御者は、オークだった。
「ゴブ男普段はなんて呼ばれてるんだよ!」「メイベル食べすぎw」と思っていただけた方は、ぜひページ下部の【★★★★★(星)】(5コで!)と【ブックマーク】をぽちっと押してやってください。
メイベルのお城の食事がよくなるかもしれません!(執筆の原動力)!




