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捨てられ白魔法使いの紅茶生活  作者: 瀬尾優梨
書籍化感謝SS
131/137

アマリアの悩み①

2020年9月10日に、カドカワBOOKSより書籍化します

ありがとうございます!

 どうしよう、とクローゼットの前に立ったアマリアは愕然としていた。


 彼女の手には、質素な木綿製のワンピースが握られている。もうそろそろ暖かくなる季節なので、真冬用の服を片付け、秋に着ていた間服あいふくを出していたのだが。


 もう一度、アマリアは手元のワンピースを見、そっと自分の体にあてがう。

 この家には大きな鏡がないので、真正面から見て確かめることはできないが……この時点で既に、嫌な予感がしていた。


 ちょうど今、ユーゴとレオナルドは一緒に散歩を兼ねて買い物に行っている。玄関の鍵も掛けていることだし、アマリアは着ていた服を脱いで下着姿になると、ベージュ色のワンピースを着てみた――が。


 秋に着ていたときは難なくするりと通ったはずなのに、尻のあたりまで引き上げたところでワンピースの布地がぎちりと音を立てた。

 まるでそれはワンピースが上げる悲鳴のようで――さあっとアマリアは青ざめる。


 ワンピースを体にあてがったときから、そんな感じはしていたのだが――


「……太った」


 残酷な事実を目の当たりにし、アマリアはワンピースを中途半端に体に纏った状態のまま、床に頽れた。


 確かに、冬の間においしいものをたくさん食べた自覚はある。だが冬服を着ている間はなんとも思わなかったし、アマリア以上によく食べるレオナルドやユーゴの体型にほとんど変化がないようなので、油断していた。


 だが冷静に考えれば、分かったことだ。

 レオナルドは男性でしかも傭兵なので、普段から体を動かす。ユーゴは一応子どもなので、基礎代謝も高い。よく動く彼らと、どう考えてもインドア派の自分を同列に扱ってはならないのだ。


 このままだとアマリアは順調に栄養素を体に蓄え――身も蓋もない言い方をすると、よく肥え――贅肉まみれになってしまうのではないか。


 レオナルドもユーゴも気遣いができるので真正面からは言わないだろうが、彼らに「アマリアさん、太ったかも」とか、「最近のママ、お腹にお肉がたくさん付いているね」などと思われたら、と考えるだけで、恥ずかしいやら情けないやらで、悶えてしまう。


「……ダイエットしないと」


 顔を上げ、アマリアは決意した。

 目標は、今は自分の尻で引っかかっているワンピースを、難なく着られるようになること、だ。










 翌日から、アマリアはダイエット計画を実行することにした。

 といっても、アマリアは運動は好きではないし、自分の不摂生ゆえに太ったのだからダイエットに金を使いたくもなかった。


 簡単なのは、食事制限だ。


「あれ? ママ、お肉、それだけでいいの?」


 夕食の席で真っ先に変化に気づいたのは、ユーゴだった。

 今日のメニューは薄切り豚肉のタレ漬け焼きだったのだが、レオナルドの皿には肉が五枚、ユーゴの皿にも三枚半あるのに、アマリアの皿には一枚半――それもかなり小さなもの――しか載らなかったからだ。


 息子の指摘にどきっとしつつ、アマリアは笑顔で頷いた。


「ええ。私はそれほどお腹が空いていないし、ユーゴたちがたくさん食べればいいわよ」

「……それでいいのですか?」

「ええ」


 レオナルドも心配そうに聞いてきたので、アマリアはほら、と野菜がたくさん盛られたボウルを手で示した。


「その分、野菜を食べるから大丈夫よ。ほら、遠慮せずに食べて。ユーゴのお肉は甘めに、レオナルドのは辛めに味付けしているから、温かいうちに食べてほしいのよ」

「わっ、本当!? それじゃ、いただきまーす!」

「……いただきます」


 レオナルドはまだ少しだけ気遣わしげな視線をしていたが、大好きな甘み仕立てだと聞いたユーゴはすぐに気持ちを切り替え、こってりとタレの掛かった肉を頬張り始めた。


「おいしい! タレは甘いし、肉はこんがりしている! レオナルド、レオナルドも早く食べるぞ!」

「はいはい。……ああ、ほら、そんなに急いで食べるから、口の周りが……」


 ユーゴが頬にソースを付けながら食べていたため、レオナルドは苦笑して紙ナプキンでユーゴの口元を拭ってやった。

 ……その隙に、アマリアは自分のサラダに添えていたハムを二枚ほど、ボウルに戻した。一瞬のことだったしユーゴとレオナルドはこちらを見ていなかったので、気づかれなかったはずだ。


(……よし! こうやって少しずつ食事量を減らせば、体重も落ちるし食費も抑えられて――いい感じかも!)


 アマリアは会心の笑みを浮かべ、ドレッシング控えめのサラダにフォークを差し込んだ。











 アマリアがダイエットを始めて、十日ほど経過した。


(うーん……思ったよりも、ウエストは変わっていないな……)


 巻き尺代わりの紐を腰に巻き付け、アマリアは溜息をついた。

 アマリアは毎日の食事量を減らし、家の中でウォーキングをしたり体操をしたりと、痩せるためにできることを少しずつやってみていた。腹が減っても飲み物でごまかし、夜に空腹にならないためにも早めに就寝している。


 紐に赤い印を付けてウエストの大きさを記録しているのだが、そこまで劇的な変化はなさそうだ。たまにウエストを絞れて喜ぶが、翌日には元に戻っていたりと、めざましい進歩は見られない。


(でも、前よりは少しだけ体が軽くなった気はするし……何かしらの形で効果は出ていると、思いたいな)


 くじけそうになったときは、寝室の壁に掛けているベージュのワンピースを見る。ユーゴたちがいないときに、ついついお菓子をつまみ食いしてしまいそうになってもワンピースを見れば、「それでいいのか」と叱られている気持ちになるのだ。


 元々アマリアはスレンダーな体型ではない。胸は同じ年頃の女性よりも豊かだが、かといって腰を絞れているわけではない。尻も大きめなので、ギルドに所属していた頃に「顔は地味なのに、無駄な色気だけはある」という心ない言葉を吐かれたこともあった。


 もう少し、体重が落ちたら。

 腰が細くなって、太ももなども痩せたら。


(ユーゴやレオナルドにも、きれいって思ってもらえたら……いいな)


 くすんだ鏡に映る自分の顔を見、よし、とアマリアは気合いを入れた。

 今日の晩ご飯のメニューは川魚のムニエルと肉の欠片の入ったスープの予定だが、アマリアの分だけ量を減らそう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 書籍化おめでとうございます もしやもう一つの… w [気になる点] 目標があると計画は進みやすい (違うと思うけど)がんばって~ [一言] 冬はエネルギーとらないと と油断して…ねw ち…
[良い点] みんなで食べるごはんは美味しいからしょうがないのです(泣)。
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