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47 指輪の行方②

 どきどきしつつ、アマリアはレオナルドに先を促す。


「……公爵夫人は、お母さんのことを尊敬しているのよね?」

「ええ、おそらくその発言も嘘ではないでしょう。……アマリアさん。確かアマリアさんは公爵様に、何か渡すものがあると言われたんですよね」

「え? ええ、昨日の夜に」

「それ、ひょっとして奪われた指輪じゃないですか」


 レオナルドの指摘に、アマリアはこくっと唾を呑み込んだ。

 公爵は、渡したいもの――渡すべきものがあると言っていた。それが何なのかは聞いていないが、おそらく母に関するものだろうとはぼんやり予想していた。


 父が母との結婚の際に贈った指輪。

 おそらく、あのガラスケースの中では一番価値のあるだろう品だ。


「もしあなたに渡す予定だった品があの指輪なら、公爵様は夫人にはそれを伝えたはず。そして、公爵夫人はルフィナ様のことを尊敬し、自発的にあの部屋を訪れるほどだった」

「……まさか、私に指輪を奪われると思って……?」

「もしくは、ルフィナ様を尊敬しているという話自体が真っ赤な嘘だった場合。公爵夫人がルフィナ様を心の奥では憎んでいるとしたら――いきなり現れたルフィナ様の娘に、夫の最大の愛情の証である結婚指輪を渡したくないと思うのではないでしょうか」


 レオナルドの指摘はどれも容赦がなくて、外部に漏れたら首を刎ねられるかもしれないほどだ。

 だが内部犯を考えたとき、一番動機がありそうなのも侵入のための条件が揃っているのも公爵夫人だ。夫人は普段からあの部屋に出入りしていたそうだから、もし彼女が部屋の近くにいてもわざわざ誰も気に留めない。もし気に留めたとしても――公爵夫人がそんなことをするはずがない、と屋敷の使用人たちならすぐに切り捨ててしまうだろう。


 だが。


「……公爵夫人が犯人なら、夫人がガラスケースを割ったということなの?」


 アマリアの指摘に、レオナルドは顔を上げた。


「窓ガラスはともかく、あのガラスケースは相当分厚かったわ。公爵夫人は私よりも華奢な方だったし、ユーゴは魔法の気配もないって言っていた。そんなお方が、ハンマーか何かで叩き割ったということなの?」

「あの割れ方は、非力な人間が何度もガラスケースを打ち付けて砕いた証拠です。僕くらいの力の者だったら、ガラスの割れ方はもうちょっと違うはずなんです」


 どうやらレオナルドは、先ほど応接間で見た光景をアマリア以上にしっかり把握していたようだ。

 アマリアは彼の観察眼に内心舌を巻いたが、レオナルドはまだしっくりこないのか、腕を組んで考え込んでいる。


「ただ……指輪の宝石はとても大きかったのでしょう? そんな大きなものがなくなったのなら、隠す場所にも難儀するはずです。公爵様だって当然、指輪が入る大きさの場所は全て探らせたはずです。そしておそらく、公爵夫人は一度も屋敷を出ていないから、隠す場所がない」

「……それじゃあ、やっぱり外部犯なの?」

「……その場合、公爵様が調査を留めるような発言をしたことが気になります」


 このレオナルドの指摘にはアマリアも思うことがあったので、頷いた。


「王様にしか伝えないそうなのよね。もし指輪を盗んだ犯人をすぐに見つけたいのなら、警備に伝えるべきだと思っていたの」

「はい。それに執事のアダン殿の様子も気になりますし、指輪が盗まれたと聞いて公爵夫人が取り乱したというのも引っかかります。先ほども、夫人はアマリアさんのみならず、部外者もいいところの僕もあっさり通しましたし――」

「……色々引っかかる点があるわね」


 悩みながらあれこれ話をしていると、しばらくして控えめにドアがノックされた。


「はい……?」

「トビアスです。アマリア様、入ってもよろしいでしょうか」

「はい、どうぞ」


 アマリアがドアを開けると、数時間ぶりにトビアスがやって来た。おそらく午前中ずっと屋敷の中を調査していたのだろう、早朝に見たときよりさらにげっそりしていた。


「あなた方にも色々不便をお掛けして、本当に申し訳ありません」

「いえ、お気になさらないでください。むしろ、トビアス様たちの方がお疲れになっているでしょうし……」

「ありがたい言葉に感謝します。それから、アマリア様。何かと不自由ばかりお掛けしていますし、私でできることがあればなんでもおっしゃってください」

「えっ、そんなの申し訳ないです。トビアス様たちはただでさえお忙しいのに」

「いえ、客人をもてなすのも私の役目です。……そもそも私は、あなたを厄介事に巻き込まないと約束した上であなた方をお連れしました。それなのに強盗事件に巻き込んでしまったとなれば――グラシエラ様に向ける顔がございません」


 そう言うトビアスの声は、明らかに震えている。公爵家の次期当主が田舎の修道院の院長に対してこれほどまでへりくだり、怯えているというのは非常に珍しいことだが、彼にとっては死活問題なのだろう。


(確かに、院長先生は約束を破る子にはすごく厳しかったな……)


 ちらっと隣を見ると、レオナルドも同じことを思っていたようで遠い眼差しになっている。彼は基本的に大人しいいい子だったが、たまに他の子に引きずられていたずらに参加させられ、院長先生に叱られていたものだ。


(といっても、トビアス様にできることって……あっ)


「あの、トビアス様。トビアス様は、黄色のアクセサリーをご存じでしょうか」


 アマリアはなるべく平然を装って問う。ここで「母の形見」と言えばアダンと同じ結果になりそうなので、わざと抽象的に尋ねることにした。


 アマリアの問いに、トビアスは目を瞬かせ、首を捻った。


「黄色のアクセサリー……ですか。あの、黄色というのはどの部分の色でしょうか」

「宝石だと思うのですが、黄色い宝石の付いた装飾品は、公爵家にございますか」

「うーん……黄色はないですね。アマリアさんはご存じでないかもしれませんが、そもそも黄色い宝石はレアンドラにはほとんど存在しないのです。たいていのものは赤か青、緑、紫系統のいずれかで、一番黄色に近い色合いの宝石でも、ピネリ色のものくらいですかね」

「そうですか……」

「あ、もしよかったら宝飾品をご覧になりますか? ルフィナ様の部屋は調査中なのですが、離れにある宝物室なら私がいればお通しできます」

「いえ……それこそトビアス様のお時間を割くことになります」


 アマリアはそう言ったが、トビアスは笑顔で首を横に振った。


「アマリア様が宝石に興味を抱かれた、と言えば、父も母も納得するはずです。それに、宝物室は少し離れた場所にあるので調査の妨げにもなりませんし、あなた方も気分転換になるでしょう。私も、少し歩いて休憩する時間なのでちょうどいいのです」

「そうですか……でしたら、お願いしてもいいでしょうか」

「はい、もちろんです」


 トビアスは笑顔で頷いた。

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