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33 ドレスを選ぼう①

 最初トビアスが言っていたとおり、馬車の旅は二日ほどで終わった。


 馬車の窓にはカーテンが掛かっていたので外の様子は見えなかったが、かなりの速度で運転したようだ。だというのに車内の揺れはそれほどでもないし、途中立ち寄った宿はレオナルド曰く、「宿屋協会に登録されている中では最高級」のものばかりだった。出された食事も豪華で量が多すぎるのでアマリアはほとんど残してしまい、全てユーゴがおいしくいただくことになってしまった。


 アマリアやユーゴは、王都に来たことがない。レオナルドも傭兵の仕事でギルド本部に行ったくらいらしく、貴族の邸宅が並ぶエリアに来ることはなかったという。


 レアンドラ王都は初代王妃の名を冠してマリアネラというが、王妃マリアネラが水属性の魔法が得意な黒魔法使いであり、しかも王都の側を流れる大河から水を引いていることから、「水乙女の都」とも呼ばれている。


 レアンドラ王国のほぼ中央、大河の側に広がる王都は堅牢な城壁に囲まれた城塞都市だが、内部には水路が張り巡らされ、大河から流れる水を地表水として市街地に引く役割を果たしていた。この水路とは別に下水も完備しているので、水の浅い水路ならば子どもが入って遊べるくらいには衛生的だった。


(完全な観光として来たのだったら、いろんな場所をレオナルドやユーゴと一緒に回ってみたかったな)


 カーテンを少し開き、そこから華やかな王都の風景を遠目に見つつ、アマリアは嘆息した。露店の冷やかしや食べ歩きなどもとても魅力的だし、観劇などもしてみたい。一人でも十分楽しめるだろうが、大好きな二人も一緒ならもっともっと幸せな気持ちになれるはずだ。


 とはいえ、今の目的は公爵家訪問。真っ直ぐ貴族用の邸宅に向かい、公爵に挨拶するのだと思いきや――


「……ここって、お店?」


 馬車が停まったのは、華やかな外観の店の前だった。どう見ても貴族の邸宅ではなく、店――それもディスプレイされているものを見る限り、服飾店のようだ。


 馬車のドアが開き、執事のアダンが顔を覗かせて一礼した。


「長旅お疲れ様でした。まずはこちらで身仕度を調えていただきます」


(……ああ、それもそうか。こんな格好で訪問することはできないよね)


 一応アマリアたちはぱりっとした普段着を着ているのだが、いくらトビアスの頼みだとはいえ貧相な格好でお邪魔するわけにはいかない。「全ての経費は公爵家持ち」ということになっているので、服の代金も任せればいいだろう。


 馬車を降りる際、アマリアたちは大きな布のようなものですっぽり体を覆われ、そのまま入店することになった。なんだか犯罪を犯した人みたいだが、貴族用の店に貧相な身なりの物が入る姿を見られるのは都合が悪いのだろう。


 店内は、アマリアが知っているどの「服飾店」よりも煌びやかで、広くて、豪華で、目が眩むかと思った。もっと客がいると思ったが店内はがらんとしていて、シックなお仕着せ姿の店員が数名と、一人だけ華やかなドレスを纏った若い女性がいるだけだった。


 女性はドアベルの音を耳にして振り返ると、「あら!」と声を上げた。そしてアマリアたちの隣からトビアスが進み出ると、ふわりと微笑む。


「お帰りなさいませ、旦那様。……そちらの方々が?」

「そうだ。アマリア様と、アマリア様のご子息のユーゴ殿、そして恋人のレオナルド殿だ。ユーゴ殿とレオナルド殿は私が請け負うので、アマリア様は任せた」

「ええ、お任せくださいませ」


 女性は胸を張ると、入り口に突っ立ったままのアマリアの手を取ってきた。


「お初にお目に掛かります。アマリア様、とお呼びしてもよろしくて?」

「えっ!?」


 ぎょっとして、アマリアは女性を凝視した。正面に立つと、女性はアマリアよりずっと小柄で可愛らしい顔立ちをしていることが分かった。だが、おそらく年齢は二十代後半。

 ドレスも若い娘が好みそうな色合いではなく少し彩度を落としたエメラルドグリーンで、可愛らしさを保ちつつも年相応の落ち着きを演出しているようだ。


 戸惑っているとトビアスが振り返り、女性を手で示した。


「アマリア様、彼女は私の妻のオリビアです。年も近いでしょうし、仲よくしてやっていただけると嬉しいです」

「さ、さようでしたか。よろしくお願いします、オリビア様」

「ええ、よろしく」


 オリビアは微笑むと振り返り、「アマリア様のためのドレスを準備します!」と店員たちに告げた。もしかするとトビアスは先だって手紙を送り、店を貸し切ったり妻を動員したりと根回ししていたのではないか。


「あっ、レオナルド、ユーゴ。ちょっと行ってくるわね」

「はい。……僕たちまで着飾ることになりそうでちょっと不安ですが、なんとか乗り越えてきます」

「ママ、おれちゃんとお利口にするからね!」


 レオナルドとユーゴは、トビアスやアダンと一緒に別の部屋に行くようだ。

 ユーゴが「お利口」にし、いきなり「えいっ!」としないよう祈るばかりだ。

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