十一 証言
清辰とその部下たちに囲まれ、広間へ足を踏み入れると、待機させられていた受験者たちの視線が一斉に玉瑶へ集まった。
ひそひそと囁き合う声が、あちこちから聞こえる。
清辰は玉瑶を伴ったまま広間の中央まで進み、受験者たちを見渡した。
「お待たせしました」
ざわめきが収まっていく。
「范玉瑶への問事と、荷置き場の確認を行いました。現時点では――夏陽峻の笛を盗んだのは、彼女であると判断しています」
広間がどよめいた。
「やっぱりな。そいつをさっさと失格にして、連れて行ってくれ」
陽峻がシッシッと虫でも追い払うように手を振る。
少し――ほんの少しだが、陽峻の曲が新譜で申請されていることを教えたくなくなった。
玉瑶は苛立ちをなんとか抑え、打合せ通り、弾かれたように清辰を振り返った。
「違います! 私は盗んでません!」
「お前、大人しくしろ!」
「本当に私じゃありません! 誰かが勝手に私の荷へ入れたんです!」
清辰に詰め寄ろうとする玉瑶を、部下たちが腕を掴んで押さえ込む。清辰はゆっくりと振り向き、玉瑶を見下ろした。
目が合った瞬間、玉瑶は息を詰めた。
先ほどまでの柔らかな面影はどこにもない。そこにあるのは、罪人を見定めるような冷徹な眼差しだけだった。
演技だと分かっているはずなのに、胃の腑がきゅっと縮む。
「先ほども申し上げましたが、あなたの荷から笛が見つかったことは事実です」
清辰は何の感情も交えず、淡々と告げた。玉瑶は喉を鳴らし、生唾を呑む。
「昼休み中、あなたは一人になった時間があったそうですね」
「そ……それは、静かなところで調弦をしたかったからで――」
「あなたの証言だけで、窃盗の疑いを覆すことはできません」
清辰は玉瑶の言葉を遮った。それから、受験者たちへ視線を向ける。
「ただし、昼休みの間に荷置き場の周辺で不審な人物を見た方、あるいは范玉瑶の荷袋へ、彼女以外の者が触れるところを見た方がいるなら、今のうちに申し出てください」
誰も口を開かない。受験者たちは互いの顔を窺うばかりだった。
清辰はしばらく待ったあと、静かに告げる。
「これ以上、彼女の無実を裏付ける証言がなければ、范玉瑶を窃盗の嫌疑で連行します」
「そんな……!」
悲痛な声を上げる玉瑶を無視し、清辰が部下たちに頷いてみせる。腕を引かれ、広間から連れ出されそうになった――そのときだった。
「……待ってください」
広間の後方から声が上がった。振り返ると、人垣の中から一人の男が進み出てくる。
徐文成だ。
文成は拱手し、ゆっくりと顔を上げる。
「徐文成と申します。……どうか、彼女を離してあげてください」
「……何かご存じですか?」
清辰が尋ねる。文成は一瞬、言葉を選ぶように間を置いた。
「昼休みが終わる少し前……荷置き場の前を通りました。そこで、見たんです」
「何をですか?」
文成は言いにくそうに眉を寄せ、視線を落とす。
「……獏蕗按が、彼女の荷袋を漁っているところを」
広間が俄かに騒がしくなる。文成は硬く拳を握りしめ、続けた。
「私が見たとき、あの子は一人でした。手元は隠れていて、何をしているのかまでは分かりませんでしたが、棚に腕を突っ込んで、中を探っているように見えました」
清辰は腕を組み、受験者たちの向こうへ視線を遣った。つられるように皆が振り返ると、広間の後方、壁際には蕗按が立っていた。
蕗按は小鼓を抱きしめ、呆然と文成を見つめている。
「獏蕗按、どうですか?」
清辰に問われ、蕗按は小さな口をきゅっと引き結んだ。
「俺は昼休み、范姐姐といたときしか、荷を触ってない。そのときは、昼飯の芋を取っただけ。笛なんて知らない」
「……そうですか」
清辰は小さく息をつき、文成と蕗按を交互に見た。
「ということは――獏蕗按と、徐文成。あなたたちのどちらかが、嘘をついているということになりますね」
「……どちらか?」
そのとき、誰かの笑う声が聞こえた。
「失礼ながら、盧校尉。それはおかしいでしょう」
口元に笑みを湛えたまま、前へ進み出たのは、問事の前に玉瑶を庇ってくれた試験官だった。顧明徳という名だと、先ほど清辰から聞いていた。




