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リインキャットネーション ―駆け出し冒険者と巡る異世界旅―  作者: カミツキ
交易都市アイルポリス

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第7話 森へ帰るもの

 ガルドの長槍が突き出された。


 レオナは横へ跳ぶ。

 穂先が胸当てを掠め、南門の石壁へ当たった。


「ガルド!」


 フェリシアが横から入り、バックラーを槍の柄へ押し当てる。


 ガルドは槍を引こうとした。

 右腕が一度止まり、それから不自然な角度で肘が曲がる。


 首の後ろに張りついたスライムが脈打った。

 青い身体から細い筋が何本も伸び、ガルドの襟の下へ入り込んでいる。


「聞こえているの?」


 セナが呼びかける。


 ガルドの目だけが動いた。


 口が開く。


「にげ……」


 顎が閉じた。

 槍の柄が回り、フェリシアの盾を下から跳ね上げる。


 動きは速い。

 だが、昨日までのガルドとは違った。


 足が槍へついていかない。

 肩と腰が同時に動き、身体全体が引かれている。


 人間が武器を振っているのではない。

 武器を持った身体が、外から動かされている。


「ニル、腕を止めて!」


 フェリシアが槍を盾で受け流す。


 ニルは腰の縄を外し、輪を作った。


 ガルドが踏み込む。

 今度の穂先はセナへ向いた。


 レオナが間へ入った。


「レオナちゃん!」


 レオナは剣で槍を受け止めず、刃の腹を柄へ添えた。

 槍が進もうとする方向へ、そのまま剣を滑らせる。


 穂先がセナの肩から外れた。


 ニルの縄がガルドの右腕へ掛かる。

 引かれた腕が止まった。


 ガルドの左手が槍から離れ、腰の小刀へ下がる。


 フェリシアが踏み込み、バックラーを胸へ押し当てた。


 ガルドの背中が門の壁へぶつかる。


「押さえて!」


 ニルが縄を引く。

 セナも反対側から加わった。


 三人に押さえられても、ガルドの身体は前へ出ようとした。


 首の後ろで、スライムの身体が盛り上がる。


 薄く広がっていた青い膜が一か所へ集まり、拳ほどの塊になった。


「そこが本体です!」


 セナが叫ぶ。


 レオナは剣を構えた。


 青い塊はガルドの首へ張りついている。

 刃を深く入れれば、ガルドまで斬る。


 ガルドの左手が小刀の柄へ触れた。


 指が震える。


 小刀を抜く代わりに、ガルドは自分の手を腰帯へ押しつけた。


 青い身体がもう一度脈打つ。


 ガルドの顔が歪んだ。


「いま……だ」


 レオナはガルドの右肩側へ回り、剣先を横に寝かせた。


 刃先を首へ向けず、盛り上がった青い塊の外縁へ差し込む。

 肩の丸みに沿わせそのまま外へ削いだ。


 スライムの身体が裂けた。


 細い筋がガルドの襟から抜け、青い塊が地面へ落ちる。

 落ちた身体が再び縮んだ。


 レオナへ跳ぼうとする。


 ニルの矢が中央を貫き、石の地面へ縫いつけた。


 フェリシアのメイスが振り下ろされる。

 青い身体が石の上で潰れ、動かなくなった。

 ガルドの膝が折れた。


 フェリシアが盾を捨て、倒れる身体を支える。


「ガルド」


 セナが首元へ手を当てた。

 襟の下には、細い赤い跡が何本も残っている。


「息はあります。意識も」

「……槍は」

 ガルドが目を開けた。

「誰にも当たっていないわ」


 フェリシアが答える。


 ガルドは地面へ横たわったまま、レオナを見た。


「また、助けられたな」

「ガルドさんも止めてくれました」

「止めきれていない」

「でも、あの一瞬がなかったら斬れませんでした」


 門の外では、別のスライムが二匹、草地を西へ進んでいた。


 こちらを振り返りもしない。


 * * *


 潰れたスライムは、布を敷いた木箱へ入れられた。


 ギルドの検査台で身体を広げると、通常のスライムにはない細い筋が、裂けた部分から何本も出ている。


 ロックメインを調べた老人が、筋の一本を細い棒で持ち上げた。


「これを首筋へ入り込ませて、身体を動かしていたようだな」

「ガルドさんの技まで使っていたんですか」


 レオナが聞く。

 フェリシアは首を横へ振った。


「槍を持つ身体を動かしていただけよ。足運びも、狙いもガルドとは違ったわ」


 支部長は二枚の報告書を机へ並べた。


 一枚目には、ロックメイン変異個体。

 もう一枚には、スライム変異個体と書かれている。


「通常種にはない性質を持つ魔物が、同じ森の周辺で二種類見つかったことになる」

「このスライムが、ロックメインを操っていたんでしょうか」


 記録係が尋ねる。


「決めつけるな」


 支部長が答えた。


「ロックメインの死体に、この筋が入り込んだ痕跡はなかった。二つの変異に関係があるかどうかも分からん」


 老人は潰れた青い身体を見た。


「単独なら暫定D。だが、取りついた相手が強ければ、被害もその分だけ大きくなる」

「調査範囲を広げますか」

「予定どおり森の西と北を回れ。ほかの変異個体がいないかも確認する」


 調査隊の出発は、翌朝へ延期された。


 ガルドは首へ包帯を巻き、ギルドの長椅子に座っていた。

 腰から小さな革袋を外し、レオナへ差し出す。


「少ないが、装備の足しにしろ」


 袋を受け取ったレオナの手が下がる。硬貨が触れ合い、重い音を立てた。


「こんなに受け取れません」

「命の礼だ。それでも足りん」

「でも、私も助けてもらいました」

「この先も冒険者を続けるんだろ」


 ガルドはレオナの胸当てへ目を向けた。


「なら、装備はちゃんとしろ。次も運よく吹き飛ばされるだけで済むとは限らん」


 レオナは両手で袋を受け取った。


「ありがとうございます」


 今夜はいくら食べても許されるらしい。


 この数日の中では、最もまともな報告である。

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