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リインキャットネーション ―駆け出し冒険者と巡る異世界旅―  作者: カミツキ
交易都市アイルポリス

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第6話 一匹とは限らない

 解体場を出ると、レオナは鍛冶屋へ向かった。


 布で包んだ剣を台へ置くと、腕の太い男が鍔の近くを指でなぞった。


「刃は無事だ。柄の中と鍔を替えれば使える」

「今日中に直りますか」

「急いでも夕方だな」


 レオナは財布を開き、中の硬貨を数えた。


 男はその手元を見て、剣を台の奥へ引いた。


「緊急討伐の参加者だろ。支払いは報酬が出てからでいい」

「でも」

「ギルドから話は来てる。逃げるなら剣を置いていけ」


 レオナは空になった布を畳んだ。


「逃げません」

「なら夕方に来い」


 人間は信用している相手から物を預かり、逃げないようにもするらしい。

 どちらが目的かは分からない。


 吾輩は鍛冶屋の入口で身体を伸ばした。炉の熱が床まで届いている。


「猫さん、行くよ」


 レオナが外へ出る。

 吾輩は暖かい床とレオナの足を見比べた。


 鍛冶屋には魚がない。

 吾輩も外へ出た。


 冒険者ギルドへ戻ると、受付の女が参加記録へ印を押した。


「昨日の働きは実績に残ります。昇格までは、通常依頼をあと一件です」

「あと一件……」

「採取でも護衛でも構いません。次は、自分で受けた依頼を最後まで終えてください」

 レオナは掲示板に並ぶ依頼票を見た。

「次は、ちゃんと終わらせます」


 剣の修理が終わったのは、その日の夕方だった。


 新しい鍔は以前より色が明るく、柄を握ると革の巻き方も少し違っている。レオナは鞘から刃を半分だけ出し、鍛冶屋の男へ頭を下げた。


「ありがとうございます」

「礼は代金を払ってからにしろ」


 * * *


 翌朝、レオナは南門まで調査隊を見送りに来た。


 フェリシア、ガルド、ニル、セナの背には、二日分の水と食料がある。ニルの腰には目印に使う白い布が束ねられていた。


「何もなければ、二日で戻るわ」


 フェリシアが予備の丸盾を持ち上げる。


「同じ大きさの足跡を見つけても、今度は戦わずに帰る。約束するわ」

「気をつけてください」


 レオナは四人の顔を順に見た。


 吾輩は門の脇に積まれた木箱へ上がった。

 朝日が蓋へ当たり、石の床より暖かい。


 門の外では、青いスライムが草地を西へ進んでいた。


 一匹。

 その後ろに、もう一匹。


 先日、森から逃げてきたものたちらしい。どれも人間の足を避け、沼と森のある方角へ戻っていく。


「もう戻り始めてるのね」


 セナが足元を通る一匹を見送った。


「大きなロックメインがいなくなったからでしょうか」

「調べてみないと分からないわ」


 フェリシア、ニル、セナが先に門を出る。

 ガルドは最後に続き、吾輩のいる木箱の前を横切った。


 吾輩の右耳へ、濡れた布を石の上で引きずるような音が入った。


 ほかのスライムが進む音とは違う。


 木箱の下に、一匹だけ動かない青い身体があった。

 平たく地面へ広がり、人間の靴が近づいても避けない。


 吾輩は前足を引いた。


「猫さん?」


 レオナが吾輩の顔の向きを追う。


 青い身体が縮んだ。


 地面へ押しつけられていた水が、中央へ集まる。


「ガルドさん、後ろ!」


 スライムが石の上から跳ねた。

 ガルドが振り返るより先に、青い塊が首の後ろへ張りついた。


「な――」


 スライムの身体が襟の内側へ流れ込み、両肩へ薄く広がる。


 ガルドの右手が背中へ伸びた。


 指先が届く前に、腕が止まった。


 長槍の石突きが地面へ落ちる。


「ガルド?」


 フェリシアの口元から笑みが消えた。

 ガルドの肩が一度、大きく跳ねた。


 首は前を向いたまま、両腕だけが長槍を持ち上げる。


 金属の穂先が、レオナへ向いた。

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