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リインキャットネーション ―駆け出し冒険者と巡る異世界旅―  作者: カミツキ
獣人族の街

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第13話 知らない言葉

 捜索は、日が落ちる前に始まった。

 街の獣人たちは山道に慣れている。シャノワは通訳として、レオナと捜索隊の間に立った。


 レオナは何度も口を開きかけた。


「シャノワさん。『すぐ追いましょう』って言ってもらえますか」

「分かりました」


「ヌジ カスメ リコフ、キツキサハ キメ ヂツヨリボ イエフンツリツヨケ」


 シャノワは山道と足跡を示しながら続けた。

 獣人たちは頷いたが、走り出しはしなかった。


「何て言ったんですか」

「日が落ちる前に、足跡のある場所まで確認しましょう、と」

「私は、『すぐ追いましょう』と言いました」

「山では、そう言うと迷います」


 シャノワは山の方を見た。

 レオナは口を閉じ、山道へ並び直す獣人たちを見た。


「次から、急いでいることも入れてください」


 シャノワは頷いた。


 捜索隊は山道へ入った。

 吾輩はレオナの鞄から下りた。


「猫さん?」


 山道は狭い。鞄は揺れる。人間の足音は多い。

 地面を歩く方がましである。

 吾輩は草の少ない岩の上を選んで進んだ。


 日が落ちるにつれ、山の匂いは濃くなる。


 落ち葉。

 湿った土。

 獣の足跡。

 知らない花。


 その中に、少年の匂いが細く残っていた。

 吾輩は鼻を動かした。

 レオナが吾輩の向いた方を見た。


「どこ行くの?」


 シャノワが近づき、地面へ膝をついた。黒い耳が少し前へ倒れる。


「小さい足跡があります」

「この先かもしれません。シャノワさん、伝えてください」

「アハチウフ クメサ カラクリテ」


 シャノワが声をかける。

 捜索隊は列を狭めた。


 さらに奥へ進むと、山道の横に赤い布切れが落ちていた。少年の赤い上着の裾と同じ布である。


 レオナが拾う。

 その手が止まった。

 前方の木々の間に、人影が立っていた。


 男だった。


 夕日ではない。

 木の隙間から落ちる薄い光の中に、男は立っていた。


 レオナの肩が動かない。


 吾輩には、匂いが届かない。

 だが、レオナの足は止まった。


「ウカセオソ、レオナさん」

 シャノワは小さく呼んだ。

「え?」

「ごめんなさい。気を付けてください」

 レオナは頷いた。


 男が手を伸ばしたように見えた。

 吾輩の背中の毛が立った。


 風が来る。

 草の匂いだけが通る。


 男の匂いはない。


 レオナの右手が剣へ下りる。


 握らない。


 ただ、柄の上に指を置いた。


「……お父さん」


 声は、山の音に混じるほど小さかった。

 シャノワの尾が止まった。

 男はレオナを見たまま、林の奥へ下がった。


 一歩。

 もう一歩。


 レオナは動かなかった。

 男の姿が林の奥へ消える。


「行かない」


 誰に言ったのかは分からない。

 自分に言ったのかもしれない。


 シャノワが息を吸う。


「追わなくて、いいんですか」


 レオナは男が消えた木の間を見た。


 口元が動いた。

 笑ってはいない。


「怒っているので」


 シャノワは何も言わなかった。


 人間は、会いたい相手に怒ることがあるらしい。

 難儀な生き物である。


 林の奥で、子供の声がした。


「サケチン!」

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