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第2章〜「正義」の作り方お教えします〜⑤

 人目を引く優れた容姿と申し分のない語学力に目をつけたオレたちチーム・ヴェスパは、トーク番組出演に向けたラドレスク大臣のプロデュースを行い、その成果は、すぐにあらわれ始めたのだが―――。


 小国モルタヴィア共和国からやって来た外務大臣の振る舞いには、もうひとつ気掛かりな欠点があった。

 それは、ラドレスクの女性に対する振る舞いだ。


 大手メディアや連邦議会(キャピトル・ヒル)に対する工作活動(アプローチ)が順調に進み始めていることを報告すると、以前は不信感に満ちていた大臣のチーム・ヴェスパに対する態度もとてもフレンドリーなものに変化し、メディア対策に関するアドバイスも快く、積極的に受け入れてくれるようになった。


 ただ――――――。


 オレたちを信頼してくれるようになったのは良いのだが、それは同時に、これまで目にすることがなかったラドレスク大臣の新たな一面を目の当たりにする結果にもつながった。


 鳳花さんや壮馬といっしょにチーム総がかりで、テレビ出演を想定したカメラ映りのテストをしていたときのことだ。

 モニターチェックを行った鳳花さんが、


「大臣、焦燥感を出すために、少しネクタイをラフな感じにしてみましょう」


と、ラドレスクに近寄り、彼のネクタイを緩めようとすると、


「おや、キミのような若い女性から積極的なアプローチを受けるとは思わなかったよ」


と大臣は、笑みを浮かべながら、そばに寄った我らがチーム・リーダーの腰元に手を回した。


「大臣、こうしたことは、ご自分のお仕事が終わってからにしていただけますか?」


 微笑を浮かべたままの表情で、大臣の手を軽く払いのけた鳳花さんは上手く相手の接触をかわしたように見えたが……。


 そばで二人のようすをうかがっていたオレ自身は、手にしていたペンを握りしめたまま硬直する。

 また、カメラをのぞきこんでいた壮馬も、いつもの冷静さを保つ余裕がないのか、眉を小刻みに動かし、大臣の言動に対する不快感をあらわにする。


 この行為を行った人間が、クライアントの代表者でなければ、即刻、社内の倫理委員会に訴え出ているところだ。

 

 そして、こんな光景が、ラドレスク本人と関わる時間の多い、チーム・ヴェスパの中で収まることなら、まだ良かったのだが―――。


 大臣の若い女性好きの特性は、多方面にも発揮されることがわかった。

 まず、彼の標的になったのは、AGS社の女性社員だ。


 ラドレスク大臣を加えた打ち合わせやプロデュース業務が佳境に入ると、社内通話に出られないため、事務職の女性社員が、頻繁にオレたちチーム・ヴェスパのフロアに訪れる。その度に、ラドレスクは、伝言を持ってきた女性に近寄り、口説き文句のような言葉を口にしたり、ときには身体的接触を試みようとする。


 その度に、オレは彼に直接、


「大臣、この国では、あなたが今されているような女性に対する行為は、訴訟の対象になることを覚えておいて下さい」


と、忠告しなければならなかった。


 幸いなことに、どんな相手であろうと、クライアントであるからには、社内の女性たちも鳳花さんと同じように、笑顔でそうした行為をかわしてくれたのだが……。


 彼のプレイボーイぶりは、社外にもおよんだ。


 テレビ出演に先立ち、モルタヴィア共和国の現状に興味を持つ新聞社の取材を受けることも徐々に増えてきたのだが、若い女性記者がインタビューなどを担当するとき、大臣の態度は露骨に相手自身への関心に移り、独占インタビューを交渉のカードにして、彼女たちを食事に誘おうとする。


「あの大臣は、自分の立ち場ってものをわかってるのかな? 悲劇の国からやって来た政府のお偉いさんなんだろう? 女性を口説いてるヒマなんてあるのかよ」


 ラドレスクが席を外すと、壮馬はあからさまに顔をしかめて、小国の大臣の態度に不快感を示す。

 一方、自分も被害者になり得る立ち場でありながら、鳳花さんは、あくまで客観的な態度を崩さないものの、クライアントのこうした言動を問題視していることに変わりはないようだ。


「たしかに、このままだと由々しき事態になりかねないわね」


 二人の言うとおり、ラドレスク大臣の母国では、毎日、市民の血が流れ、彼はその悲劇の有り様を世界に向けて発信するという役目を担っている。大臣は、いまだ独身であり、女性との関係がすぐさまスキャンダルに発展するようなことは無いかも知れないが……。

 若い相手となれば、誰でも口説きまくるような彼の特性がなにかのきっかけで表面化すれば、せっかく築き上げようとしている「悲劇の目撃者」というイメージが根底から覆されてしまう。


「大臣も、鳳花さんや竜司と同じように、学生時代はこの国に留学してたんだろう? そのときに、コンプライアンス意識とか、セクハラに関するガイドラインを学ばなかったのかな?」


「まあ、政治家としては若手と言っても、大臣はオレたちより20歳近く年上だからな。その頃のコンプラやセクハラに関する考え方がいまとは違っていた可能性もあるから……」


 壮馬の疑問に答えつつ、オレは、これからの対策を考える。突き放した言い方をすれば、ラドレスク大臣の存在も、モルタヴィア共和国の悲劇を訴えるためのPR戦略のひとつの素材に過ぎない。

 オレたちの関心事は、大臣の人格上の問題点をテレビ画面やSNSの動画から、どのように消し去るかということだけだ。


 特に若い女性がモルタヴィアの大臣と物理的距離を縮めたときには、細心の注意を怠らないように心がける。


 こうした自分たちの必死の火消し行為が、どのくらい功を奏しているのかはわからないが、意外なことに新聞社の重鎮とも言えるベテランの女性記者たちのラドレスク大臣に対する評価は、おおむね高かった。


 ある有力紙で社説を任されている有名な女性記者は、大臣への取材を終えたあと、そばでようすを見守っていたオレと壮馬にこっそり話しかけてきた。

 

「シュテファンって、本当にハンサムね。彼の瞳で見つめられたら、どうしようもないの」


 この密かな告白には、オレも壮馬も苦笑いで応じるより他はなかった。

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