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5話 命が代価とか重すぎる 喫茶店籠城発砲事件

 ガラス張りの窓からオレンジの光が差し込む。レトロな店内がセピア調に染まって、どこかノスタルジックな雰囲気。

 軽やかにドアベルが鳴った。ネックウォーマーを巻いた若い男が一人で入店し、奥の方の席へと座る。

 ケーキが有名な喫茶店『Ally by』は私も久しぶり。

 この時の私は、世界一美味しい空気を吸っていた。


「はい、モナカちゃん」


「ありがとう。ん〜、おいしい!」


 ただでさえ甘いケーキが、可愛い後輩に持ってきてもらったおかげでさらに甘く感じられる。しかも、目の前にいるのは見目麗しいレギュラーメンバー達。

 抹吏(まつり)カフェに行った時だってこんな贅沢なかったよ!

 これ、お金払わなくていいんですか!?


「今日はモナカの歓迎会なんだから当然だろう」


 つい口に出てしまったらしい。龍青が苦笑を漏らした。

 果乃子ちゃんも小さくガッツポーズをする。


「やった」


「モナカ以外は割り勘に決まっているだろう」


「え〜」


 龍青は金に絡むところはしっかりしている。金持ちなのに。もし副会長じゃなかったら会計が適任だ。まあ、今の会計は私だけど。

 果乃子ちゃんだって戯れているだけ。龍青もそれが分かっているから、付き合っている。


「けど、また龍青先輩がホテル貸し切ろうとか言い出さなくてよかったですよ」


 抹吏(まつり)くんの珍しい軽口。落ち着いて見えるけど、彼も浮かれているのかな。


「いや、あれは……少しはしゃぎ過ぎただけで……」


 龍青はばつが悪そうに首を掻く。

 微笑ましいやり取りに、今度は私がくすくすと笑いを漏らす。

 ふっふっふっ。美少女っぽい微笑みは練習済みよ!


「そ、それより抹吏(まつり)虎白(こはく)兄さんが会いたがっていたぞ。今度はバイクのテストライダーをしてほしいとか……」


「バイクですか? プロを使えばいいでしょう」


「もちろん、技術はプロの方が上だ。だが、プロ未満の技術でどこまで無茶ができるか、というのも試したいらしい」


「まあ、そういうことなら……。果乃子、どうした?」


 大きな目が半目になって、男二人を見上げていた。


「つまらない話はダ〜メ!」


 二人に向かって、果乃子ちゃんは両手の人差し指でバッテンをつくる。

 龍青がふっと笑いを洩らした。


「そうだったな」


 レギュラー達が私を中心に戯れている、まさに天国。やっぱりお金払わせろ!

 などと脳内は大騒ぎだ。そんな私を、抹吏(まつり)くんの言葉が現実へ引き戻す。


「それにしても今日はパトカーが多いな。何かあったのか?」


「そうだね。ええと……」


 果乃子ちゃんがスマホをタップする。そして、眉間にシワを寄せた。


「ロワゾ宝石店に強盗、犯人は二人組で今も逃走中だって。モナカちゃん、大丈夫!?」


 素っ頓狂な声と共に、果乃子ちゃんが私の肩を揺さぶった。

 ケーキを食べる手が止まり、冷や汗が背中を伝う。

 私は目元を押さえながら、声を絞り出した。


「ごめん。怖くなっちゃって……」


「あんなことがあったばかりだもんね。けど、ここには宝石なんてないから大丈夫だよ」


 慰めてくれるけど、私の原作知識が危険信号を発していた。震える手を押さえる。

 楽しくお茶している時に宝石強盗のニュース。これって確か……。


 けたたましいドアベルの叫び。

 同時に、重そうなボストンバッグを下げた男が飛び込んできた。


「これが目に入らねえか! 手を上げろ!」


 男は手に持った銃を誇示した。

 ニット帽にサングラスという、絵に描いたような不審者。

 首を巡らした男は、ほっとしたように息を吐いた。


 やっぱりこれ、アニオリ回の喫茶店籠城発砲事件だ!

 咄嗟に顔を巡らせる。被害者になりそうな人は……いない!?

 まさか被害者って……私?


 突然のことで店内が騒然となる。

 抹吏(まつり)くんが立ち上がろうとしたところで、強盗犯は銃を上へ向けた。

 銃口の先を目で追う。巨大な丸太型の梁があって……。

 梁はまっすぐじゃなかった。変な角度が付いているから、あれが跳弾すると……。

 弾道を指で追う。私の頭の上を通って……違う!

 血の気が引く。

 バッグを盾にして、首を引っ込める。


「騒ぐな!」


 乾いた破裂音が耳を打つ。

 次の瞬間、バッグが顔面を強打してきた。


「グエッ!?」


 巨人に殴られたような衝撃。目がチカっとなって、一瞬気が遠くなった。


「モナカ先輩!?」


 椅子から転げ落ちた私の背中へ抹吏(まつり)くんが滑り込む。鍛え上げられた肉体がクッションになってくれた。


「だ、大丈夫ですか?」


「う、うん。ありがとう、抹吏(まつり)くん」


 見た目より厚い胸板を背中全体に感じた。

 抹吏(まつり)くんはすぐに私を庇うように前に出る。

 ちょっと惜しい……。

 けど、小さな穴の空いたバッグが私を現実に引き戻した。ブスブスと白い煙が昇っている。天井の丸太は少し欠けていた。

 男は少しぽかんと口を開けていた。すぐに興奮した様子で声を荒げて、銃を向けてくる。


「勝手に動くんじゃねぇっ!」


 目は血走っていて、明らかにまともじゃなかった。発砲で理性のタガが外れたみたい。

 逆らったら、何をするか分からない。

 私がいたら抹吏(まつり)くんも動けない。二人して両手を上げた。

 しかも犯人は一人じゃない、はず。


 確かにお金を払わせろとは言ったけど……、命が代価とか重すぎない!? 

 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 続きも毎日更新予定です。

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