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真面目で何が悪い  作者: 桜庭


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72話


「アメリア、わざとディートハルトのこと怒らせたでしょ」


 学習道具をブックバンドでまとめながら、ニコラが呆れたように言う。

 横目で彼女を見れば、葡萄色の瞳がじとっとしていた。


「あのくらい煽らないと、彼の場合行動に移らないでしょ」

 

「喧嘩腰ぃ……ほんと、仲良いんだか悪いんだか」


 やれやれと肩を竦めるニコラ。いや、別に良くはないんだけど……。

 以前ほど悪くもないと言うだけで。

 

 ギルベルトが「ディートハルトの荷物はどうする?」と声をあげる。

 私との口論で出ていった彼は、勉強道具をそっくりそのまま机に置きっぱなしだ。


 ……仕方ない。


「私が持って行くわ。怒らせた責任もあるしね」


 ん、とギルベルトが纏めてくれた荷物を差し出してくれる。

 それを受け取り、自分のものと一緒に抱えた。


 いつものように四方山話を交わしながら、廊下を戻る。

 教室に入ると、焦げた教室は早くも修復されていた。魔術師でも来たのだろうか。


 そんなことを考えながら、次の授業の支度を始める。

 ディートハルトの荷物はどうしよう、と教室内を探すが、彼の姿はない。


 取り敢えず彼の席に置いておいたが、盗まれでもしたらどうしよう。

 そんな心配から、ちらちらと視線を彼の席に向けてしまう。


 結局、始業の鐘が鳴っても彼が教室に戻ってくることはなかった。

 

 ……少し、強く言い過ぎたかもしれない。

 そんな反省を胸に抱きながら、私は黙ってペンを走らせた。あとでノートくらいは写させてあげよう。

 

 結局、ディートハルトが教室に戻ってきたのは、午前の授業が終わった後だった。


 相変わらず機嫌の悪そうな顔をしている。

 だが、流石に周囲へ怒りをぶつけるような荒振りは落ち着いたようだ。ホッと安堵の息を吐く。


 そんな私に影が被った。頭上から降ってくるのは、ギルベルトの声。


「昼、食いに行こうぜ」


 ニコラは先に席を取りに行ったようで、姿が見えなかった。

 

 本当はディートハルトと話したいことがたくさんあった。

 しかし、今は彼から話しかけてくるのを待った方が良いだろう。


 彼の姿を一瞥しつつ、私は「ええ」と頷きながら席を立った。





「で、結局のところどうなの?」


 ホクホクのじゃがいもグラタンをフォークの先で突いていると、ニコラが唐突にそんなことを言い出した。


 何が、とギルベルトが問えば、ニコラは「ディートハルトとの事!」と声高に言う。

 全員の視線が冷たくなり、場に白けた空気が漂った。


 うっと一瞬怯んだニコラだったが、その葡萄色は未だ好奇心に濡れている。


「だって……アメリアは何でもないって言うけどさ。二人してコソコソしてるじゃん。以前は絶対に二人きりにならないように、細心の注意を払ってたくせに、最近はそれも無いみたいだし……」


「これでも気は使ってるのよ、私は。ただ、どうしても都合の付かない時もあるから」

 

 急な呼び出しや突発的な状況では致し方ない。

 私もできる限り彼に配慮をしているつもりだが、如何せん相手が気にしなさ過ぎる。


 疾しいことがない故の堂々さは結構。

 しかし、世間の目がその通りに受け取ってくれるとは限らない。


 ……と、思い続けているが、私たちの関係の潔白はあのエルフリーデすら認めるところとなった。

 なんだか一人で気にしているのが、バカみたいだ。


 まあ、これからもそんなバカなことを、きっと私は意識続けるのだろうけど。


 ともあれ、そういう事情(わけ)だ。

 肩を竦めて、そもそも、と話をひっくり返す。


「その話は何度も否定した筈よ。まだ引き摺るって言うのなら、良い加減貴方のゴシップ好きに苦言を呈さなきゃいけなくなるかしら?」


 私の説教は長いぞ、と言外に告げる。うげ、とニコラの顔が歪んだ。


 そんな折、突然ギルベルトが「俺が都合を付けようか」と言った。

 

 突然の申し出に、最初は何の話かさっぱりわからなかった。

 ガヤガヤした学食の片隅で、私は一度ニコラと顔を見合わせ、揃ってギルベルトを向く。


 どうやら彼は、先程の「都合が付かない時がある」という私の言葉尻を拾ったらしい。


「アメリアとディートハルトが二人きりにならないよう、俺が一緒にいようか?」

 

「いやいや……貴方にも都予定ってものがあるでしょう」


「アメリアのためなら空けるさ」


 さらりと告げられた言葉に、思わず黙り込む。

 嬉しさよりも、どこか不自然さを感じる私の感性はおかしいのだろうか。


 眉根を寄せ、当たり前のように答えたギルベルトに告げる。


「別にいいわよ。そこまでしてもらう程の事じゃないし、貴方は貴方の人生を大事にしなさい」


 一瞬、ギルベルトの若草色が寂しそうな色を宿した気がした。

 しかし、瞬きの間に理由のわからない寂寥感は消え、彼はいつもの屈託ない笑みを浮かべる。


「そっか。んじゃあ、また人手が必要になったら呼んでくれな」


「ええ……その時は頼らせてもらうわ」


 再び食器がかちゃかちゃと音を立て始め、食事が再開される。

 奇妙な気まずさが一瞬だけ流れたが、気のせいだったと思う程、その後はいつも通りだった。



 

 そして、その日の放課後。


「フォーゲル。少し面を貸せ」


 ルイスを従えたディートハルトが、帰り支度をする私の前に立ち塞がる。

 今朝のことがあったからだろう。ざわり、と教室が騒めき立った。


 ヒソヒソと囁かれる悪口にも似た噂話。

 とうとうタイマンだの、修羅場だの、言いたい放題聞こえるが、全部無視!


 眼前の彼が再び怒り出す前に、私は「ええ、わかったわ」と鞄を小脇に抱える。

 チラリとルイスを見やれば、彼はどこか申し訳なさそうに肩を竦めていた。

 

 ニコラとギルベルトに挨拶を残し、ディートハルトの後ろをついて行く。

 もちろん向かう先は、いつもの空き教室だろう。


 エルフリーデもいるのだろうか。

 そんな事を考えながら、私は騒がしい廊下を黙って通り過ぎた。



 

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