第14話 意外な人物!
死体を埋めた翌朝。私はクラウと一緒に街へとやってきた。
「……今、あそこのカップルが私たちのこと見てなかった?」
「君が美人だから見られてたんじゃないか」
「怪しまれてたんじゃないかって言いたいの」
「そんな風にきょろきょろしてると余計怪しく見えるぜ。何をそんなに緊張してるんだい?」
私たち、昨日人間を一人殺して埋めてるんですけど。しかもその人、この国の貴族で軍の要人なんですけど。
口から飛び出しかけたツッコミをかろうじて飲み込む。こんなに人が多かったら、誰に聞かれるかもわからない。
「……誰かにバレてないか心配なのよ」
「それについては心配ご無用。『彼』は何人も愛人がいてね、女たちの家を渡り歩いて何日も自宅へ戻らないことで有名らしい。本妻にバレないよう、護衛や家来にも行き先は秘密なんだとか」
「しばらく行方がわからなくても誰も気にしないってわけ?」
「そういうこと。きっと愛人の誰かの家にいると思われておしまいさ。まあ、あんまり長く行方知れずじゃさすがに騒ぎになるだろうね」
「最低なクズで助かったわ。……そうは言っても、怪しまれずに済むのは一週間ってところかしら」
ガースバルト帝国での殺人がどれだけの罪に問われるかはわからないけど、殺した相手――ガーンズ公爵は誰もが名前を知るような貴族だ。どう言いつくろったって極刑は免れないだろう。
普通だったらさっさと国から逃げ出すところだ。なのにクラウは涼しい顔で殺人現場である街中へ戻ってきた。
山小屋で一緒に暮らしてる時はなんとも思わなかったけど、だいぶ、かなり、いや相当に、このイケメンって頭のネジが外れてない? 共犯関係なんて結んで大丈夫だったかな、私。
「それで、今後の策は? 何か目的があって街へ戻ってきたんでしょう?」
「ああ。現状を上手く切り抜けるために、彼の力を借りようと思ってね」」
歩き続けていたクラウが広場で立ち止まる。
そこにはちょっとした人だかりが出来ていた。拍手、ざわめき、小銭が缶に落ちる音。様々な物音の中で、一際大きく響く――透き通った歌声。
「綺麗な歌」
思わず呟くと、クラウが笑って頷いた。
「この辺りじゃ有名な歌い手なんだ。歌が始まるとみんなこうやって集まる」
「でも、彼って言った? 女性でしょう、あの人」
「さてさて。どうかな?」
意味深なウィンクに反論しようとした時、歌声が止んだ。
どうやら今日の営業は終わりらしい。その人は小銭の詰まった缶を回収し、聴衆へ優雅に一礼してから歩き出す。
「追いかけよう」
「えっ、ちょっと待ってよ」
散っていく人々に紛れて、歌手の後ろ姿を追いかける。
長くて綺麗な髪と華奢な肩。どこからどう見ても女の人にしか見えないのに、クラウったら何を言ってるんだか。
やがて彼女は一軒の家へ入っていった。どうやらそこが自宅みたい。
「君の疑問を解決してあげよう。中を見てみな」
「は? 人の家を覗かせようっての?」
まあ、今更覗きが加わったところで大した罪でもないのか? いやいや、まずい。思考が犯罪者になってきた。
頭を振って、そろそろと家の中を覗き込む。
小さな部屋の中には人影が二つ。一人はベッドに座った具合の悪そうな女性。そしてもう一人はさっきの歌手。
二人の顔は瓜二つだ。どこからどう見ても同じ人物。えっ、これってどういうこと?
「これ、今日の稼ぎね。具合はどう?」
「だいぶ良くなったわ、ありがとう。風邪で喉をやられちゃうと商売も出来なくってね……本当に助かったわ」
ベッドの女性はお金を数えて、その中から幾らかを歌手に渡す。
「どういたしまして。どうぞお大事にね」
お金を受け取りながら、歌手は髪を掴む。
ずるり。落ちたのは髪の毛じゃない、カツラだ。ドレスを脱ぎ、メイクを手早く落とした顔は、紛れもなく男性だった。
「どうだい、驚いただろう」
なぜか自慢げなクラウを横目に見て、嘆息しながら一言。
「あなたの知り合いって、変わった人が多いのね」




