第15話 空気読んで!
ガチャリ。扉が開いて、うす~~い顔の男の人が出てくる。
近くで見ると尚更地味で線が補足、存在感がない。聴衆に囲まれて拍手を浴びてた歌姫だなんて言われても、誰も信じないだろう。
クラウが近付くと、彼もこちらに気付いて足を止めた。
「クラウ」
「やあ。相変わらず化けるのが上手いな、ミュート」
ふぅん、ミュートって言うの。また知らない名前。ホワ嫁の登場キャラにはいなかったな。
「……そっちの人は誰?」
「彼女はイデア。オレの……パートナーってところ?」
「結婚したの?」
「違うよ、ビジネスパートナー」
ぽんぽん軽口を叩く二人を見ながら、隙を狙って完璧なお辞儀をする。ついでにとっておきの顔でニコリ。
「初めまして、ミュートさん。イデアです」
「クラウがこんな美人を連れているなんて珍しいね。僕はミュート。仕事は……変装屋かな」
「変装屋?」
そんな職業、初耳だけど。
首を傾げていると、クラウが横から口を挟んでくれる。
「変装に関して言うなら、彼は帝国一の腕前さ。子どもだろうが老人だろうが変幻自在。無限の顔を持つ男、ってオレは呼んでるよ」
「それはさっき拝見させてもらったわ。女性に変装するだけならともかく、歌声まで真似出来るなんてすごいのね」
今のミュートは落ち着いた柔らかい男性の声だ。一体どこからあんな高い声が出ていたんだろう。
「喉の調子を変えるツボがあってね。上手く押すと声の高低を自由に変えられる」
「それ、企業秘密じゃないのか?」
「僕以外は出来ないから問題無いよ」
「はいはい、さすがは変装の天才様。イデア、ミュートはこの通り変人だが、その筋じゃかなり有名で無理難題も引き受けてくれる。最近は人気者すぎて、依頼が殺到して困ってるんだよな!」
クラウに肩を叩かれても、ミュートは涼しい顔のまま。
なんだか読めない人ね……。
「それで、なんの用?」
「もちろん仕事の相談さ。だいぶ長期のね」
「面倒そうな匂いがする」
「まあそう言うなって。きちんと働きに見合った報酬を支払うつもりだよ」
「変装の対象は?」
「ガーンズ公爵だ。知っているだろ?」
「……あのガーンズか。やっぱり面倒事じゃないか」
ミュートがちらりと私を見る。
すでに何かを察した顔だ。まるで、私たちがガーンズを殺したことに気付いたみたいな。
クラウが話を持ちかけたからには、信用出来る相手のはず。
それでもどうにも胸がざわめく。ああ、私って本当に犯罪者に向いてない。
「ガーンズ本人はしばらく表舞台へ出てこない。その間、君の変装したガーンズには軍に潜り込んでほしい」
「ずいぶん物騒な話だね。それで? 君の指示通り、ガーンズの振りをして軍部を操ってほしいって?」
「その通り。話が早いじゃないか」
「君が取り戻したがっているものについては、僕も聞かせてもらったからね」
なるほど。ある程度事情はわかっているわけね。
クラウも私にウィンクしてから、もう一度ミュートに向き直る。
「イデアはオレの仲間だ。色々準備は進めてきたが、そろそろ行動を起こす時期だと思ってる。協力してくれるよな、ミュート」
「ごめん。無理」
「「は?」」
思わずクラウとハモっちゃったじゃない。
いやいや、聞き間違いかな? 今の流れってどう考えても『わかったよ』って頷くところでしょ。空気読んで!
……まあ、本人が無理って言うからには何か事情があるんでしょうけどね。
一国の皇太子殿下からの頼みを断る理由、聞かせてもらおうじゃないの。




