第13話 二つの条件!
行きは一人。帰りは二人と死体が一つ。
深夜の山道に、きぃきぃと車輪の音が鳴り響く。きぃきぃきぃ。死体を乗せた荷車が止まるまで、私は一度も口を開けなかった。
真っ暗な山中でクラウと一緒に穴を掘り、ガーンズの死体を埋める。
ああ。今まで悪役令嬢として色んな悪事を働いてきたけど、まさか死体遺棄まで手伝おうとはね。
「……巻き込んでしまってすまない」
クラウの呟きは、これまでの軽い口調と全然違う。私の知らない『クラウディオ王子』の声だ。
「どうしてあなたが謝るのよ。私を助けてくれたんでしょう」
「違うんだ、イデア。これは今後についての謝罪だ」
「どういう意味?」
「オレはこの国を取り戻す。その戦いに君を巻き込むことになる」
ガースバルト帝国第一皇太子クラウディオ・レイ・セトゥス・マンフレーディ。彼の下には温和で大人しい第二皇太子の弟がいる。
帝国内の貴族たちは第一皇太子派と第二皇太子派に別れ、第二皇太子を次期皇帝にして操りたいと考える一派が第一皇太子暗殺を目論んだ。
第一皇太子は大怪我を負いながら辛くも命を取り留め、皇位継承権奪還のため牙を研いでいる――というのが大体の大枠らしい。
うーん、ゲーム中では語られてなかった設定なんだよね。設定資料集にもなかったし。ユーザーには開示されてないってこと?
「このまま城へ戻れば、第二皇太子派に殺されるのは目に見えている。相手がどこまで勢力を広げているかも不明だ。だから時期が巡ってくるまで備えるつもりでね」
「時期っていうのは?」
「反撃のチャンスさ。イデア、君はこの国の軍を乗っ取ってセインハーモニア王国に復讐すると言ったな。だったらオレと手を組まないか」
「私と? でも、私はこの通りなんの力も持ってないわよ。さっきだって無様にパパ活を失敗したし」
「それでも君は諦めてないだろう。オレには一人でも多くの味方が必要なんだ。オレがいずれ国を取り戻したら、君の目標達成を全力で支援する。悪い取引じゃないはずだが」
「確かに次期皇帝様がバックについてくれるなんて、とても心強いわ。反逆の皇太子と嫌われ令嬢……相棒か共犯関係ってとこかしら」
「ああ。今この時から、オレは君と共犯関係を結びたい。……ただし、二つだけ条件がある」
クラウはもったいぶった様子で咳払いをして、指を二本立てて見せる。
私の知ってるクラウの顔だ。やっと少しだけ安心出来た――まあ、一緒に死体埋めてるんですけど。
「あなたがそこまで言うなら、結構な条件なんでしょうね」
「なぁに、難しいことじゃない。一つ、オレを愛さないこと。二つ、オレに愛されないこと」
「…………は?」
なんて? 今なんて?
なんですか、その乙女ゲーの攻略キャラみたいなセリフ。イケメンじゃなきゃ絶対許されないぞ、このイケメンが。
いやいや、まあまあ、落ち着いて。どうやら本気で言ってるみたいだし、まずは理由を聞こうじゃない。
「えー……どうしてそれが条件なのか、説明してくれる?」
「大前提として、オレたちは自分の目的を達成するために最大限相手を利用する。万一その過程で相手を見捨てなきゃならない状況に陥ったら、迷わず捨てるべきだ。大事なのはあくまで、自分の目標達成なんだから」
「だから情を移すなって言うの? そんなのいちいち言われなくてもわかってる。私は私の目的が一番大事だもの」
「おっと、怒ったかい? 気を悪くさせたのならすまないな」
「あなたが共犯者に選んだ相手は、そこまでバカじゃないってことよ。お互いに自分を最優先する。役に立たなくなったら捨てるし、身の危険が迫ったら敵にだって売り払う。それでいいんでしょう」
私が一気にまくしたてると、クラウは嬉しそうに笑って手を差し出してきた。
「その通り。交渉成立だな? これからよろしく、共犯者さん」
クラウはホワ嫁の攻略キャラじゃない。好感度上昇フラグや今後の行動について、一切のデータがない。
失敗すれば待ち受けているのは死。
それでも私は彼の手を取った。私自身の復讐を成し遂げるために。




