表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/20

第12話 あっ、あなたはっ!?


「さて、予定は変更だ。君を我が家へ招待しよう。二人きりで話し合うならそちらのほうがいいだろう? まあ、君の意見が反映されることはないんだが」

「まあ……こんな深夜に初対面の男性の家へ招かれるなんて。私、そんなに安い女に見えまして?」


 深夜の街には猫の子一匹見当たらない。それに悲鳴を上げたところで、捕まるのはイデア(わたし)のほうだ。

 こうなったら逃げるしか――。

 覚悟を決めて走り出そうとした瞬間、ガーンズ公爵が進路を塞いだ。


「ちょっ……」


 抗議するより早く、頬に弾ける強い衝撃。

 熱い。痛い――嘘でしょ、いきなり殴ってきたの? ふざけんじゃないわよ、このオッサン!


「っ……それが紳士のなさることかしら」

「女性には優しくするとも。だが君は私の道具だろう? 思う通りに動かない道具は叩いて直すものさ」

「なるほどね、そっちが本性ってわけ。弱いものをいたぶって楽しむなんてとんだクソクズ野郎ね」

「はは、まだそれだけの口が利けるのか。さすが希代の悪女だ、ずいぶん楽しめそうじゃないか」


 目の前でもう一度、大きな手が振り上げられる。

 思わずぎゅっと奥歯を噛みしめ、顔を守るように身構える。

 でも――いつまで経っても痛みは襲ってこなかった。


「楽しそうだな、ガーンズ。オレも混ぜてくれよ」


 この声は――。

 恐る恐る目を開けると、ガーンズはぽかんと口を開けて固まっていた。

 視線の先には月光を浴びて輝く銀髪の――超絶イケメンが一人。


「クラウ? なんでここに……」


 彼は答えず、私の腕を掴んで引き寄せる。


「ピンチに駆けつけたってのに、第一声がそれかい?」

「いや、だって。え、なんで? もしかして迎えに来てくれた……?」

「詳しい話は後だ。遅くなって悪かったな、怖かっただろう」


 恐怖が安堵に変わっていく。やめてよ。そんなに優しくされたら泣いちゃうじゃない。

 まだ何も終わってない。私の正体に気付いたガーンズをどうにかしないと、計画は全部パァになるのに。

 当のガーンズはようやく硬直が解け、震える指でクラウを指差した。この二人、知り合いなの?


「な、なぜあなたが……死んだはずだ、一体どうやって……!」

「言葉は正しく使えよ、ガーンズ。『殺したはず』だろう? 部下に命令して、このオレ……クラウディオ・マンフレーディを上手く暗殺したつもりだったんだよな」


 マンフレーディ――その響きには聞き覚えがある。このガースバルト帝国の王家の名前だ。

 ということは、まさか、クラウって。


「生きていたのですか、クラウディオ王子……!」

「残念ながらこの通りピンピンしてるよ。お前の部下、詰めが甘すぎるぞ。谷底に落ちたからって死体も見ないで死亡報告をするとはな」

「嘘だ……こんなこと、ありえるはずがない!!」

「お前の戦略は幼稚すぎるんだよ。なのにカッとなってすぐ暴力を奮うから、誰もまともに指摘出来ない。まあ、お前が無能だったおかげでオレは無事に生き延びたんだが」


 クラウは笑いながら剣を抜く。

 見上げれば、その目は全然笑っていない。ぞっとするほど冷たい怒りがそこにある。

 彼が剣を抜くのも、怒りを顕わにするのも初めて見た。私の知らないクラウ――クラウディオ王子の顔。


「お、お許しを、王子! 決して本意ではなかったのです!!」

「それについてはもういい」

「お、おお……では……」

「だが、彼女を傷つけたことは許さない。死を持って償え」


 風が吹き抜ける。

 はっとして視線を向ければ、ちょうどガーンズが地面に倒れ伏すところだった。

 溢れ出す鮮血。離れていても鼻を突く鉄錆びた臭い。

 転がる死体に見向きもせず、クラウは剣をマントで拭って鞘へと収める。

 何もかもが一瞬で過ぎ去って、どうしたらいいのかわからない。わかるのは、私の命がまだここにあることだけだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ