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第11話 来た来たぁ! 一本釣り!


「ガーンズ公爵。今夜は帰らなくてよろしいのですか?」

「おや、もうこんな時間か。君との会話が楽しくて時間を忘れてしまった」


 深夜のバーでお喋りは続いていた。彼はずいぶん私を気に入ってくれたようで、歴史や宗教観、果ては軍事のことまでちょっぴりポロリしてくれた。ラッキー。

 ああ、ガラブ伯爵? いたわね、そんな人。自分の自慢話しか出来ないオジサンは、ガーンズ公爵の前じゃ借りてきた猫みたいに大人しい。


「いやはや、イデア嬢もさることながらガーンズ公爵の知識は素晴らしいですなぁ!」


 ダメだこりゃ。さっきから口を開けば『素晴らしい!』『さすがです!』『敵いません!』の三本立て。ガーンズ公爵がウザがってるのに気付いてないの? 絶対出世出来ないタイプだわ~。

 まあ、ガラブ伯爵に同情の余地なんて一切ない。能力の無い小者はポイ捨てされる運命よ。


「……ガラブ伯爵、君はずいぶんと語彙が少ないようだな。私の庭の小鳥でも、もっと様々な音色で鳴いてくれるよ」


 おおっと、これは痛烈な皮肉。さすがにガラブ伯爵も理解出来たらしく、額の汗をせっせと拭ってる。


「は、ははっ……これはこれは、手厳しいお言葉を……」

「ガーンズ公爵、あまりガラブ伯爵をいじめて差し上げないでください。伯爵のさえずりも、小鳥としては大変立派でしょう? まるで人間の言葉のように聞こえるんですもの」

「はっはっは! なるほど。確かに人語を話せる小鳥と思えば珍しい」


 爆笑いただきました。ヤバ、なんかナチュラルに嫌味入っちゃった。ちょっと性格悪すぎたか?

 いやいや、これは悪役令嬢力を磨いてるせいであって決して元の性格に難ありってわけじゃない。自慢話ばっかりの上司に嫌味ぐらい言いたくなるのって普通だし? そういうことにしておこう。


「君は面白い人だな、イデアさん。よかったら別の店で飲み直さないか? 君とはもっと親睦を深めたいものだ」

「願ってもない申し出ですわ、ガーンズ公爵。私も二人きりでお話がしたいと思っていましたの」


 来た来たぁ! 一本釣り!

 ガーンズ公爵は国内でも有数の貴族であり、なおかつ軍を動かす力を持っている。このオジサンに取り入ることが出来れば、セインハーモニアをぶっ潰すという私の野望に一歩近付けるはず。

 やってやる……悪役令嬢として公爵を手玉に取り、金も権力も搾り取ってやる!

 高まる戦意を押し隠し、ガーンズ公爵にエスコートされてバーを出る。

 取り残されたガラブ伯爵がぐぬぬ……と唸っていようが知ったこっちゃない。ありがとう、今までたくさん稼がせてくれて。そしてさようなら……。


「どんなお店に案内してくださるのかしら。楽しみだわ」


 ガーンズ公爵の腕にもたれかかって見上げれば、私を見下ろす青い瞳と目が合った。

 そこにあるのは下心――ではない。薄い壁越しにこちらを値踏みするような警戒色。一瞬、背筋に冷たいものが走る。


「こちらも質問をいいかな?」

「ええ。何かしら?」

「君の目的はなんだ? セインハーモニアのご令嬢、イデア・アバーティーノ」


 ひゅ、と喉が鳴った。

 咄嗟に声が出ない。何か言わなきゃ。何か。


「民衆の反乱によって親子共々命を落としたと聞いていたが、まさかこんなところに逃げ落ちていたとはな。セインハーモニアの民は、君が生きていると知ったらきっと身柄を欲しがるだろう」

「……なんのお話でしょうか。私にはさっぱり」

「つまらない芝居はよしたまえ。君には使い道があるということだよ。たとえば、ドレスの下に爆発物を巻き付けて国へ返しただけでも甚大な被害を生み出せる。あるいは要人暗殺に一役買ってもらうとかね」

「冗談……を言っている顔ではありませんわね」


 ガーンズ公爵は目を細めて笑うだけだ。

 ああ、しくじった。どうやら私は、最悪のゲス野郎をパパ活相手に選んじゃったみたい。




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