321. 船長(キャプテン)と空の旅、そして静かなる驚き
曳船状態の桜吹雪号は、やはり魔力の減りが早いねえ。
魔力充填しながら進んでいると、三十分ほどで微かに岸が見えてくる。
すると船長さんから声が掛かった。
「速度を落とし、港手前で止めてくれ!」
「どちてー?」
「こちらは海賊船連れだ。敵襲と思われる可能性がある!」
あっ、そうか。大型船三隻、しかも二隻は海賊船だった。
敵襲と思われて攻撃されても文句が言えない。
「お前達!白旗を上げろ!そっちの船もだ!」
「アイ・アイ・サー!」
海賊船にはマストを下げるために乗船した船員が残っている。
「船長!こちらに白旗がねえ!」
おうっ自信満々だな、海賊船。
帆船の方の白旗を目視で再構築し、ミルニルのマジックバッグに入れる。
ミルニルはそれぞれの海賊船に飛んでいって、バサバサバサッと白旗をデッキに落とした。
「おっ、おうっ!」
何もないところから降ってきた白旗に、船員さんが驚いている。
キャッキャ☆
楽しくて拍手をしながら喜ぶ私。ジト目で私を見上げる船長さん。
「あー……。兎に角お前等!白旗を上げろ!」
「アイ・アイ・サー!」
ちょっと呆れ気味に船長さんが指示を出す。
こうして白旗だらけの三隻の船が出来上がった。
『ハルパ。速度を落として港に入る手前で止めてくれ』
『承知しました』
桜吹雪号にも連絡し、船を港手前でゆっくりと停止させる。
「ととまで、だいじょぶ?」
「ここまでで大丈夫か?」
「ああ。問題ない」
あとのことは船長さんに任せよう。では、結界を解きますか。
連結と結界1を解除し、帆船と海賊船を横付けするようミスティルとミルニルにお願いする。
二人は海賊船に取り付けてあるロープを引っ張って横付けさせ、グラップネルアンカーもどきを帆船にかけて固定した。
ん?あれ?
桜吹雪号で引っ張らなくてもミスティ………。
ううん、二人が疲れちゃうから。疲れちゃうからね。
港では兵士らしき人々が右往左往しているのが見えた。
ちょっとだけ心配だけれど、私に出来ることはここまでかな。
三隻の船が錨を下ろし、流されないところまで見届けたので、あとはお任せします!
「との、ふにぇ、船ちょ、たえしゅね」
「この船は船長に返す」
「あとは任せてくれ!我らが船員達を助けてくれて、心より感謝する!」
「あーいっ」
「一つ聞きたい。あなた様は天使なのか?!」
「ちあうー!でんしぇちゅ、たいじょっちゅっ」
「違う、伝説の海賊だ」
「……そうか。そうだったな」
船長さんが破顔した。
じゃあ、もう行くね。
海賊ごっこ、凄く楽しかったよ!
「ばっばーい!」
気配完全遮断をして桜吹雪号へ向かおう。
「帽振りーっ!ごきげんよう!」
すると私と遊んでくれた船乗りさん達がごきげんようと言いながら、帽子を三回振る。
流石にもう、私の正体バレているよねえ。
じゃあ、オレンジを渡しながら格好良く去ろう。
気配完全遮断状態で物を出したらどうなるのかな?ワクワク♪
あ、渡す前に落としちゃった。
………………ま、まあいっか。
時間がかかると格好悪いから、私のことがわかるであろうお返事しとこ!
「ボン、バァン!」
よい旅を、BON VENT!
ああ……念願の海賊ごっこができて嬉しいな。
桜吹雪号をゆっくり上昇させながら、私達も空高く昇る。
大満足の私。楽しかった!
「行ったか」
幼児の楽しそうな笑い声が空へと消えて行く。
「お前達。帽振りをしてたが、何か知っているのか?」
「思い付く人物がおりますっ」
一昨日、赤ん坊連れの恐ろしく美しい行商人と出会った。
赤ん坊が船乗りごっこをしていたので、あまりの可愛さに遊びに付き合った。
その時優秀商だと名残り、商業ギルドカードを提示された。
そして遊びに付き合ってくれた礼に、オレンジと赤ワインを渡されたと言う。
その赤ん坊は出血死病とその予防策を知っているような雰囲気だったらしい。
そこまで聞いて思い出したことがある。
最近、海員組合や酒場で御使い様ご降臨の噂を耳にしたのだ。
ラ・フェリローラル王国では新国王戴冠式の時に神託をいただき、神と天使がお姿を現したのだと言う。
眉唾ものだと笑い飛ばしていたが、存外本当のことかもしれんな。
兎にも角にも、俺達は運が良かった。
あの残忍で有名な海賊アトォース達の襲撃を受けたにもかかわらず少人数の怪我人で済み、更に二度と悪さを出来ない体にしてもらい、捕縛までできちまったのだから。
船員等が赤ん坊と遊んでくれたおかげだな。
オレンジとワインについて黙っていたことは不問としよう。
「船長!ボート準備完了です」
「陸に向かう。航海士二名はついてくるように」
「アイ・アイ・サーッ」
此度の件の説明に陸へ向かう。小型ボートに乗船しようと踵を返すと……。
コツン
足に何かが当たる。
「オレンジ?」
拾い上げるとそれは鮮やかな太陽色のオレンジだった。
「フッ……天使の置き土産か」
いや、伝説の海賊だったな。
感謝するぞ、CAPTAIN ORANGE。
また会おう!
のちに勇敢で賢く優しくて愛らしい伝説の海賊、CAPTAIN ORANGEの歌が、海の男達の間で歌われるようになったと言う。
伝説の海賊本人がそれを知るのは、だいぶ先のことであった。
「おひゆね、ちてた」
楽しすぎてはしゃいだからか、桜吹雪号に戻ってぐっすり寝ちゃった。
まだ海賊の格好のままで、ヒゲは取ってある。
「目が覚めましたか?」
「あいっ」
「お腹は空いてませんか?」
そう言えばお腹空いてる。今何時?
「もうすぐ十四時です」
もうお昼過ぎちゃったのね。じゃあご飯にしよう。何がいいかなあ。
私がお昼を考えていると、ミムミムお姉さんが私に声をかけた。
「空飛ぶってどんな感じ?」
「んう?」
私が桜吹雪号から飛び降りた時、生身で空を飛ぶことに興味が湧いたんだって。
「ゆきちゃんが飛び降りた時、肝が冷えたよ」
「そう言えば皆、空中を飛べるんだったよね」
ローザお姉さんが苦笑し、レーネお姉さんは興味津々といった感じ。
「私はもう少し低い場所を飛んだ経験がありますが、なかなか爽快でしたよ」
そう言えば、フィガロギルマスは王都に行く途中でハルパ機長による空の旅を経験したんだっけ。
「しょのまま、飛ぶ、ちてん。てったい、いゆ………あっ!」
結界を張らずそのまま飛ぶのは危険なので……あっ、そうだ!
皆、疑似体験する?
「姫さんが何か思いついたみたいだぜ」
「空飛ぶみたいな経験をしてみる?って」
えっ!
エレオノールさんとディリジェンテさんがすかさず身構えた。
でもフィガロギルマスとお姉さん達はぜひ体験したいと言う。
「よちっ、待てて」
「主。その前にお着替えしましょうね」
興奮している私を止め、ミスティルが私の着替えを手伝ってくれる。
【幼児の気持ち】が発動すると、楽しいこと優先になっちゃうね。
私のサポートをしてくれる人がいるってありがたい。
お着替えが終わったので、先ほどの続きをするよ!
まずはハルパに車を止めてもらう。
浮遊の高度は維持したままなので桜吹雪号に問題はない。
車を真ん中に、縦横十メートル高さ三メートルの結界4(立体)を張る。
全ての攻撃防御、誰も通れない。風速秒速五メートルくらいまでの風はオッケーにする。
「でちたあっ」
「わあっ!ゆきちゃん!」
ドアを開けてもらってピョンッ、と飛び降りようとしつつミスティル抱っこで外に出る。いきなり飛び出した私にお姉さん達が驚いたのが楽しくて、キャッキャ笑ってしまう私。
「お嬢が結界を張った。皆外に出ても大丈夫だぞ」
我が家の皆も外に出て、伸びをする。
「なんと!楽しそうです」
フィガロギルマスは躊躇なく外に出た。
お姉さん達もギルマスに続く。
「大丈夫とわかっていても、ちょっと怖いかも」
「いやいやいや。普通あり得ないからね」
レーネお姉さん、リンダお姉さんが足元に手をついて大丈夫か確かめている。
「このような体験をさせていただけるのも、ゆきちゃんだからですわね」
「結界が透明だから、何もないのがまた……未知の体験だね」
「飛んでるみたい。面白い」
エクレールお姉さん、ローザお姉さん、ミムミムお姉さんが興味津々で周りや下を見ている。
「こ、これは……勇気が必要ですね」
「ひえぇ……」
ディリジェンテさんとエレオノールさんは車の中で躊躇していた。
怖いならば車でご飯食べてもいいよと言ったら、こんな体験は出来ないからと恐る恐る外に足を踏み出した。
「寝そべると本当に飛んでいるみたいですねえ」
「うん、ほんと」
フィガロギルマスとミムミムお姉さんは寝そべって、空飛ぶ感覚を味わっている。
実際は停止しているので進んでいるわけではないけれど、雲が流れているから動いているように感じるんだよねえ。
「おひゆ、ちよ」
「お昼にしようって」
「はいっ、そうですね」
皆集まってっ。お昼ご飯を食べよう。
お昼ご飯は揚げ立てサックサク!天丼と、出汁香る玉ねぎのすまし汁、漬物のセットだよ!天丼はフェリアのお野菜とカラダンジョンで捕れた魚介類を揚げ、昨日作りました。
ヴィシャスレッドロックの頬肉も入っているよ!
鳳蝶丸達は沢山食べるからお蕎麦と薬味も用意したからね。
皆、好きなだけ食べてね♪
「うんまっ!」
「本当に美味しいですねえ」
レーネお姉さんとフィガロギルマスは美味しそうに天丼を頬張った。
「ビールだね」
「日本酒もいいだろう」
「辛口のスパークリングワインも良さそうです」
我が家の皆は通常運転。
天丼と日本蕎麦を頬張りながら、お酒談義をしている。
「飲みたくなってしまいますわ」
「護衛中、空高い場所で美味しい昼食を食べ、酒に思いを馳せるって、奇妙で贅沢」
「確かに。ゆきちゃんに感謝だな」
エクレール、リンダ、ローザお姉さん達が苦笑する。
「このすまし汁と言ったかしら。とても美味しいわ。再現できるかしら」
「玉ねぎはあります。あとは塩……この旨味と香りは何でしょう?ゆき殿の料理によく使われていますよね?」
空の上にすっかり慣れたエレオノールさんとディリジェンテさんが、すまし汁を堪能している。
何だか楽しいなあ。
食事が終わり、皆でヘデルマハルタ村の美味しい葡萄を食べていると、ミムミムお姉さんが端っこで魔法陣を展開して何かしているのが見えた。
「おねしゃん、なに、ちてゆ?」
「魔法で文章を送る実験してる」
ピリカお姉さんと約束していたのはそれなんだ!
ロストロニアンで意気投合した魔法ヲタクの二人は、あの短い期間に『文章を送る魔法陣』の作成に成功した。そこでミムミムお姉さんが旅の途中から魔法陣を展開し、どれくらいの距離連絡できるのか試すことになったらしい。
「カラのダンジョンからは送れなかった。だんだん繋がりにくくなっていてヴァルタメリが限度かも」
この空の上からも送ったけれど、魔法陣が霧散してしまうんだって。
「わたち、おちゅえゆ?」
「そうですね。主殿でしたらメッセージを送ることが出来るでしょう」
「魔導師の居場所がわかれば映像も送れるんじゃないか?」
「えっ、送れるの?教えてっ、師匠!」
うーん。多分神力を使うから教えられないんじゃないかな?
「魔法、でちゆ?」
「そうだな、多分。俺がやってみるか?」
「あいっ」
ミムミムお姉さんにもう一度魔法陣を出し、メッセージを書いてもらう。
『今 空 いる』
でも魔法陣は弾けて消えてしまった。
「魔導師の居場所を特定した」
そう言って鳳蝶丸が魔法陣を練り上げる。
フワッと光り、メッセージの文字が浮かんで消えた。
「届いたと思う」
「今の魔法陣!複雑!立体だった!」
鳳蝶丸の魔法陣を見て大興奮するミムミムお姉さん。
「同時に複数を練り上げないといけないぞ」
「かっ、書き写したいっ」
「あとで教えてやる」
コクコクコクコクッ!
凄い勢いで頷いて、練習する!習得してみせる!とやる気満々なお姉さん。
勉強熱心だよね。
「お嬢。魔導師のいる座標はここだ」
鳳蝶丸が紙に書いて教えてくれる。
向こうに連絡できる媒体が無いし、送ったとして一方通行なんだけど……やってみる?
何のことか分かっていない皆と軽く打ち合わせ。
言われたままやってねとお願いし、スタンバイしてもらう。
ピリカお姉さんがいる場所にプロジェクター用結界4(平面)を小さめに張る。
「準備できたぜ」
「何時でも大丈夫だ」
ではライブ配信するよう!
「姫さんのアップからいくか」
氷華が葡萄をモグモグ食べる私にカメラをズームインしてスタンバイ。
はい、プロジェクター!
「ピイタ、おねしゃん!おひゆ、食べたあ?」
「ピリカお姉さん、昼メシ食べたか?」
カメラは次第にズームアウト。
私の手前には寝そべっているミムミムお姉さん。
「ピリカ。私、飛んでる(棒読み)」
ミムミムお姉さん越しの海上映像。
「今ウアヴァルト帝国に向かう海上。そろそろ手紙が送れなくなる。ちなみにさっき送ったのは鳳蝶丸さん」
仰向けになるお姉さん。
「すっごいワザ、教えてもらえそう。次回会った時話す」
その間、私の周りに集まる氷華と鳳蝶丸以外の皆。
ミムミムお姉さんからティルト・アップすると、私達が映し出された。
「そや、葡萄、おいちいっ」
「空で食べる葡萄が美味しいそうです」
「バッバーイ!」
「さようなら、だそうだよ」
私が手を振ると、皆も続けて手を振る。
「ねえ、コレ何してんの?」
「商会の証拠を録ったって言ってた、アレ?」
「ああ、絵じゃなくて動いてるヤツ」
レーネお姉さんとリンダお姉さんが小さい声で会話している。
そう。
ラ・フェリローラルの王都に向かう野営地で絡んできたヘンな商会の言動を記録した、アレと同じですよ、アレ。
「ん!終了だ、姫さん」
「あいっ」
プロジェクター停止。ピリカお姉さん側の結界を解除。
「終わた」
「それで、何をしたんだい?」
「ピイタ、おねしゃん、みしぇた」
「今の情景を魔導師に送った」
「みんにゃ、見しぇゆ」
この空にも結界を張り、プロジェクターで今の映像を投影する。
アタシ、こう見えてンの?
ロストロニアン王国の大魔導師様に送ったんですか?!
このようになるのですねっ!ああ、興味がつきませんっ!
皆空にいるのも忘れて、大騒ぎとなったのであった。
「ちょっ、空、空っ!」
一方その頃。ピリカお姉さんは悔しい!と唸っていた。
この間空を飛べたと喜んでいたけれど、それは森の上くらい。
ミムミムが送ってきたのはかなりの上空だわ。高さが違う!
「絶対、絶対、次回はゆき殿と旅をいたしますっ。絶対に!」
一方的に映像が送られて来たのは宮廷魔術師団の会議室。
この日はロストロニアン王国の第一、第二王子も参加する会合を行っていた。
動く映像、届いた声、空高く飛んでいる情景、何故か座って葡萄を食べ、楽しそうに手を振るその姿。
魔法ヲタク集団である宮廷魔術師のエルフ達が、静かに大騒ぎを始めた。
のちに、大質問攻め大会に参加する羽目になることを、今のミムミムお姉さんは知らない。
合掌。
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