320. 幼児、伝説を名乗る
予定高度をひた走る。
途中休憩を入れたりお昼寝したりと少しばかりのんびり行程だけれど、船や歩きで進むことを考えると断然早い。
このままゆっくりと予定地まで進みます。
高度の関係で外の気圧は低いけれど、結界の中は快適だから大丈夫。
私はのんびりとキラキラ光る海を眺めながら、オレンジジュースを飲んでいた。
「あっ」
地平線の先の方に小さなシルエットが見えると同時、地図が展開する。
「船です」
「襲われているね」
地図の点を確認すると、一隻は白と青点、二隻は赤点だった。
赤点をタップすると、凶悪な海賊、と表示される。
キターーーーー!
海賊キターーーーー!
フンス!フンス!
幼児がウォームアップを始めました。
「ヤる気満々だな、お嬢」
「あいっ」
いつか着ようと用意してあった海賊の衣装を、無限収納から出す。
いそいそと服を脱ぎ始めると、ミスティルがサササッと着替えさせてくれた。
「わゆい、ちと、おちおちぃ」
悪い人はお仕置き!
「ゆきちゃんが張り切っているけれと、どうしたんだい?」
「ロージャ、おねしゃん。わゆい、ちと、メェッ、しゅゆっ」
「海賊に襲われている船を発見した。姫さんが悪い奴にお仕置きだと張り切ってるんだ」
えええっ!危ないのでは?と言われたけれど、我が家の皆と一緒だから大丈夫。
ハルパとレーヴァが残るから、お姉さん達はここで待機していてね。
さて。
一緒に行く我が家の精鋭達と私に結界3をかけ、ワイヤレス通信を装着。気配完全遮断してもらう。
私は気配完全遮断なしだよ。せっかくの衣装なのに見えないのは寂しいもん!
あ、ヒゲを忘れた。ピトッとな。
氷華がドアを開けたのでゴー!
ピョンッと飛び降り、まずは真っすぐ下に急降下。
鳳蝶丸、氷華、ミルニルが私の横で一緒に急降下していた。
スチャッ!
鳳蝶丸と氷華に至っては、ビデオカメラと一眼レフカメラで撮影中。
ゴーーーーーッ!
私は結界に守られているので髪が揺れる程度。
空気が入ってお口がビロビロビローッてならないから面白味にかけるかな?
結界解いとく?
「ダメですよ」
私がイタズラしようと画策していると、ミスティルが私に追いついて両脇をかかえた。
「悪者にお仕置きするんでしょう?早く船に行かないと」
あっ、そうだった。
直ぐ飛行に切り替え、私達は三隻の船へと向かった。
ロープのついた大型のグラップネルアンカーみたいなもの複数を引っ掛け、海賊船二隻が帆船を挟んでピタリと横付けしている。
そして海賊達はすでに帆船側へ乗り込んでいた。
「あっ、ふにぇ!」
「ええ。昨日出航したあの船だと思います」
挟み撃ちされている帆船は私が見学した船で、海賊達と応戦中だった。
船員さん達はかなり強く、一方的にやられている感じではない。
だが多勢に無勢、劣勢ではある。
私は一旦完全気配遮断して帆桁に降り立ち、皆に海賊達をなるべく一塊にするようお願いする。
「わかった。帆船に乗っているヤツらは一か所に固めるな」
「あい。おねだい、ちまちゅ」
では迅速に対応しましょうか。
拡声器を取り出すと、すかさずミルニルが持って私の口に近付けてくれる。
気配完全遮断を解いて……。
「わゆいど、いねだああぁぁぁーーー!」
悪い子、いねがあぁぁぁーーー!
「たいじょちゅ、わゆいどぉぉぉー、やっっっちゅ、てゆうー!」
海賊悪い子、やっつける!
なるべく低い声で言ってみた♪
そして玩具のレイピア(シリコン製)をシュシュッと構え、ポーズを決める私。
本当はモタモタしちゃったけれど、シュシュッとなのだ!
カッコイイでしょ?ンフーッ!
下を見ると、船員さん達も海賊達もポカンと私を見ていた。
「お嬢。たぶん言葉通じてない」
ぴゃっ!そうだった!
我が家の皆が普通に話しているから忘れてた!
え、ええいっ。
「しぇぇぇーーーい、ばいっ」
皆の者、成敗してたもれ!
我が家の四人が、気配完全遮断のまま一気に下へと降りて行く。
カッコイイ!
え?私一人になって大丈夫かって?
帆桁に乗っている風だけれど、実は飛行中なので落ちることはないのです。故に問題なしだよっ。
そして下を見ると、我が家の皆が海賊達を掴んでは放り、掴んでは放り、船首近くのデッキに集めていた。
ミスティルとミルニルは死角に隠れていた海賊達を空高く放っている。
デッキに叩きつけられた人達、痛いだろうなあ。
帆船の船乗りさん達も応戦を再開するけれど、見えない何かに敵が投げ飛ばされる現象に唖然としていた。
そろそろ集まったかな?
ん?バインボインな美女もいる。
海賊達と同じような格好だから仲間?それとも囚われた女性……襲撃している時点で海賊だよね。
んーーー……まあいいや。
ではでは。
対象、海賊船の船員。
【天罰!ラヴラヴズッキュン】
バリバリバリ、カッ!ドォォンッ!
途端に大量の雷が落ち、天罰がくだる。
海賊船の船内にいるであろう海賊達にもしっかりと天罰がくだった。
「ああん、バカバカッ!ワタシったら、おバカさん☆」
わあっ、始まったっ。フラッシュモブ・海賊バージョン!
「心はいつでもラヴラヴ、ズッキュ〜ン(はあと)」
片足立ちで固まった途端波がうねり、バランスを崩してボーリングのピンみたいに倒れまくる。そして船が揺れるたび低くなった方へ転がったり、ずり落ちたりして行く海賊達。痛そう。
このままじゃ船から落ちちゃう。それは寝覚めが悪いなあ。
じゃあ、こうしよう。
私が指定した者中心。直径二キロメートル範囲内にいる天罰が下った犯罪者集団は否が応でも一箇所に集合し、その時とっていた体勢のまま足が床から離れなくなる。
この天罰は、捕縛される際に解除される。
【天罰!ウチらはいつも一緒!ズッ友だよねえっ】
これで良し。
「やいなおしゅう」
『了解』
やり直すよ!と言うと、両腕で大きな丸を作る我が家の皆。
【天罰!ラヴラヴズッキュン】解除!
途端に怒り狂い立ち上がる海賊達。
でも解放された直後に……。
対象、海賊船に乗船する者と、仲間である者達および関係者全て。
【天罰!ラヴラヴズッキュン】
からの〜。
対象、海賊船に乗船する者。
海賊船のデッキにいるあの人物とあの人物が中心。
【天罰!ウチらはいつも一緒!ズッ友だよねえっ】
バリバリバリ、カッ!ドォォンッ!
海賊達はズッキュン体勢のまま、それぞれの海賊船にビューンと飛んでいった。
海賊船内にいた者達も扉に激突しながら…いや扉を破壊しながら、デッキにビューンと飛んでくる。
収まりきらない海賊達はメインマストや積み上げられた箱の上でラヴラヴズッキュン!していた。
あ、片足立ちだからグラグラしてる。
でも大丈夫。体は生命維持以外動かないし、足は床にくっついているからね。
では仕上げに忠告いたしましょう。
ミルニルさん、鳳蝶丸さん、お願いします。
ミルニルは私の口元で拡声器を持ち、鳳蝶丸も自分で拡声器を構える。
「わゆい、ちと。一生、てんばちゅ、あゆ」
「お前達には天罰が下った。期限はない」
「わゆい、とと、しゅゆ、うどたなちゅ、なゆ」
「悪意ある行動を取れば今日のように動かなくなる」
「ちゅい、あやため、たいじょちゅ、やめなしゃい」
「悔い改めよ。そして海賊業から足を洗え」
たぶん彼等には響かないと思うけれど…。忠告はしたからね?
「人、おたね、物、取ゆな!はたやてっ!」
人からお金や物を取るな!働け!
では最後に。
対象、海賊船に乗船する者と、仲間である者達および関係者全て。
海賊船に乗船している者は陸に到着して捕縛されたら即発動!
その他仲間と関係者達は【天罰!ラヴラヴズッキュン】解除後、居ても立っても居られず即発動!
【天罰!ごべんだざぁい!全部おはだじ、いだじまずぅぅ!】
バリバリバリ、ピシャッッッ!ドォォンッ!
自分の罪を全て自白して、二度と悪さをしないように。
まあ、ラヴズッキュンしちゃうから、悪いこと出来ないけれどね。
うーん。そんでもって、三隻の船をどうしようかなあ。
帆船は前側のマストが一本折れているし、帆も焼けちゃっているんだよなあ。
この状態で曳航は難しい……よね?
地図を確認すると近くに大きめな港町がある。そこまでならお付き合いしようかな。
私は帆桁の上から下に向かって拡声器で話す。
「せんちょ、いゆ?」
「船長はいるか」
「…………私が船長だ」
体格のよい初老の男性が名乗りを上げる。
「とのふにぇ、あのふにぇ、いっちょ、ちたちゅ、町、いてゆ?」
「この船は海賊船二隻と一緒に、近くの港町まで行けるか?」
「帆は予備がある。だがマストの修繕は時間がかかるだろう。これからじゃ夕方までかかるだろうが、夜は強い魔獣が多い。討伐しながら二隻を曳航するのは正直厳しい」
地球と違って、この世界には魔獣がいるものねえ。
「じゃ、わたち、ふにぇ、乗取ゆ!」
「ん?」
「船を乗っ取るそうだ」
「わたち、でんしぇちゅ、たいじょっちゅ。との、ふにぇ、いまたや、わたち、もにょ!」
「私は伝説の海賊だ。この船は今から私のもの、と言っている」
「えっええっ!」
「悪いようにはしない。とにかく残っている帆を下ろしてくれ。あっちもな」
「わ、わかった」
船長さんが指示を出し、乗組員の一部を海賊船に移動させる。
そして三隻のマストから帆を下ろした。
次は三隻の船それぞれに結界1を張り、全ての攻撃から完全防御にする。
海賊船には完全防御するのは止めようと思ったけれど、乗務員さんの一部が移動したから全部の船を守るよ。
その間に氷華が桜吹雪号の面々に連絡し、行き先一時変更と海面から十メートルまで高度を下げる旨を伝える。
桜吹雪号の魔石をフル充填し、帆船と連結する。
海賊船のグラップネルアンカーを外し、帆船を前に出す。
海賊船一隻の後ろ側と桜吹雪号後ろ側の結界を連結。もう一隻の海賊船と縦に並ぶよう移動し、海賊船二隻同士の結界を連結する。
帆船と前の海賊船の結界を連結する。
よし、三隻の船を縦に並べることが出来た。これで先に進めるね!
私以外気配完全遮断なので、船が勝手に動いているように見えるでしょう?
帆船の船員さん達は驚きのあまり固まっているし、海賊達はズッキュンポーズのまま目を見張っている……と思われる。たぶん。
「よちっ、じぇん、しょちゅ、じぇん、ちーん!」
「全速前進する。気を付けてくれ」
「帆を下ろしているのにか?と言うか、なぜ船が動いた?」
船長さんが叫ぶ。
皆さんには何にも見えていないからねえ。
見えているのは力いっぱい屈伸運動する私だけだからねえ。
ギギギギギ……。
私の掛け声で動き出す帆船。動力桜吹雪号。
風も舵も無視して航進だよ!
私?もちろん帆桁に乗っているフリをして飛行で進んでますよ?
腕組みして(組めてない)、威厳ある船長な感じで。
鳳蝶丸抱っこだから帆桁から浮いちゃってますが、何か?
下から見れば浮いては見えないよね?たぶん、きっと。
え?若干浮いて見えてる?……気のせいだよ?




