322. 思った通りにいかないこともあるよね
「これから島へ降り、船でウルヴァルト王国に入るよ。港町で一泊して森を越える予定。何か意見はあるかい?」
レーヴァが車内放送で問いかける。
「情報によると、ウルヴァルト王国の森を徒歩で越える場合、討伐も考えて三カ月以上かかると聞くが、車で行く予定かい?」
「そうなるね。この車だと余裕を持ってニ、三日。急げば一日で次の町に着く」
「個人的に、どんな魔獣がいるのか、どんな素材が採れるか知りたいんですが」
ローザお姉さん、フィガロギルマスの発言にコクコク頷く【虹の翼】のお姉さん達と我が家の皆。
ですよねえ?
折角の森だし、どんな魔獣がいるのか知りたいよねえ。
「にてい、みった。早め、野営、まわい、討伐、しゃいしゅ」
日程を三日にして、開けた場所を見つけたら早めに野営する。
その時討伐や採取をすれば良いんじゃないかな。
「ありがとう、姫。それで行こう」
我が家の皆も嬉しそう。
ではその予定で行きましょう。
島に着いたのは夕方。
人気が無いところで桜吹雪号を降り、急いで船着場へ行く。
「最終便に乗れますか?」
「十五名様ですね?はい、問題ございません」
最終便出航前にギリギリ間に合った。
乗船チケット代は商業ギルドで購入してくれました
そして一時間後、日没前に対岸に到着。無事ウルヴァルト王国入りした。
国境門で身分証のチェック。いつもの如く、商業ギルド長と職員、クラスSの冒険者、優秀商の行商人の組み合わせなので、凄いスムーズに入国できたよ。
ウルヴァルト王国はウアヴァルト帝国に属する大国。
広大な森を保有しており、魔獣素材や薬草などが豊富で冒険者が多く滞在する国らしい。
まずは冒険者ギルドで野営地を借りようとやって来たが、もう一杯で空いていないと言う。
「申し訳ありません。おそらく宿も一杯だと思います」
運の悪いことに、明日から狩りの大きな大会があり、二週間前からどこも一杯とのこと。
「狩りは飛び入り参加出来るか?」
「申し訳ありません。受付は終了しております」
思わず確認してしまう鳳蝶丸と我が家の皆。
皆は狩りの大会に興味が湧いたみたいだけれど、受付終了しているならば仕方がない。今回は諦めて、どこかで開催していたら出場すればいいと思う。
「皆さんが狩りの大会に出場したら、無双状態になるでしょうね」
「でもこの中で誰が優勝するのか、ちょっと興味ありますね」
ディリジェンテさんとエレオノールさんがそう言うと、ちょっと待て、と声がかかる。
「他は誰も勝てねえみたいじゃねえか。俺を舐めてんのか?優男と女とちびすけに何ができる」
ちびすけって私のこと?
「多分、俺のこと」
ミルニルが無表情でさっきのオジサンを見つめている。
……怒ってるよね。
「見た目で判断してると、痛い目に遭うよ」
「ハッ!なんだそれ。なら大会で勝負だ!それで決着だ!そうだ、賭けをしよう。俺が勝ったら大金貨五枚払え!」
約五百万エン?
私達は持ってるから問題ないけれど、そもそも負けないよ?
って言うか、私の大事な家族を優男とかちびすけって言ったことに、私は怒っているよ?
まあ、相手になんてしないけれどね。
「おねしゃん、言った。うてつて、終わてる。しよーぶ、ちない」
「受付は終わっているので勝負はしないそうだよ」
「しょえ、わたなない?」
そんなこともわからないの?
「そうだね。もう受け付け終わってるのに、勝負しようとか…クスッ」
ミルニルが小馬鹿にして笑ってる。……珍しい。
あ、我が家の皆もすっごい冷めた目になってる。
私も頬っぺた膨らまして怒ってるからね!
「お嬢さんの言う通りです」
受付のお姉さんが狩猟大会受付はすでに終わっていますとその男性に告げ、いい加減旅人に絡むのはやめなさい、と注意する。
言われた本人は顔を赤くして怒りに震えている。そして突然殴りかかってきた!
よりにもよってミルニルに!
止めたほうがいいよっ!
ああっ、ミルニルに軽く投げ飛ばされてスッ飛んでいったっ!
「今のは正当防衛ですわよね?」
「はい、正当防衛です」
エクレールお姉さんの念押しに受付のお姉さんが頷く。
壊れて外れた扉の弁償をすると言ったら、先に絡んで手出したのは彼なので、冒険者ギルドとして彼に請求をしますと、断られた。
「今回は残念でしたが、もし機会があればヤークト子爵領主催、冒険者ギルド・ヤークト支部協賛[ティーファー ヴァルト狩猟大会]にご参加ください」
「おねしゃん、あにゃーと」
「まあ、可愛い。次回はお兄さん達に参加していただき、是非優勝なさってくださいね」
「あいっ」
冒険者ギルドを出ると、エレオノールさんとディリジェンテさんが私達に頭を下げてくる。
「私達が余計なことを言ったばかりに申し訳ありませんでした」
「迂闊でした」
「君達は悪くない。ただの会話。ねえ、邪魔」
エレオノールさん達を悪くないから気にしないでと言いつつ、入り口を塞ぐ巨体の襟首を掴む。
あ、片手でポイしてる。
絡んできた男性は、意識ないまま道の向こう側に掃除されました。
もう許してあげて、ミルニル。
なんだかんだあったけれど、無事冒険者ギルドで絡まれるイベントも済んだので、泊まるところの話をしよう。
どうしようねえ。
「お嬢をゆっくり休ませたい。昼メシの時のように上へ上がるか」
「そうだね。姫、もう少し我慢して桜吹雪号を空に上げてくれるかい?」
「あいっ、だいじょぶ」
宿も野営場もいっぱいでは仕方がない。今日はお空で寝泊まりするよ。
町の外に出て桜吹雪号に乗車し、ゆっくりと高度一万メートルまで上げる。
そしてランチの時と同じ結界を張る。結界の高さは五メートルに変更した。
ここに各テントを張り、念の為転倒防止の結界3で囲む。結界3はテントの下側の結界と結合させる。
「夜はかなり怖いですね」
「港の漁火があるけれど、その他は真っ暗だからね」
「暗闇に浮かんでいるみたい」
そうだよね。
でも『付与の光』を付与すると夜空に結界の形が浮かんじゃうし、今は灯りを点けるわけにはいかないんだよ。
「ランタンで各自のテントに移動してくれ。入り口を閉めたら外に光が漏れないようにな」
皆にランタンを渡し、各自のテントに入ってもらう。
「私達は反対側にテントを張りました。用事がある場合は声をかけてください」
桜吹雪号の扉を開放しておくので、大回りが怖いならそこを抜けてきてね。
どうしても怖い場合は桜吹雪号の中で寝てもいいよ。
……浮かんでいるからテントとあまり変わらないけれど。
「空高い場所で寝ることになるとは思いませんでした。あの、今日は【虹の翼】さんのテントにお邪魔して良いですか?」
「六人泊まれるからかまわないよ」
いつもは四人用テントに一人で泊まっているエレオノールさん。今日はお姉さん達のテントにお邪魔することにしたらしい。
「よゆ、どうしゅゆ?」
「夜ご飯はどうしますか?」
「今日は各自でも良いですか?」
一回テントに入ったら、朝まで出たくはないらしい。
もちろんオッケーなので、手毬寿司弁当と焼肉弁当を渡す。
時間停止のマジックバッグに入れれば好きな時に食べられるよ。
では皆さん。明日もあるからゆっくり休んでね。
おやすみなさい。
おはようございまーす!
雲の上は晴れやかでーす!
「ねえ。下はどうなってンの?」
「あれは雲かい?」
「あいっ、ちゅも」
そうだよレーネ、ローザお姉さん。
あれは雲、雨雲だよ。
「雲って、ビッグホーンシープの羊毛みたいなンじゃないの?」
「ちあう。しゅいてち、とおい、ちゅぶ、あちゅまい」
「水滴や氷の粒が集まったもので、羊毛みたいに触れられるものではないよ」
「地上、すいじょーち、あだゆ。そや、ひてゆ、ちゅも、なゆ」
すっごく簡単に言うと、地上から水蒸気が昇り、上空で冷えて雲になるんだ。
地上から見ると羊毛みたいだけれど、実際は手で掴めないよ。
「へえぇ」「ほおぉ」
皆が私の話を聞き入っている。
状況によるけれど、雲の中は強風で危険だから、生身での体験はお勧めしないかな。気圧が低くて人の体が耐えられるかわからないしね。
「ごめんだけど、言ってることがわからない」
「あたしもだ」
レーネお姉さんとリンダお姉さんが肩を竦める。
「すみません。私も所々分からないのですが……端的に言うと、地上の水や水滴が暖められて目に見えぬ霧となり天に登って、今度は天で冷やされて雲となり、その一部が雨として降り落ちる、ということですね?」
「うんうん。合てゆ」
「合っているそうだよ」
「はあ……何ということでしょう!私は今、世界の仕組みの一部を知ってしまいましたっ。感動です!」
フィガロギルマスがおにぎりを片手に感動している。
おにぎりを掴むイケメンエルフ……ちょっと残念である。
「干ばつは地上の水が干上がってしまったから雲が発生せず、雨か降らないのでしょうか?」
それも一部あるかもしれないけれど、そもそも地上の水が干上がる現象があったからが大きいんじゃないかな。
気温の上昇、高気圧の停滞、気候変動。
川の上流を堰き止められた、森林の伐採など、人工的な要因もあるよ。
「あとは魔素不足だな」
「若しくは精霊を怒らせ去られたか、ですね」
おおうっ!そういう理由もアリなんだ?
鳳蝶丸とハルパの意見を聞いて、地球とは違うのだと改めて思う。
精霊や魔素不足が原因になるなんて、全く思いつかなかったよ。
「色々な要因があるのですねえ」
「この旅程で色々と勉強になります。楽しい旅です」
「普段目に出来ないものも、沢山見聞き出来て新鮮です」
フィガロギルマス、ディリジェンテさん、エレオノールさんに楽しんでもらえて嬉しいな。本来は過酷な旅なんだろうけれど……やっぱり楽しいが一番だよね!
朝食も終わり、只今桜吹雪号はゆっくりと下降しております。
雲の中は強風と雨粒と氷で荒れていたけれど、桜吹雪号はびくともしないし安全だよ。
やがて雲を抜けると、嵐ほどではない強めの雨が降っていた。
視界が悪いので、昨日寄った町や森が朧げに見える。
車の高さは森の木々より少し上くらいで止めた。
「打ち合わせ通り、森を抜ける期間は四日の予定だが、変更の可能性もある」
「ちょう、パイヨト、ミシュチユ、コパイヨト、鳳蝶まゆ。しゅぱーちゅ!」
「出発する」
今日のパイロットはミスティル、コパイロットは鳳蝶丸です。
「あえ?イパーイ」
私はレーヴァのお膝の上。窓から外を眺めていると、森の入り口に人がいっぱい集まっているのが見えた。
「たい、たいたい…。たい、たぃたぃ」
「可愛い姫。『狩り大会』の準備をしているのかもね」
えっ、雨降っているのに?
「風が強く嵐の場合は中止になる。でも普通の雨ぐらいだと開催されることもあるんだ」
ローザお姉さんが言うには、普通の狩りの場合に途中で雨が降り出すこともある。だから雨中にも正しい行動がとれるかを審査対象にして開催する大会もあるとのこと。
「もちろん、獲物の等級と頭数が一番の選出基準だよ。それに雨天中止にする場合もある」
そこは主催者の意向によるところが大きいんだって。
「雨天決行か中止かが開催直前に発表されるので、とりあえず集まったんじゃないかな」
なるほどぉ。
それでも出場したいほどこの大会に掛ける何かがあるのかな?
皆さんずぶ濡れになると思うけれど、優勝目指して頑張ってね!
桜吹雪号は順調に森の上を走る。
黒々とした深い森、ティーファー ヴァルトは広大で、山の向こうまで続いていた。
「同じ大陸ですが、森のこちら側と向こう側は違う人種が住んでいるのですよ」
ハルパの説明にも納得できる。
私達のいるこの場所からも、森の終わりが見えないくらい広いもんね。
しばらく走っていると、少し開けた場所が見えてくる。
「あの辺りにするか」
「降りることができそうですね」
見つけた場所に降り立ち、そこで野営することになった。
予定通り早めに時間なので、皆は魔獣の調査や薬草などの採取をしに行っている。私は鳳蝶丸と一緒にテントでお絵描きをしたり、シュレおじいちゃんにお手紙を書いたりしていた。
夕食は、お姉さん達とフィガロギルマス達が野営食にすると言うことで別々に食事をし、夜になって焚火を囲みながら軽く打ち合わせをする。
【虹の翼】のお姉さん達の報告は、脅威となるような魔獣は生息していないので特に討伐する必要は無かったとのことだった。
フィガロギルマス達は薬草類を採取したけれど、特に珍しいものでも無かったと言う。
レーヴァ達も相手になるような魔獣がいなかったので、狩りは止めにして散策だけしてきたらしい。
「もい、はやちゅ、むてゆ?」
「森を早く抜けてしまう?とのことだよ」
「そうですね。特に欲しいものもありませんし……。どれくらいで抜けられそうですか?」
「障害物もない。明日中には森を抜けるんじゃないか?」
「うん」
皆で話し合い、もう森を抜けてしまうことが決まった。
明日早朝集合し、直ぐに出発することにする。
「ペネスチア王国には、予定より早く到着しそうですね?」
「そうなったら近くの町で調整すれば良いんじゃないか?」
このまま順調に行けば、商業都市フェニチュア近隣の町へ三カ月より少し手前で到着する。
フィガロギルマスの意見は、三カ月前に到着したら商業ギルド総本部で大騒ぎになる。せめて三カ月半以上、出来れば四か月と少しほどを時間をかけた形にしたいと言う。
「なんとた、町、泊まゆ。たんとう、しゅゆ」
いくつかの町で泊まりつつ、観光しながら移動しよう。
カゼアリア共和国かロストロニアン王国の森でもうちょっとゆっくり観光すれば良かったなあ。何だか焦っちゃって、色々飛ばしちゃった。
日本にいた時から待ち合わせ時間より早く到着して、珈琲を飲みながら待っちゃうタイプだったんだよねえ、私。
まあ、このあとの町で観光すれば良いか。
それでもなお余裕が出来ちゃったら、どこかにフラっと行こうかな。うっかり長くなりそうなダンジョンは行かない方が良いけれど…。
フィガロギルマスに転移の門戸を明かした今、我が家に招待してゆっくりしても良いしね。
「主殿の案が良いでしょう」
「あと二カ月弱、楽しもうな、姫さん」
「あいっ!」
次の町はどんなところかなあ。
楽しみでワクワクするね♪
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誤字報告も大変助かっております。いつもありがとうございます。




