305. ザクッ、ジュワ、プリッは美味しい音ナリ
気が付くと、十五時近くになっていた。
早くいかないとお店が閉まっちゃう。まずは皆のところへ行って、一旦外に集まってもらう。
「じ、時間停止付きのバッグを貸して下さるんですか?!」
「あいあい」
「自分達だけミルクやチーズを買うのが心苦しいらしいです。我が主はとても優しいので皆に貸し出しするそうです」
「ただし、貸し出し期間は二年。ミールナイトに戻ったら返してもらうぜ」
「非常にありがたい。生ものを買って帰れるのが嬉しいです」
うんうん。やっぱりミルクやチーズを購入したかったよね。
テント前にテーブルと椅子を出し、まずはミニ子ちゃんのお披露目です。
「可愛いっ」
「私達にもいいのかい?」
【虹の翼】のお姉さん達が嬉しそうにミニ子ちゃんを眺める。
「え?一人一つ?」
「貸出料金はおいくらですか?」
エレオノールさんとディリジェンテさんは貸出料金を心配している。
「貸出料金はなしで良いそうです。主殿はただただ気兼ねなく買い物がしたいだけなので」
「しかし…」
「気になるのでしたら、ソグナトゥスを売ったあとに幾ばくかいただければ良いです」
「ありがとうございます。とても助かります」
というわけで、各自好きな物を選んでもらい登録する。
使い方は貸し出しているマジックバッグ(&ダガー君)と同じなのでお姉さん達とフィガロギルマスは問題なく使えるよね?エレオノールさんとディリジェンテさんは初めてだと思うので、使い方はフィガロギルマスが教えてね。
「俺達はこのあと村営の店に行くが、旦那らはどうする?」
「行きます。行きますよ!少しだけお時間をいただけますか?」
「かまわん」
フィガロギルマスがマジックバッグの使い方を二人に教え、十分ほどで完了。
テーブルと椅子を仕舞ってから、皆でお店に行ってみた。
村営のお店は、店舗というより作業場とか工房って感じだった。店内を覗くと、チーズやミルクの他にも色々と売っているみたい。
まずは小さくカットした色々なチーズを試食させてもらおう。
この村ではチーズに決まった名前は無く、[何々家のチーズ]みたいな商品名だった。ちょっと覚えられないのでわかりやすく言うと、マスカルポーネ、クリームチーズ、ゴーダ、チェダー、グリュイエール、モッツアレラチーズに似たチーズが作られていた。
どれも美味しかったので、それぞれを沢山購入したよ。
あとはさっぱり系のミルクもファームミルク容器三本分買った。
面倒なので私が再構築・再構成したホーロー寸胴鍋を出して、そこに直接入れてもらう。
この下の突起は何?と聞かれたのでミルクが出せる蛇口だと説明したら、お店の試飲用に使いたいので購入させて欲しいとお願いされた。
ミルクとチーズ一万エン分と物々交換で商談が成立しました。
ちょっと商人っぽい?ヘヘヘ♪
あとはウットティティーという鳥(魔獣ではなく普通の鳥)の卵を沢山と、ソーセージをニ十本ほど購入。
全て鳳蝶丸達のマジックバッグに一旦入れてもらい、あとで私の無限収納に移動予定です。
フィガロギルマス達やお姉さん達も色々なチーズを購入していた。
ワインに合うチーズが買えると楽しそうにしていたので、マジックバッグを貸し出して良かったって心から思う。
皆それぞれ好きな物を購入出来たし満足満足、だね♪
村長さん宅は動物がいるし静かな方が良いだろうと言うことで、今日の夕食は外で食べず、2ルームテントに招待すると皆に伝える。
そしてテント前十九時の約束をして一旦解散した。
その間何をするのかって言うとお料理!鳳蝶丸達が、だけど。
鳳蝶丸はアレやアレを切ってください。
ハルパとレーヴァはアレとアレをアレして…。はい、熱いうち無限収納に入れておくね。
そして異世界と言ったら定番のアレを作って、氷華に粗熱とってもらって、冷やしてもらって無限収納へ。
あ、アレも作ろう。攪拌はミスティルとミルニルでお願いします。
足りない材料は再構築だけれど、なるべくフェリアで手に入れた材料を使うよ。
切ったり、火の調整をしたり、皆が大活躍。ワイワイ作業をするのは楽しいね。
……私は作り方を伝えるだけなのがちょっと残念。
「あい、いなたい、ましぇ」
「お邪魔します」
「わあ、久しぶり」
約束の十九時となりました。
フィガロギルマスとレーネお姉さん、他の皆と続き、最後にエレオノールさんとディリジェンテさんが2ルームテントへ入って来る。
お着替えテントを使っているから流石に飛び出すほどは驚かなかったけれど、玄関をキョロキョロ眺めている二人。
「はあ。凄いわ、このテント」
「ここまで広いとは」
最近お家に帰ることが多かったけれど、このテントも快適なんだよ♪
さあさあ靴を脱いで、中へどうぞ。
「念の為言っておくが、使い方を知らずに触ると危ないものもある。備品はいじらないでくれ」
「トイレの場所はこちらです。この部屋と隣の部屋を使ってください」
「わかりました」
鳳蝶丸とミスティルが簡単な説明をする。
2ルームテントにあるお客さん用の部屋と[お着替えテント]のつくりはほぼ一緒なので、使い方の説明は省いてもいいよね?
「ここにも部屋があったんですねえ」
フィガロギルマスが入ったのは、立冬祭の時だったっけ?
その時はキッチン周りしか案内しなかったもんね。
「おちゅ、おふよ、あゆ。じたんあゆ。たいほうしゅゆ」
「奥には風呂がある。時間の余裕がある日に開放するからその時入ってくれ、だそうだ」
「おっいいね。最高だったからまた入りたいよ」
「ええ、ぜひ」
お姉さん達がお風呂のことを思い出して喜んでいる。
また一緒に入ろうね!今度はエレオノールさんも一緒に入ろう。
「いいんですか?ぜひ、お願いします」
「驚いてお風呂から飛び出さないようにね」
ウキウキしているフィガロギルマスにレーネお姉さんがツッコミをいれる。
「流石にもう驚きませんよ」
「裸で飛び出してきそうだけどね」
リンダお姉さんも容赦なくツッコミを入れていた。
「さて。そろそろ食事にしましょう」
「ではここに座ってくれ」
皆床座に慣れていないだろうから、今日はキッチン近くに六人掛けテーブルを三台と簡易テーブルを用意した。
寛ぎの間は寝っ転がるにはいいけれど、食事には合わないからね。
皆が着席したので、簡易テーブルにまずは飲み物を出していく。
「今日はとんかつとエビフライ定食だよ。お好みで中濃ソースかタルタルソースで食べてね。さっぱりさせたい時はこの柑橘類を絞って。ピリ辛が欲しい時は和辛子を少しだけつけて食べると美味しいって」
本日の定食は、とんかつとエビフライ、千切りキャベツとトマト、ほうれん草の味噌汁、しば漬け、ご飯です。
おかわりもどうぞ!
私はとんかつもエビフライも和辛子タップリ中濃ソースが大好きだった。
幼児だからちょっぴりだけつけて食べるんだ。
本物の赤ちゃんは食べちゃダメだよ!
先ほど作っていた一つ目はバイオレントホグエンペラー(SSS級)のロースとカーシュリンプを揚げて、とんかつとエビフライにしてもらいました。
カーシュリンプは、南の島で海に潜った時に皆で獲った魔獣。
鑑定ちゃんが上品な香りと甘みのとても美味しい魔獣って教えてくれたので、皆におねだりしちゃった☆
前は大人になってから発症したアレルギーのせいで食べられなかったんだ。
楽しみすぎる。嬉しーい!
さあ、皆でいただきましょう。
揚げたてなのでどちらもアッツアツだよ♪火傷に気をつけてね?
「いたあち、ましゅ」
「いただきます」×全員
サクッジュワ。
鳳蝶丸がカツを小さく切って口に入れてくれた。
肉汁溢れるお肉。甘みのある脂。最高に美味しい。
「おいちっおいちっ。ンフフ」
「良かったな、お嬢」
「あいあいっ」
思わず両手で頬を押さえて左右に揺れちゃう♪
私が頬張ると、皆も食事を始めた。
「本当に、すごく美味しい」
「外側がサックサクで、このソースがまた合う!」
「うわっ。すっごい美味しい!柑橘類をかけるとさっぱりするんだね」
「お肉が柔らかいですわ」
「肉汁溢れる…」
ローザ、リンダ、レーネ、エクレール、ミムミムお姉さん達に大好評だった。
「お嬢」
「あーん」
サク、プリッ。
次のカーシュリンプはタルタルソースでいただきます。
プリッとして甘みがあり、本当に美味しい。
「うーん。なんと美味なんでしょう。これは…カーシュリンプですか?港町で塩ゆでを食べてことがありますが、こちらの料理の方が私の好みです」
「プリッとして甘みもあって、海老の香りもしっかりありますね。まわりは…パンですか?油で煮ると歯ざわり良くなるんですねえ」
「んんん、美味しい。町にこんなお店が出来たら、毎日通いたい。でもミールナイトでのお値段は…カーシュリンプもありますし…このセットで一万エン以上かしら。はあ、毎日は通えないわ」
フィガロギルマス、ディリジェンテさん、エレオノールさんも気に入ってくれたみたい。
たぶん定食なら千五百エンから二千円くらいで売ると思うよ。
でも今のところお店を開く気はないかな。だってずっと町にいるわけではないし。……揚げ物の屋台ならいいかも?
「はあ、美味しかったあ」
「お腹がいっぱいになりました」
皆、満足満足の笑顔で私も嬉しい。
「こち、やしゅむ」
寛ぎの間の人ダメソファで休もうよ。
鳳蝶丸達に人数分のソファを出してもらい、皆で横になる。
「ああぁ…ダメになりそう」
「動きたくない…。太ってしまいそうです」
「でも抗えないんですよ、このソファ」
エレオノールさん、ディリジェンテさん、フィガロギルマスがぐったりソファに身を預けている。
「訓練したいけれど、牧場では止めた方がいいか」
「動物達が驚いてしまいますわ」
そうか。お姉さん達は体がなまってしまうよね。
本格的に考えなくてはいけないな。うん。
明日移動しながら色々と設備を整えるね。
一時間ほど休んでから皆テントに戻って行った。
車をちょっといじりたいと言ったけれど、今日は寝るようにとミスティルに抱っこされる。
「時間はまだあります。主はもうお休みの時間ですよ」
「あい」
背中をポンポンされてだんだん眠くなる。
「あちた、あしゃ、早…おち………」
明日朝早く起きたいと伝えたかったけれど、最後まで伝えられず。
今日はもうおやすみなさい。
おはようございます。気が付いたら朝ごはんの支度が整っていました。
魔道具化したパン焼き機でトーストを焼き、コンロでハムエッグやソーセージエッグを皆で手分けして焼いたようです。
ドリップした珈琲の良い香りが漂い、テーブルにはサラダも置かれています。
「姫さん、まだ眠いか?朝食の時間だぞ」
氷華に抱っこされている私はまだ黒猫ロンパースのまま。
「うえ…えーん」
眠くて何故か泣けてくる。
「ちょっ、泣いてる。姫さん泣いてる」
「さあ、主」
氷華が慌ててミスティルに私を預けた。
まだ慣れていないのにごめんね。グズりたくないんだけれど、どうにも出来ないんだよ…。
「まだ眠いですね?でも出発の準備をしないと。主、ミルクを飲みますか?」
椅子に座りながらあやしてくれるミスティル。
冷たくて美味しいゴールデンカーンジィーミルクが入ったストローマグを口元に持ってきた。
条件反射でチューっと吸う私。
「おいち…」
へへへえ……。
にへぇっと笑顔になっちゃう。
「ふふふ。鳳蝶丸、パンを小さく切ってください」
「了解」
「主。パンと何が食べたいですか?」
「お嬢。ソーセージも卵焼きも小さくしたぞ」
私にだけ甘い卵焼きを作ってくれたみたい。
黄色くてフワフワで甘くて美味しい卵焼きを頬張りモグモグと食べる。
周りからカトラリーや食器の触れる小さな音と小さな話し声が聞こえ、それがなんとも気持ちよい。
「ゆき殿もこんな日があるんですねえ」
「ぁぁぁぁぁ、可愛いっ」
「目を瞑りながらモグモグしてる…」
フィガロギルマス達は私に気遣って小声にしてくれているみたい。
ローザお姉さん達やエレオノールさんが身もだえしていた。
ネムネムな私でごめんなさい。
目覚めるまでもうちょっと待ってね。




