304. いよーしっ 沢山買うぞう☆
「本当に寄らぬのか」
「はい。私は仕事の途中でロストロニアン王国に寄っただけです。時間がありませんのでレヘデットには寄れません。兄上によろしくお伝えください」
レヘデットとは、ヴァーヘテラ地方にあるフィガロギルマスのお兄さんが住む町の名前。
私は別に寄ってもいいんだけれど、フィガロギルマスは先に進みたいらしい。
エクレールお姉さんも、その方が良いと言っていた。
「寄るのでしたら時間に余裕がある時をお勧めしますわ。エルフは気が長いので…数日かけた歓迎会が始まってしまいます」
うーん。それは困る。
「一通りの仕事が終わったら、また参りますよ、母上」
「約束じゃぞ」
「はい」
なんだかんだ言って、息子が心配なんだろうなあ。
「その時まで、またな、フィガロ」
「息災でいるのだよ」
「はい。母上、父上」
「ゆき様もどうか健やかに」
「またお会いしましょう」
「あいっ」
行きたいところが沢山あるし、ロストロニアン王国にはまた来るよ。
「ヴアーヨ、しゃん。ウーシェ、しゃん、バイバイ。またね」
「はい。また」
「またお会いしよう、ゆき様」
町の防御壁にある門の前。ヴァロさん達とはここでお別れ。
私達は来た道を引き返す。
後ろを向いて手を振ると、ルーチェさんは頭を下げ、ヴァロさんは手を振り返してくれる。
ピメイスさんと精鋭達もルーチェさんに合わせ、頭を下げていた。
バイバイ、また来るね。
ソルスティスマルシェ楽しかったよ!
桜吹雪一号車は街道を外れ、北東方面に進む。
草原や沼、湖、川、山を越え、途中の町で食事をしたり、野営を入れながら次の国境に辿り着く。
「まさかヴァーヘテラから二日で、国境付近に到着するとは思いませんでした」
ディリジェンテさんが肩を竦める。
ここはカゼアリア共和国。酪農で有名な国。
本当は牧場見学などゆっくり観光したかったけれど、今回は諦めて美味しい牛乳とチーズを購入したらそのまま先に進みます。
国境越えはわりとスムーズだった。
商業ギルド長と職員、クラスSの冒険者、優秀商の組み合わせだもんね。
「この国で一番美味しいゴールデンカーンジィーミルクを売っている村は、ヴァイスミルヒ村です。チーズの種類も豊富ですよ」
「しょと!ミユシ!」
そこ!ミルヒに行こう!
ディリジェンテさん情報でヴァイスミルヒと言う村に寄ることになった。
ヴァイスミルヒ村は広い土地を木製の防御壁で覆っている村だった。
門にはお兄さん達が二人立っている。私達が身分証を見せるとお兄さんの一人が慌てて走って行った。
「あんた達、本当に商業ギルドと優秀商なんかい?」
「はい。ミールナイトの商業ギルド長です」
「あんれえ。すっごい別嬪さんと色男達だもんで、お貴族様かとびっくりしたあ」
門番のお兄さんは屈強な体の、どこかのんびりした人。
【虹の翼】のお姉さん達、フィガロギルマス、エレオノールさん、ディリジェンテさんは元々美女&イケメンだけれど、私が再構成・再構築したシャンプーやトリートメントを使っているので更にツヤツヤ。そしてキラキラな我が家。
貴族と思われてもしょうがないよね。
いや、貴族出身が若干名いるから嘘でもないかな。
「この村のミルクとチーズが美味しいと聞いたので少しばかり購入したいのですが、どこに伺えは良いでしょうか?」
「そんなら一度村長さんトコ行っとくれ。さっき走ってったのが村長さんトコの孫だあ。多分あんた達が来たって伝えとる。この道を真っ直ぐ進むと大きな家と牧場が見えるから。そこが村長さんトコだよ」
「わかりました。ありがとうございます」
村に入れてもらい、門番さんに教えてもらった村長さんの家を目指す。
しばらく進むとやがて大きな牧場となり、その先に大きなログハウスが見えた。あの大きな家が村長さんの家だね。
お家を目指しながらのどかな牧場を眺める。
牧場の左側は牛っぽい生き物。右側は馬っぽい生き物が柵の中に放牧されていた。
「主さん。あれ、ゴールデンカーンジィーだよ」
「わあ!」
ゴールデンカーンジィーは牛に似ている、かなり巨大な魔獣だった。
仲間や子に危害を加えなければ襲ってくることはないし、美味しい牧草や野菜を与えるとミルクを絞らせてくれる、比較的安全に家畜化された魔獣だとのこと。
「わあっ」
もっしゃもっしゃ牧草を食べ、のんびり過ごしている姿はまさに牧場。
「姫、子供がいるよ」
「ちっ………、たわいいね」
小さくてって可愛い言おうとしたけれど、大人の牛くらいの大きさ。
大人のゴールデンカーンジィーが巨大だから小さく見えるだけなのね。
反対側の柵内も見てみる。
「見た、あゆ!」
あの馬はどこかで見たことあるなあ…。
あっ、ピピパライ兄弟の馬車を引いていた、神話に出てくるスレイプニルっぽい六本足のお馬さん!
スレイクって魔獣だっけ?
「ピピ、ピッピ、パヤパッパ……」
うがあっ、言えないっ!
「そうだ、お嬢。あの馬車旅の馬と同じ種類だ」
「ええ。確かにピピピッピパヤパッパっぽい名前の馬車でした」
「そうだったね。ピピピッピパヤパッパだった」
ああぁ…繰り返さないで、ミスティル、レーヴァ…。
「ハハハッ。まあ、それでいいじゃないか、お嬢」
皆も微笑ましいって感じの笑顔を浮かべている。
ま、まあ、皆が楽しければいいよ。
あ、あの芦毛お馬さん、スタイルがシュッとして綺麗!
私が手を振ると前足を高く上げてからキリッとした表情を見せてくれた。
カッコイイ!
「素晴らしい芦毛のスレイクですね」
私の横でお馬さんを褒めるフィガロギルマス。
あっ。ギルマスに舌をベロベロ出して変顔をした。
面白い!
「あの子は優しい子だが気性が荒いから気を付けておくれ」
大きな声が聞こえたので声の主を見ると、先ほど門にいた青年とほっそりした老齢な男性がこちらに歩いてくる。
フィガロギルマスは体の向きを男性に向けて待つ。
「ヴァイスミルヒ村へようこそおいでなすった。村長のモリック。それから孫のエリリックです」
「初めまして。突然の訪問失礼いたします。私はミールナイト商業ギルド、ギルド長のフィガロと申します。こちらは旅の仲間です」
フィガロギルマスと村長さんが簡単な挨拶を交わす。
「早速ですが、この村のミルクやチーズを購入したいのですが、可能でしょうか?」
「もちろんできますよ。試食と試飲はいかがかな?」
「可能であればお願いします」
村長さんが自身のチーズ工房へ案内してくれた。
この村では各家で工房を持っており、多種類のチーズを作っているそう。それと村営の小さなチーズ売り場兼工房もあり、村営のお店だったら村中のチーズが買えるし、個人宅から購入しても良いとのこと。
「まずはワシの牧場のチーズとミルクをご試食くだされ」
村長宅の工房でミルクとチーズをいただくことになった。
「温めた方がよろしいかな?」
村長さんはそのままで飲むか温めた方が良いかと聞いてくる。
フィガロギルマスは、我らは心配ありませんと応えていたけれど…。
念のため鑑定ちゃんで調べてみる。
濃厚で美味しいミルク。そのまま飲んでも可。美味。
少し魔力が入っているので魔力なしの者以外には体に良い。
魔力なしの者が飲むとお腹を壊すことがある。温めてから飲むことをお勧めする。
と言うような内容が書かれてあった。地球でも冷たい牛乳をゴクゴク飲むとお腹を壊すことがあるもんね。
「ではどうぞ」
小さな木製のコップにミルクを入れてもらって試飲する。
「おいちいっ」
ゴールデンカーンジィーミルクは濃厚で甘味が強い牛乳と言う感じだった。
ホワイトシチューにしたら美味しいかも。お菓子とか…アイスにしたら凄く美味しいかも!
私が美味しく飲んでいたら、村長さんがもう一杯飲ませてくれた。
「我が家のミルクは濃いんですじゃ。別の家にはもう少し軽い口当たりのミルクもありますよ」
それならカフェオレとかミルクティーにいいかも。
「こちらは我が家で作ったチーズですじゃ」
「はい、主さん」
ミルニルが小さくして口に入れてくれた。
はあぁ、美味しい!
パルミジャーノ・レッジャーノに似てる!すっごく好きなタイプ♪
「ほちい。ミユユ、チージュ、たちゅしゃん、ほちっ」
「姫はミルクもチーズも沢山欲しいんだね?」
「あいあい」
「姫さんが美味いと言った物は本当に美味いもんな」
「そうですね。主殿が気に入ったので、可能な数量を全て買い取ります」
「えええ!で、でも、ミルクは保存が…」
「俺達は時間停止のマジックバッグを持ってるから大丈夫だ」
「時間停止!」
「ああ、ええと、彼らは優秀商なので、特別なんです」
ディリジェンテさんが何故か慌てて弁明する。
エレオノールさんが、時間停止のマジックバッグは一部の王族しか持っていませんよとこっそり耳打ちしてくれた。
私達は最初から秘密にしたことないし、盗難に遭っても誰も使えないし、呼べば戻ってくるし、問題ないよ?と言ったら、驚かれちゃった。
「む、無頓着過ぎでは?」
エレオノールさんが大汗をかいている。
前から言っているけれど、私達は自身の正体を秘密にしているわけではない。ウル様からもOKをもらっているし大丈夫。
ただ、面倒なことにならないように敢えて言わないだけ。
魔法契約を何故お願いするかと言うと、私達のことを知っている人が悪人に利用されたり害されたりしないよう、対象者を守るためだけなんだ。
「姫…主…時間停止……不敬罪!ひえぇぇ…どうかお許しを」
って、秘密が漏れる話じゃなくてそっちに流れて行った!
久しぶりだから忘れてたよう。
フィガロギルマスにも口添えしてもらって、王族でも貴族でもないことを説明する。時間停止のマジックバッグはダンジョンドロップで手に入れたってことにしておこう。
「本当に、本当ですかな?」
「あい。しょうでしゅ。わたち、ふちゅう、あたたん」
そうです。私は普通の赤ちゃんです。
「いやいや」「いやいやいやいやいや」
普通の赤ちゃんって言ったら総突っ込みされちゃったよ。
そこは頷いておいてってば。
「と、言うことでご安心ください。我らは商人関係者と護衛の冒険者の集団ですから」
「は、はあ……」
フィガロギルマスの簡素な言い訳に、訝し気な村長さん。
まあ、とにかく納得しておいて。うん。
村長さん宅ではファームミルク容器大(陶器)のミルクを十本分、チーズ三十五キログラムを十個購入する。容器は後で返すとしても結構なお値段になった。
でも余は満足じゃっ♪
「主殿を休ませたいので、今日はこの村で一泊して良いですか?」
「もちろんかまわんが、この村に宿泊施設は無いんじゃよ」
「どこか空いている場所に、テントを数張り張らせてもらえれば問題ありません」
「ワシの家に皆さんを招待できれば良いのだが、狭くて全員は難しく…まこと申し訳ない。問題ないのであれば、我が家のあちら側に開けた場所があるので、そこにテントを張っておくれ」
「助かります」
村長さんの許可を取って、今日は村長さん宅の敷地にテントを張らせてもらうことになった。
早速お姉さん達やギルマス達の[お着替えテント]と、私達の2ルームテントを設置する。
「一、二時間ほど休憩します。主殿が目覚めたら皆に声をかけます」
「わかりました。私達も休憩しますね」
今は十三時。
お昼ご飯用のお弁当を配ってから解散です。
私はそれほどお腹が空いていないので、お昼寝を優先しよう…とその前に、少しばかり作成作業をするよ。
私は村長さんからミルクやチーズを沢山買えたけれど、お姉さん達は品質を保てないからと諦めていた。自分だけ買うのは心苦しいので、時間停止のマジックバッグを貸し出そうと思います。
思いついたのはカラビナ付きミニミニポーチ。
名前はミニ子ちゃん一号から八号。
まずはとても小さなカラビナ付きミニミニポーチを八個再構築。
それをシマエナガ一号、子ペンギン二号、白オコジョ三号、レッザーパンダ四号、ハリネズミ五号、カワウソ六号、ホワイトタイガー七号、パンダ八号に再構成。
このミニミニポーチをマジックバッグ化します。
時間停止付き、容量は大きな講堂くらい、メイン登録者は私、サブは鳳蝶丸達。あとは八人それぞれを登録する。手元に戻る呪文は”召喚、ミニ子ちゃん〇号!”。
貸し出しはフィガロギルマスのフェニチュア滞在期間を考慮して二年間とします。
うん。よし、出来た!
これで気兼ねなく買い物が出来るよ。
次に蛇口付き業務用寸胴鍋を再構築。再構成で少し大きくして五十リットル入る容器に変え、材質をホーローにする。
「でちゆ、たなあ」
出来るかなあ。
ちょっと試したいことがあるけれど失敗すると怖いので、ミルクの入ったファームミルク容器を一つだけ複写し、半人スキルで『解体』してみる。
おおっミルクと容器に分けることが出来た!
ではでは。先ほど作った蛇口付きホーロー寸胴鍋を一つ複写し、今度はミルクをドラッグ&ドロップで入れ、無限収納から出してみる。
蓋を開けて確認すると、五十リットルに少し足りないかな?くらいのミルクが入っていた。
うん、これで返却出来るね。
作成したホーロー寸胴鍋を複写し、購入したファームミルク容器十個分を全て移し替える。そしてファームミルク容器を清浄で綺麗にすると、ハルパが村長さん宅へ返却に行ってくれた。
「でちた、でちたあ!たいたい、でちたあ」
「お疲れ様、主さん」
解体で中身を取り出せたのが嬉しくて興奮する私を、ひょいと抱き上げるミルニル。
「主さんお昼寝しよう?」
「眠、ないよ」
「うんうん、そうだね。よしよし」
「でちたの、うえちい、みんにゃ、言う…ネムない…ねにゃい…寝………」
皆に報告しようと思ってたのに、ミルニルが揺れながらポンポンするもんだから…。
そのまま……おやす………。
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誤字報告も大変助かっております。誤字脱字変換間違え魔王で申し訳ありません。
いつもありがとうございます。ありがとうございます!m(_ _)m




