299. うんうん、いらないよ 思い出しちゃうからっ
登城予定の朝、六時。
眠い目をこすりながらミスティルに支度を手伝ってもらう。今のところまだ軽装で、朝食後に着替える予定。
「昨夜ギルド長が一時的に帰って来ました。物凄くヨレヨレでしたよ」
心なしかミスティルが楽しそう。
ミスティルとハルパは、私以外にちょっと意地悪なお兄さんだからね。
「でもすぐ出かけたようです。今日は実家から直接登城すると聞きました」
「しょなの。わたた」
じゃあ、お姉さん達とエレオノールさん達の分だけを用意すればいいよね。
なにを用意するのかというと、フォーマルウエアを作る予定なの。
皆はこの旅にフォーマルウエアを持って来ているんだけれど、エルフ達は全体的に服装が白っぽいもんだから、私達の服装は目立っちゃうんだよね。
だから皆の持ってきた洋服を見せてもらって、再構築・再構成で同じお洋服の白系バージョンを作る予定なんだ。
朝食の後それぞれのテントへ行き、銀やホワイトゴールド、白、クリーム色などに変えてフォーマルウエアを再構築・再構成する。
そうだ!ついでだから釦や装飾品を偽装した魔石で作って、危機が訪れた時に結界を張れるようにしようかな?
いやちょっと待って?それはダガー君で事足りるよね?
あっ、アレをコウすれば良いかも!
ふんふんふんふんふーん♪
「胸騒ぎがするんだけど…」
「色んな意味でゴージャスな服………」
「妖しい…。途轍もなく怪しいですわ…」
リンダお姉さん、ミムミムお姉さん、エクレールお姉さんがゴクリと喉を鳴らす。
「もうアタシ、全部受け入れてる」
「何が出来るか楽しみだね」
レーネお姉さんとローザお姉さんの笑顔が引き攣っていた。
はい、いっちょ上がりぃっ!
悪意ある者・物を通さず、物理・魔法攻撃を全て無効にする、結界3で囲まれた服ー!
本人は結界を通すので、着心地は普通ダヨ☆
でもフェリアの服はちょっと着心地悪いから、全部肌触り良くしてあるからね。
「あいっ」
ンフー!
鼻息荒くお姉さん達に渡す。
見た目はお姉さん達の元々持っているフォーマルウエアの白バージョン。
「魔石でも仕込むのかと思ったけれど、魔力は感じない」
「あたし達の服の白バージョンって感じ。触り心地がすごく良い」
ローザお姉さんとリンダお姉さんは自分用の服をまじまじと眺め、触り心地を確かめている。
ミムミムお姉さんは何度も服を触り、顔をバッと上げた。
「感じる。師匠の結界の気配」
「ええ、結界の存在を感じますわ」
「うん。間違いない」
うわあっ、ミムミムお姉さんとエクレールお姉さんにバレてるう!
「結界付きなのかい?」
「あーい」
ローザお姉さんにじっと見つめられ、思わず目を逸らす。
「騎士達の鎧より頑丈」
「触ると触り心地が超良い、高級服って感じだよ?」
ミムミムお姉さんが頑丈だと言うと、レーネお姉さんが自分の服の襟と裾を手に持ち洋服をパンと張る。
ガッ!
ひゃあっ!
途端にローザお姉さんが力いっぱい長剣を突き刺した。
「刃先が欠け、しかも折れた」
「こっちは傷一つない」
ローザお姉さんの持っていた剣がポッキリ折れて刃先がボロボロに欠けていた。
あわわ…お姉さんの剣が…あわわ。
「大丈夫だよ、ゆきちゃん。これはミールナイトで購入した訓練用の長剣なんだ。自分用の長剣はこの間のソルスティスマルシェで数本購入してあるし、ミルニルさんにも作ってもらえるから心配しないで」
と言いながら、自分の服を眺める。
「これ、一体いくらなんだ?」
「世界中で一、二を争うほどの高価な鎧じゃないかしら?」
「しかも柔らかくて着心地が良い」
いくら支払えばいい?と言われたけれど固辞するよ!
だって、楽しくて作っちゃったからね。
「おねしゃん、ちて。ゆち、うえちい」
お姉さん達が着てくれるだけで嬉しいから、お金は受け取りませーん。
「抱っこちて、おしゃんぽ」
「それは支払いじゃなくてご褒美になっちゃうよ、ゆきちゃん」
お支払いは抱っこしてお散歩がいいな。
困り顔のお姉さん達に、作った洋服を押し付ける私だった。
テントを出ると、ミスティルが待っていた。
「ゆきちゃんに超高価な服、もらっちゃった」
「主がそうしたいのですから、貴女達はただ受け取れば良いのです」
レーネお姉さんから私を受け取ると、ミスティルがニコリともせず言い放つ。
うん。ミスティルは私がしたいようにすればそれで良いもんね。
「おねしゃん、プエジェント、うてとて」
「プレゼントを受け取って欲しいとのことです」
「うん、わかった。ありがとうね!自分達をめっちゃ磨いて、服を着こなして登城するね?」
「あいっ!」
そのまま受け取ってもらえて良かった♪
エレオノールさんとディリジェンテさんにも同じ結界付きフォーマルウエアを作って渡したけれど、二人には気付かれなかったよ。
いつ気が付くかな?イヒッ☆
「可愛いね、主さん」
「うんうん。流石俺の姫。とても可愛いよ」
「私の主殿はなんと愛らしいのでしょう」
「お、おう。似合ってるぜ。すっげー可愛いとか言わね…、いや可愛いぞ」
「流石お嬢。着こなしてるな。最高に可愛いぜ」
無言スリスリスリスリスリスリ……。
ただいま皆で激写中。
本日はミスティルコーデ。レースやオーガンジーの白いフワフワドレスです。
ノースリーブのドレスに羽織るパフスリーブのボレロ。白いレースの靴下。白のエナメル靴。編み込みで結った髪には白いレースの大ぶりなリボン。
私がニコッと笑うと、途端に響くカシャーンカシャーンカシャーンと言うシャッター音。あれだけ躊躇っていた氷華までビデオ撮りしているよ。
サービスでクルッと華麗にまわっちゃおう。
トテトテトテトテトテ……カーテシー☆
ちょっと回るのに時間がかかっちゃったのは御愛嬌。
皆が喜んでくれたからいいのだ。
「ん?来たな」
「あい」
ハルパ抱っこでテントから出ると、向こうから綺羅びやかな人が四人歩いてきた。先頭は正装のモッカ団長。他三人はソグナトゥス戦にいた騎士さん達。
【虹の翼】のお姉さん達も気配を察してテントから出てくる。
「わあ!」
「おっ!」
フォーマルウエアのお姉さん達キラキラしてカッコイイ!
後から出て来たエレオノールさん、ディリジェンテさんも綺麗だった。
「ゆきちゃん、凄く可愛いね」
「あいっ。おねしゃん、たっといい!」
「お姉さん達カッコイイと言っています」
「ありがとう」
うんうん。私が色を変えたお洋服、とても似合っているよ!
そうこうしているうち騎士達が到着。ビシッと足を揃え左胸に手をあてる。
モッカ団長、カッコイイ!
「お迎えにあがりました。お支度は整っておりますか?」
「はい。問題ありません」
「では参りましょう」
商業ギルド組、【虹の翼】、私達の順でモッカ団長に続く。
心なしか冒険者ギルド野営場がザワザワしてるけれどキニシナーイ。
朝早くキラキラ王国騎士団が来たから驚かれているけれどキニシナーイ。
……地図に赤点が発生したけれどキニシナーイ。
私達、お金持ちじゃな……くはないけれど、テントに忍び込もうとしても結界には入れませんよー!
冒険者ギルド前は更に騒然としていた。
と言ってもスンとしたエルフ族の皆さんは静かで、多種族冒険者の皆さんとギルド職員さん達が右往左往中。
豪華絢爛な馬車が四台も停車しているもんね。
私達は四人ずつ馬車に乗り込む。
ちなみに鳳蝶丸とレーヴァは【虹の翼】のお姉さんと。私はハルパ、ミスティル、ミルニル、氷華。本日はハルパ抱っこで過ごします。
「城が見えてきました」
ミスティルがカーテンを少し開けてくれた。
「わあっ!」
ロストロニアン城は湖上に建っている。
そこは湖の中の孤島で、気が遠くなるほどの昔、若いエルフの男女が天界から降臨したフレイア神に『ロストロニアン王国を建国しなさい』と神示を受けた場所とされている。
白いお城は水鏡にさかしまとなって映り、それはそれは美しい景観だった。
「はち、渡ゆ?」
「ええ。あの橋を渡って行くんですよ」
馬車は湖上の白い橋を渡り始める。
欄干にもお花が咲き乱れていてとても綺麗。
「ちえい、ねえ」
「ええ。綺麗ですね」
白い橋を通る白い馬車とお馬さん。メルヒェンだわあ。
凄く可愛いから我が家の土地の何処かにも池と橋を作ろうかな。
城に到着。そのまま応接間に通されて、モッカ団長からこれからの予定を説明された。
「まずは謁見の間にて式典に出席していただきます。お呼びするのはフィガロ殿と【虹の翼】の皆さんのみとなります。ゆき様は参加なしとのことですが、よろしいですか?」
「あい。……んー。てんだちゅ、でちゆ?」
「見学したいのですが、出来ますか?」
フィガロギルマスとお姉さん達の晴れ姿が見たいな。
「それでは一番前………」
「いえ。一番後ろでお願いします」
ただでさえ目立つのに、前に行ったら注目されちゃう。一番後ろでいいよ。
「では、ゆき殿と皆様は一番後ろで見学なさってください。そのあと昼餐会があり、解散となります」
「わかった。お嬢が疲れたら中座するかもしれん」
「承知いたしました」
「では、ゆき殿と皆様は見学のため先に謁見の間へ」
「あいっ」
まずは私達が式典の参列者として案内される。
謁見の間はすでに貴族達が集まっていて、私達はモッカ団長と一番後に立つ。関係者としてエレオノールさんとディリジェンテさんも見学を許された。
ドラマや映画、漫画なんかで見たままの様子なんだねえ。ちょっと感動。
謁見の間に皆が集まると、すぐに王族と関係者が入場。
私達以外の一同が頭を下げる中、王様であるフィンさんの近くにいる男性、恐らく宰相さんが一歩前に出た。
「これより、名誉ある死を迎えた戦士達に報奨を授ける」
ロストロニアン王国では、今までも騎士達に対し負傷などの治療費や、死亡し残された家族にそれなりの報奨金を渡しては来ていたらしい。
「亡ちゅなた。なじぇ、ほうしょ?」
亡くなっているのになぜ報奨なんだろう?
何となく呟いたら、国を守った名誉ある死なので[報奨]と表現をしているけれど、意味合いは[弔慰金]です。と、モッカ団長が教えてくれた。
「名を呼ばれた家の代表者は前へ」
宰相が読み上げは続く。
今回亡くなったのは九名だった。
謁見の間にはそれぞれの家族がおり、その代表者達が呼ばれてフィンさんの前に並ぶ。
「魔獣の大群にも怯まず、皆、勇敢な者達であった。大切な民を失い、我が心も痛んでいる」
フィンさんが一歩前に出て、家族達に言葉をかける。
「今から申す言葉を聞いてくれ。騎士達から家族へ、我は伝言を預かっているのだ」
フィンさんの言葉に謁見の間がざわめいた。
亡くなった彼らの声は私しか聞いていない。
でも家族に伝えて欲しいと頼まれたので伝えたい。
誰も聞こえていない言葉をどう伝えたら良いのか。ロストロニアン王国までの道中ずっと悩んでいた。
我が家の皆に相談したら、ハルパと氷華が登城した時に彼らの伝言をフィンさんに伝え、自分達の主が心を痛めていると話をしてくれた。
フィンさんは亡くなった騎士達の為にと感動し、神の奇跡が起き、フィンさんに聞こえたことにしようと提案してくれたんだって。
「嘘ではなく、本当のことです」
御使いである私が言ったのだから、嘘ではないと言うことらしい。
うん。私は完全なる神様じゃないけれど、半神ではあるからね。
「神の奇跡が起こり、騎士達が天に帰る際、我の耳に微かな声が聞こえたのだ」
皆、あとを頼む。
私の家族に来世で会おうと。
何処かから女性のすすり泣く声が聞こえる。
王国騎士団は貴族の子息、子女出身がほとんどで、天に昇った彼らの家族もこの場に呼ばれていた。
騎士さん達の想いは届いたかな?
「では名を呼ぶ家族代表は前へ」
宰相さんが家族に目録を渡していく。
あの時助けられなくてごめんね。でも皆の願いは叶えたよ。
遺族に目録を渡し終えると、次はフィガロギルマスやお姉さん達の番。
そう言えばフィガロギルマスは?あ、いた!
フィガロギルマスはルーチェさん、ヴァロさんと一緒でかなり前方、ローザお姉さん達は私達より少し前方に立っている。
「フィガロ・ゼッテンシュートおよび冒険者【虹の翼】」
呼ばれると、フィガロギルマスとお姉さん達がフィンさんの前へ。
「此度の活躍を称え、そなたらに名誉ある称号と報奨金を与える」
宰相さんが目録を読み上げた。
そしてフィンさんが皆に微笑みかえる。
「二百ものソグナトゥスに遭遇してもなお怯まず、我が国民、我が家族、そして我が命を救うたこと、心より感謝する。まことに大儀であった」
二百のソグナトゥス…とざわつくエルフの皆さん。
「そなたらには『ロストロニアン王を護りし者』という称号と、貢献者の証であるメダル、そして報奨金を授ける」
フィンさんの言葉に深く頭を垂れるフィガロギルマスとお姉さん達。
「あのメダルを持つ者は貴族門を通れるし、入国税などが免除されます。フィガロ殿はこの国出身ですが、現在居住しておりませんので本来は皆さんと同じように入国税や入町税がかかるのですよ」
「ちのう、はやって、にゃい」
「昨日税金を払わなかったと主が申しております」
「我が国の恩人から税金などいただきませんし、私と一緒でしたから」
それとメダルや報奨金はサクラフブキの皆様にも後ほどお渡しします。ですが目下の者が御使い様に対し不敬にもほどがあると言うことで、称号は遠慮させていただきました。
うん、いいよいいよ。称号はいらないよ。いらないったらいらないよ。
アレな称号を思い出しちゃうからっ!
ヒミツ様がお詫びしてくれたけれど、思い出しちゃうからっ。
でもメダルは嬉しいな♪
【幼児の気持ち】爆上がりでウキウキしちゃう。
「メダユ、ほちい。楽しみ♪」
「フフッ。メダル楽しみですね」
「うん!」
宝箱に入れて、お部屋に飾るんだ!(持ち歩く気ゼロ)
本年は沢山の方にお読みいただいて嬉しい一年でした。
今後も書き続ける所存ですので、来年も続けてお読みいただけると幸いです。
皆様、良いお年をお迎えください。




