第6話 仮面の下で、鹿児島弁が漏れる
私はお兄さんの話を最後まで聞いた。
途中で色々ツッコミたい気持ちを抑えながら、一言も声を発することなく聞き終えた。
聞き終えての感想は、
『ぐらしい……』という一言に尽きた。
ついつい地元の方言が出てしまうくらい、お兄さんの近況には同情してしまう所がある。
私も転移前は社会人として働いており、苦い経験もしてきた。彼の痛みが、他人事とは思えなかった。
また、彼は転移前の私よりも年齢が若い。話を聞き終えた後の彼の表情を見た途端、いてもたってもいられなくなり、思わず駆け寄ってハグをし、
「今まで大変でしたねぇー、おやっとさぁ」
と、彼を優しく身体と魔力のオーラで包み込んだ。
私の突然の行動に困惑しながら彼も私のハグに応え、静かに泣いていた……。
ひとしきり泣き終わるのを待ったタイミングで
「お兄さんはこれからどうしたいですか?」
「?? どうしたい、とは……?」
「そこで撃った男をこのまま殺したいですか? まぁ、あの出血量を考えると、放置すれば命に関わる可能性もありますけど……。それとも銃を持ったまま周りの人達を巻き込んでこの建物に立て籠りますか?」
ゾワッ、と背筋が冷える感覚がした。
──目の前の子どもの口から、なぜこんな言葉が、こんなにも普通に出てくるんだ。
オレは背筋が冷えるのを感じた。
「た、確かに、元上司は今でも殺したいほど憎んでる! だからこそオレは銃で撃った。でも関係のない周りの人達を巻き込んでまでこの復讐をやり遂げたいかと問われればそれは望まない。オレはこの後自首するよ。君に話を聞いてもらったお陰で気持ちがスゴく楽になったよ!」
そう応えたお兄さんの顔はスゴく晴れやかな表情をしていた。
「良かったです! もし、後者を選んでいたら物理的に対処しなきゃいけなかったので……。」
『物理的に!?』
思わず頭の中でその言葉を繰り返した。
まさか、この子はオレを──。
翠くんは無邪気な笑顔でそう言っていたが、その表情と態度から本当に可能なんだと感じてしまった……。何故なら目の前の子どもはこの世界の理からハズレた存在である《《魔法師》》なのだから──。
「でも安心してください、お兄さん! お兄さんが撃ったあの方は命が助かったとしても私が社会的に《消して》おくので。仮に命を落とすようなことになってもお兄さんに殺人の容疑がかからないように処理しておきます。それからお兄さんを苦しめた会社と上長にも《《罰》》を与えておきますね! お兄さんが警察署から出てきたときに困らないようにモロモロ対処しておきます! 此処でお兄さんに出会えたのも何かしらの縁。この縁を大切にし、少しでもお力添え出来ればと思います!!!」
──あれ、さっきまでもっと丁寧だったような……。
そう思った瞬間にはもう、翠くんはいつもの穏やかな笑顔に戻っていた。
「はぇ……!?」
力が抜けた変な声が出てしまった……。
先程まで《天使》だと思えたとても可愛らしい子どもが突如スゴいことを言い出した。
『えっ!? 消す……? 罰……? 処理……?』
言葉の意味は理解できるのだが、目の前で発せられた発言に情報が処理できない状態に陥った。
「安心してください、お兄さん。お兄さんには何一つ迷惑がかからないよう対処しておきますから。私個人には大した力はありませんが、私の今の家族の方々にお願いしておきますので!」
──家族? 一体、何者の家族なんだ……?
聞きたいことは山ほどあったが、それを尋ねる勇気はまだ湧かなかった。
「な、何故そこまでしてくれるんだ? オレと君は今日出会ったばかりで、オレはさっき人を撃った犯罪者だぞ!」
困惑しながらもオレは声に出して尋ねた。
「確かに、お兄さんは現在進行形で犯罪者です。それは事実です。でもお兄さんは《悪い人》ではありません。今回の出来事はタイミングが悪かっただけだと私は思います。《魔が差した》その一言に尽きます。お兄さんを初めて《《視た》》時からそう感じました。今の私は人を視る目がありますから。」
そう答えた彼の目は、妖艶な翡翠色に輝いていた──。
この子は本当に、ただの子どもなのだろうか。
オレはそんな疑問を、胸の奥にそっとしまい込んだ。
「では、現実世界に戻りましょうか! あっちでは時間経過してません。私がお兄さんに声をかけた場面からになります。《《何もなければ》》そのまま自首をしていただきたいと思います。その後の処理は此方で対処しておくのでご安心ください。」
そう説明すると、翠くんは指を鳴らした。
その表情に一瞬だけ、年相応の子どもらしい安堵が浮かんだ気がする。
パチンッという音と同時に意識が暗転した──。




