第3話 仮面の少年、優しく話しかける
「お兄さん、私と少しお喋りしませんか?」
その声が響いた瞬間、場の時間が止まったかのような感覚があった。
先ほどまで銃声と怒声に支配されていたこの場が、たった一言の、透き通った声によって静寂に包まれる。
誰もが困惑するだろう……。
非日常的なこの場で、幼さを残した子どもが突然、銃を持った男に話し掛けているのだから──。
その声には恐れは感じられず、普段通り近しい友人にでも話しかけるような雰囲気で、男に語りかけているのだから。
弥生ちゃんも、その他の人達も、固唾を飲んでこのやり取りを見守っている。誰も動けない。ただ、見ている。
「なっ、なんだ、お前!?」
そう言葉を発しながら困惑している男。
突如話し掛けてきた子ども。
頭には深く帽子を被っており顔は認識しづらく、声からも男女の区別がつかない。
子どもらしからぬ丁寧な喋り方も相まって、この子どもが纏う空気感はどこか浮世離れしていると感じられた。
「突然声をかけてしまい申し訳ございません。私は翠と申します。お兄さんにお尋ねしたいことがあり、お声がけさせていただきました。そちらで苦しんでいる男性はお知り合いでしょうか?」
そう自己紹介をし、私は男の目を視る。
■犯人視点■
『何だ、何だ……この子どもは!?』
オレは戸惑っていた……。
目の前にいる子どもはこの状況下で突然オレに話し掛けてきた。
銃を手に持ち、人を撃ったオレに対して……。
更に、あろうことか自己紹介までしオレに尋ねてきた。子どもとは思えない、妙に落ち着いた喋り方が余計に不気味だった。
不意に目の前の子どもと目が合う。
その目を見た瞬間、オレの身体に電流が走るような感覚に襲われ、目を逸らせないまま、思わず我を忘れそうになった。
その瞳は、深い翡翠色をしていた。
それもただの緑ではなく、宝石のように澄んだ、半透明の輝きを宿していた。
まるで吸い込まれるような、そんな錯覚すら覚えた。
気が付くと、元いた場所とは違う場所に立っていた。
「どこだここは……!?」
音がない。
どこまでも白い空間に、淡い光の粒だけがゆっくりと漂っている。上も下も分からないほどの静けさが、逆にオレの意識をはっきりとさせた。
その場所にはオレと子ども(翠)のみ。
「ごめんなさい、お兄さん。理由があって魔法で意識だけこっちに来てもらいました。突然のことで驚かれると思いますが、ここでなら落ち着いてお話しできますので……。それと先程も云いましたが、理由があって帽子を被ったままお話ししてしまうことを先に謝っておきます。」
頭では、まだこの子どもを警戒すべきだと分かっている。
なのに、口は勝手に動こうとしていた。オレは突然起こったことに困惑していたが、目の前の子どもの声は、理性を素通りしてまっすぐ頭へ浸透していくのが分かった。
そして不思議と先程までの憎悪の気持ちは嘘のように鎮まっており、落ち着いて言葉を発することができた。
「色々と確認したいことはあるが、君にも理由があることは理解したよ……。君はその年で《魔法》が使えるようだね。先程まで怒り狂っていた心情が嘘のように落ち着いているけど、これも君の魔法の力なのかな?」
「そうですね。お兄さんをあの場で初めて視た時、あのままではまともにお話しできないかなと思い少し力を行使させていただきました。」
『なるほど……。』
抗おうとする気持ちすら、静かに溶けていくようだった。オレは納得し、そして先程の問いについて答えた。
オレと男の関係性について……。
そして何故その男を撃ったのか……。
何故だか、目の前の子ども、翠くんには伝えておきたいと思えたから──。




