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第20話 二の太刀要らず、一閃の誓い

一人目の拳が、私の顔面へと迫る。


『遅い』


紙一重でかわし、流れるような動作でその腕を取る。体重を利用して投げ飛ばすと、石畳に叩きつけられる鈍い音が境内に響いた。


二人目が横から短剣で斬りかかってくる。素手で受け流す──いや、正確には、最小限の力で軌道だけをずらす。刃が頬をかすめ、僅かな痛みと共に一筋の血が滲んだ。


だが、それだけだ。痛みに構っている暇はない。


三人目の魔力弾を、体を捻ってぎりぎりで回避する。背後の岩に着弾し、砕け散る音が夜の境内に響いた。


その一瞬、着弾の余波で辺りを照らした光の色に、私は目を凝らした。


──紫。


赤でも青でもない、深く沈んだ紫の光。以前、雪さんから聞いた、陣営ごとに異なる魔力の色。あの時は名前までは聞かなかったが、これほどはっきりとした色を見間違えるはずがない。


「くそっ、こいつ、本当にガキか!? 動きが、素人のそれじゃねぇ……!」


四人目、五人目が同時に仕掛けてくる。


挟撃──悪くない判断だ。だが。


体を低く沈め、地を這うように前へ出る。予測されていた高さの攻撃は、私の頭上を空を切った。


そのまま四人目の懐へと踏み込み、鳩尾へ一撃。


膝から崩れ落ちる男を横目に、私は残る敵の数を数え直す。


──残り、三。


「これは……マズいぞ。報告と話が違う」


先頭の男が、初めて焦りを滲ませた声を上げる。


残る三人のうち一人が、痺れを切らしたように抜刀した。


刃が月光を弾き、鋭く煌めく。


『来る』


私は素早く周囲を見渡した。


視界の端、崩れた拝殿の残骸に、先程叩き伏せた男が落とした一振りの刀が転がっている。


──迷う暇はない。


地を蹴り、刀を拾い上げると同時に、大きく振りかぶった。


高く、高く。切っ先が天を突くほどに。


まるで体が、この構えを覚えているかのように、自然と極まっていく。


蜻蛉の構え。


かつて幾千、幾万と剣を交えた記憶の中に、確かに刻まれていた古武術の型。


生まれ育った鹿児島の地に、遥か昔から根付いていたという剣の流派。──示現流。


二の太刀は、要らない。


「──ッチェストォォォオ!!」


裂帛の気合と共に、渾身の一撃を振り下ろす。


抜刀してきた男の刃ごと、その一撃は真っ向から叩き割った。


金属が悲鳴を上げ、男は得物を失い、そのまま尻餅をつく。


一の太刀で、すべてが決した。


境内に、静寂が舞い戻る。


残る二人が、明らかに怯んだ顔で後退る。


「あなた達は、紫家の関係者ですか」


私は静かに刀を下ろしながら、問いかけた。


男は答えなかったが、その怯えた表情こそが答えだった。


「この方を狙う理由は?」


「……知るかよ。俺たちは、命じられた仕事をこなすだけだ」


男の一人が、忌々しげにそう吐き捨てた。


「上の連中の考えなんざ、末端の俺らには関係ない。ただ──」


男は脅えながらも、私を睨みつけて笑った。


「まさか、こんなところで『計画』が狂わされるとはな。この落とし前、あんたが思ってるより大きいことになるぜ」


「……そいなら、続けっか?」


低く、静かにそう返した自分の声に、私自身が少し驚いた。


苛立ちが滲むと、こんな言葉が勝手に口をついて出る。


男は、その言葉の意味までは分からなかったようだ。だが、纏う空気の変化だけは感じ取ったのか、僅かに後退った。


その言葉を最後に、男は懐から小さな結晶を取り出し、握り潰した。


眩い光と共に、男たちの姿が一斉に掻き消える。


──緊急転移術。


用意周到なことに、退路まで確保されていたらしい。


境内に、静寂が戻った。


追う力は、もう残っていなかった。全身が、鉛のように重い。


手にした刀を、静かに鞘へ収める。その仕草だけは、なぜか迷いなく出来た。


私は少女に駆け寄り、その拘束を解く。


「……大丈夫。もう、安全ですよ」


意識のない彼女に、そっと囁いた。


かすかに、彼女の唇が動いた気がした。

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