第16話 視えた傷、触れた覚悟
「私たちは何をすればよろしいのでしょうか?」
雪さんが尋ねてくる……。
どうやら、この物語のヒロイン様は空気も読める美少女らしい……。おじさん、嬉しい……。
「まずは、終さんの状態を診せてください」
私は雪さんの了承を得て、終さんの身体に触れながら、状態を観察した……。
指先に伝わる、不自然なほど低い体温。呼吸のたびに、かすかに軋むような、あるはずのない振動。
──これは、深刻だ。
やはり小説の描写どおり、終さんの重傷の原因は外傷だけではない。内臓が損傷していることも、大きな要因だと思われる。
この世界には、回復魔法や治癒魔法というものが存在する。
しかし、回復魔法や治癒魔法は便利ではあるものの、万能ではない。使い手の技量によって効果はさまざまだ。例えば、同じ回復魔法でも、未熟な術者が使えば傷の修復に時間がかかるうえ、完治しない場合もある。
また、傷口に銃弾やナイフといった異物が残っている場合、それを取り除かなければ、傷を完全に治すことはできない。
外傷については、雪さんの治癒魔法によって、ほとんど治療が済んでいる。
しかし、内臓の損傷については別だ。損傷した部位を特定し、どのような状態になっているのかを正確に把握しなければ、治癒魔法を使っても治すのは非常に困難である……。
だが、私の《力》を使えば、治癒できるはずだ。
私が元いた世界には、魔法など存在しなかった。
だが、魔法に似た力は存在した。
それは、《気力》だ。
気とは、生きるために必要なエネルギー。そして気力とは、物事を成し遂げようとする精神の力である。
生物には、生まれながらにして備わっている力だ。
そして、気力をさらに超える力が存在する。
それが、《神力》というものだ。
神力とは、霊妙不可思議な力であり、超人的な力でもある。困難にくじけることなく、物事を成し遂げようとする力でもあり、限られた存在にしか扱えない。
そして、その使い手の中でも、私の神力は《治癒》に特化している。
──なぜ、こんなにも都合よく、この場に、この力を持った自分が居合わせたのだろう。
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
まるで、最初からこうなることが決まっていたかのような、この状況。
『……いや、今は考えている場合じゃない』
私はその思考を振り払い、目の前の使命に意識を集中させた。
「終さんの状態は把握できました。これから本格的な治療に入らせてもらいます。その際、雪さんに協力していただきたいことがあります」
「分かりました。私にできることなら何でもします!」
「ありがとうございます。では、まずは簡易的なもので構いませんので、結界を張っていただきたいです。結界の中に入るのは、終さんと私、そして雪さんの三人だけでお願いします。ほかの方々には、結界の外で待機していただければ幸いです。
そして、最後に……。
あなたを私にください!」




