第14話 推しの世界、戦場のただ中に
昔の私は、この世界とは異なる日本という国の東京で、社会人として働いていた……。
高野山 陵。33歳、男、独身。職業は動画クリエイター。それが、以前の私である。
毎日毎日、朝から晩まで社畜人生を謳歌していたアラサーだったのだが、気がつくと、私は見知らぬ場所にいた。
戦場……。今いる場所を言葉で表すなら、この一言に尽きる……。道路や建物は壊れ、荒れ果てており、広い範囲で激しい戦闘があったことがうかがえる……。
焦げた匂いが鼻を突く。遠くで何かが崩れる轟音が響く。空気そのものが、まだ戦いの余熱を孕んでいるようだった。
ここはどこだ……。いや……違う……。私はこの場所を見たことがある……。
そう、ここは私が推していた小説に登場する街並みにそっくりだ!
その小説は大人気作品で、アニメ化もされている。そして、つい先日、最終巻が発売されたばかりだった……。
私も発売日に電子書籍で購入し、仕事終わりの深夜、無我夢中で読みふけっていた……ところまでは覚えているのだが……。
『これは夢なのか!?』
そう思いながら、私はふと違和感を覚えた。
──あまりにも、都合が良すぎないか。
推していた小説の、まさに最終巻のラストシーン。その瞬間にいるなんて。
偶然にしては、出来すぎている。
けれど、その疑問についてゆっくり考える余裕は、今の私にはなかった。
前へと進んでいくと、開けた場所にたどり着いた。そこには、見覚えのある人物たちがいた。
白灰色の髪をした男性と、青い髪に碧い瞳の女性。男性は地面に横たわり、動かない。女性は彼を介抱しているようだった……。二人の周りには、ちらほらと人だかりができていた。
私は少しずつ近づいてみた。そして、先ほどの考えが確信へと変わった。
この世界はやはり、私が大好きで、推していた小説の世界だ。そして、私が今いるこの場面は、最終巻のラストシーンである。
主人公である青水終は、敵との激闘の末、見事に敵を撃破する。だが、重傷を負って倒れてしまう。ヒロインの青水雪は必死に治癒魔法を行使するものの、身体の損傷が激しく、回復の兆しは見られない。このままでは、終は命を落としてしまう。
そして物語は、悲しい結末を迎えたまま、バッドエンドで幕を閉じる……。
『これも一つの終わり方──』
私は最終巻を読み終えたとき、そう思った。大好きなこの作品と作者に感謝し、その結末にも納得していたのだが……。
もし、このラストシーンを変えることができるのならば……。
もし、そのチャンスが自分の目の前にあるのならば……。
もし、この結末の先を見ることができるのならば……。
私は一人の読者として、一人のファンとして、その希望を見てみたいと、切に願う──。
私はその思いを胸に、一歩、また一歩と進み、声をかけた……。
ふと、視界の端で──何かが動いた気がした。
崩れた建物の陰。誰かが、こちらを見ている──ような気がした。
振り返ってみても、そこには誰もいなかった。
『……気のせいか』
そう自分に言い聞かせ、私は再び前へと足を進めた。




