8話
第六異特級ダンジョンの深層。
本来であれば苦戦を強いられる如月も装備のおかげかここまでは順調に進んでこれた。
そして道中、安全な空洞を見つけると如月はドローンカメラを起動していた。
「みんなこんにちは、如月ジュリだよ。今日はなんと、第六異特級ダンジョンの深層に来ています!」
『えっ!? 特級ダンジョンの深層!?』
『嘘だろ、ジュリちゃんマジで言ってる?』
『誰と一緒なの?』
コメント欄が爆発的な勢いで流れる。
ジュリはカメラに向かって、指を口元に当ててウインクしてみせた。
「そう、あの特級ダンジョン。戦いの光景はちょっと見せられないんだけど、戻ったら必ず話すから。それまで楽しみに待っててね」
『もしかして、あのワンパン制服男か!?』
『やばい、ついにアイツの正体が……』
『まて、アイツが深層に潜れる実力ってことは……』
画面を埋め尽くす文字の中に、ふとあるコメントが混ざる。
『三年前の英雄?』
「それって……」
ジュリがその文字を読み上げた瞬間、俺は立ち上がりドローンに搭載されているカメラの電源を、物理的に切った。
◆
「こんな所でも配信か」
「ご、ごめん。元はと言えば、三隈君を勝手に配信に移したことが原因だったのに……」
如月は申し訳なさそうにカメラドローンを仕舞い込んだ。
だが勝手に電源を落とした手前、強く出るわけにもいかない。
「あぁ、別に怒ってるわけじゃない。むしろ夢中になれるものがあって、羨ましいと思ってるだけだ」
これは本心からの言葉だった。
俺にはもう、そこまで熱を上げられるものがない。
焚き火の火を弄る俺を見て、ジュリがぽつりと尋ねてきた。
「えっと、三隈君はなんで探索者になったの?」
「さぁ、どうだったかな。探索者の適性が高かったから、とかそんな理由だったはずだ」
「迷宮庁の人達が言ってたことだけど……」
彼女の脳裏には、先ほどのコメントと鳳の言葉が引っかかっているのだろう。
ため息をつき、静かに口を開いた。
「三年前、第三異特級ダンジョンが暴走したことがある。知ってるか?」
「うん、ニュースで見たことあるよ。魔力濃度がすごく高くて、平均で25を超えてたとか。モンスターの被害も、相当出たんだよね」
「たしか100を超えてたな。モンスターも結構強くなってたはずだ」
「ひ、100!? それっていつもの50倍ぐらいってこと!? 一匹でもモンスターが外に出てきたら、とんでもないことになるんじゃ」
如月が青ざめる。
だがそれが国が隠蔽した真実であり、如月のそれは無理もない反応だった。
「まぁ、実際に魔力濃度が高すぎて臨界に達していた。限界を迎えたら、日本の半分が消し飛ぶと言われてな」
「まさか、三隈君ってその時の……」
「言われるがままにダンジョンへ入り、攻略は成功した。だが、地上を封鎖していた連中がしくじって、モンスターがダンジョンから漏れ出した。その時に犠牲になったのが、俺の家族だ」
パチッ、と焚き火が爆ぜる音が静かな空間に響いた。
「俺が地上にいれば、家族は死なずに済んだ。不器用で不愛想な親父も、優しくて時折怖い母親も、泣き虫だった妹も」
俺は大勢を救い、そしてすべてを失った。
「だから、わたしの頼みを聞いてくれたの?」
ジュリの瞳が向けられる。
そこには炎が揺らめいて見えた。
同情などされたくないが、隠すことでもない。
「どうだろうな、わからない。だが家族の痕跡があるなら、俺も確かめにいくだろうなと思った」
「ありがとう。三隈君に頼んで、良かった」
「まぁ、俺の自己満足だ」
「だとしても、わたしはそれで救われてる」
彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめ、強い声で告げた。
「だから、ありがとう」




