7話
「そうはいかない? 意味がわからないな」
俺が訝しげに尋ねると、鳳は薄ら笑いを浮かべたまま答えた。
「そのままの意味ですよ。お二人の攻略は、迷宮管理庁としては認められません」
「ど、どうしてですか? わたしも三隈君も、探索者として登録は済ませてあります。攻略を一方的に制限される理由なんてありませんよ」
ジュリが食ってかかるが、鳳はどこ吹く風だ。
「我らは現状維持でダンジョンを管理下に置くことが、第一優先なのですよ。ダンジョンを攻略して無力化してしまえば、これからの利益もこれまでの研究も、打ち切られてしまう」
「深層の探索が進んでいないのって、まさか……」
ジュリが絶句する。
だが、鳳は静かに首を横に振った。
「いえ、それは無関係ですよ。あの第六異特級ダンジョンは他のダンジョンに比べて別格。難易度の高さにおいては歴史上類を見ないほどです。だからこそ、研究に価値がある。あの環境の再現は、私達の技術では不可能ですからね」
「それはあんた達の都合だろ。それに俺達が攻略しようとしまいと、いずれダンジョンは攻略される」
俺の言葉に、鳳は肩をすくめた。
「えぇ、攻略されるでしょうね。ですがそれは数年後か……あるいは数十年後の話です。それまでにダンジョンから生まれる利益や研究の成果が、貴方が動けば全て泡沫と消えてしまう。貴方はね、強すぎるのですよ、三隈君」
鳳の目が、蛇のように細められる。
「だから適当に餌を与えて、子飼いにしてきたんだろ」
「それを望んでいたでしょう? 安心して浸かれるぬるま湯をね」
「あぁ、それは俺が望んでいたことだ。だが首輪を繋がれた覚えはない」
言い放つと、鳳は深いため息をついた。
「……仕方ありませんね。寺井、対処を」
「やれやれ、私にお鉢が回ってきましたか。三隈君、普通を求めるなら、普通を心がけろと言ってあったはずですが。これは一体、どういうことでしょうか?」
鳳の護衛の後ろから、呆れ顔の寺井が現れた。
いつもの教師としての姿ではなく、完全武装の臨戦状態だ。
少なくとも荒事にしても俺を止めようという意思は見えた。
相手をする気もないが。
「あの動画を消してもらう為に、ダンジョンの攻略を手伝っているだけだ」
「だそうです。どうしますか?」
寺井が長官に問い返す。鳳は苛立たしげに眉をひそめた。
「止めなさい。そのために貴方を呼んだのですよ、寺井」
「残念ですが、無理ですね。彼を止めることはできません。研究環境を別のダンジョンに移す方が現実的です」
「貴方も元とはいえS級探索者でしょう。実力行使でもなんでも構いません。それとも子供ひとり止められないと言うつもりですか?」
声を荒げる鳳に対し、寺井は至極冷静に答えた。
「元S級の私が現役の……それも未だに成長を続けるS級探索者に、勝てるはずがないでしょう」
長官への明確な命令違反。
それを聞いた鳳は顔を赤黒く染め、憎々しげに俺を睨みつけた。
「すぐに後悔することになりますよ、三隈君」
「いいや、もうしてる。三年前、お前達に力を貸したことを、今でもな」
鳳は言葉を失い、ギリッと歯を鳴らして踵を返した。
俺はただ、逃げるように去っていくその背中を見送った。




