6話
如月を連れて訪れた先は、都内でも有数の超高層ビルの最上階だった。
エントランスの重厚な扉を見た瞬間、ジュリが素っ頓狂な声を上げる。
「こ、ここって……『レリック・アダーズ』でしょ!? 完全会員制の、ダンジョン用装備専門店!」
「特級ダンジョンを攻略するならいい装備を揃えて損はない。装備は替えが効くが、命は替えが効かない」
「そ、それはそうだけど! ここって超高級装備しか取り揃えてないんじゃ――」
戸惑うジュリをよそに、俺が足を踏み入れると燕尾服を着た初老の男が恭しく頭を下げてきた。
「いらっしゃいませ、三隈様。本日はどういったご用向きでしょうか」
「連れの装備を見繕ってほしい。生存率重視で」
「ご予算のほどは」
「特にない。一番いいやつを頼む」
俺が即答すると、男は表情一つ変えずに再び深く一礼した。
「承知いたしました。しばしお待ちください」
「い、言っておくけど、さっきの喫茶店みたいにポンと出せるわけじゃないからね!?」
ジュリが俺の袖を引いて、慌てて耳打ちしてくる。
配信者として稼いでいるとはいえ、超高級店の相場にビビっているらしい。
「ここは俺が持つ。手伝うと言った手前、死なれても困る」
「ほんとうに、三隈君ってなにものなの……?」
「普通を目指している高校生だ」
俺が真顔で答えると、ジュリは信じられないものを見るような目を向けた。
「採寸をいたしますので、お連れ様はこちらへどうぞ」
「は、はい!」
◆
数十分後。
機能性と防御力を極限まで高めた、最上級のオーダーメイド装備一式が完成した。
これならよほどのことがない限り、即死する心配はないだろう。
「お支払額は、こちらになります」
「じ、十二億!?」
提示された端末のゼロの数を見て、ジュリが息を呑む。
俺は黒塗りのカードを取り出し、端末にかざした。
「これで」
「……はい、確かに。またのご利用、お待ちしております」
決済音は一瞬だった。
店を出てエレベーターに乗り込むなり、如月は大きく息を吐き出して壁に寄りかかった。
まだ涼しい時期だというのに、額には玉のような汗をかいていた。
「き、緊張したぁ!」
「ここの建物に入ってる店は覚えておくと便利だ。一流の道具やサービスを受けられる」
「えっと、ありがとう。ただ流石に知ってるかなぁ。どれも有名どころばっかりだし」
「そうなのか?」
確かに、俺もここ以外の店をそこまで知っている訳じゃない。
それに品質の良いサービスを提供する見せは自ずと有名になるのは道理だ。
俺の返答に、ジュリは呆れたようにふふっと笑い声をこぼした。
「ちょっと三隈君のこと、わかってきたかも……」
装備の詰まったトランクを手に、俺たちはビルの外へと歩き出す。
「とりあえず装備はそろったし、あとはダンジョン攻略の手続きを済ませるだけだな。今回は二人組だし、申請も簡単に通るはずだ」
「も、もう入るつもりなの?」
「悩んでる時間がもったいないだろ」
手伝うと決めた以上、途中で放り出すことはしない。
だがじっくりと相手のペースに合わせた攻略をする気もない。
さっさと深層へ向かって、攻略をすれば拡散された動画の問題も片付けられる。
善は急げだ。ダンジョンへ向かおうと足を向けた、その時だった。
「残念ですが、そうはいきませんよ」
背後から、静かだが威圧感を持った声が響いた。
振り返ると、護衛を引き連れた和装の男が、柔和な笑みを浮かべて立っていた。
「鳳さん、なんでここに?」
「だ、誰? 知り合いの人?」
戸惑うジュリに対し、男は優雅に一礼して名乗った。
「迷宮管理庁長官、鳳盟です。初めまして、如月ジュリさん。そしてお久しぶりです、三隈君」




