表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

第5話 昔の顔

写真が投稿されてから、咲良はほとんど眠れなかった。


 夜明け前の部屋は、奇妙なほど静かだった。スマホはテーブルの上で伏せられている。蓮に「これ以上見るな」と言われ、通知も切った。けれど、画面を見なくても、頭の中ではコメントが勝手に流れ続けていた。


《昔と全然違う》

《努力っていうより別人》

《友達のほうが自然でかわいい》

《踏み台って本当なら最悪》

《咲良ちゃん、説明して》


 実際にそんなコメントがあるかどうかはわからない。

 でも、きっとある。

 絶対にある。


 咲良はソファの上で膝を抱えたまま、窓の外が少しずつ明るくなっていくのを見ていた。


 蓮は床に座り、ローテーブルに置いたノートパソコンを見ている。彼も一睡もしていないはずなのに、表情は大きく崩れていなかった。時折、事務所や関係先に短い返信を送り、投稿の保存を続け、必要な情報を整理している。


 その落ち着きがありがたくもあり、少し腹立たしくもあった。


 世界が壊れているのは咲良だけで、蓮にとってはただのトラブル対応なのかもしれない。そう思いかけて、咲良は自分で自分にうんざりした。


 蓮は来てくれた。

 逃げずに、ここにいる。

 それなのに、また勝手に傷つこうとしている。


「コーヒー、飲む?」


 蓮が顔を上げた。


 咲良は首を振った。


「胃が変」


「水は?」


「いらない」


「いる」


 蓮は立ち上がり、キッチンでグラスに水を注いだ。勝手に人の家のキッチンを使う手つきが妙に自然で、咲良は少しだけおかしくなった。


「蓮さん、なんでそんなに普通なの」


 グラスを受け取りながら言うと、蓮は短く息を吐いた。


「普通ではない」


「普通に見える」


「そう見せてるだけ」


 咲良はグラスの水面を見た。


「それ、私と同じじゃん」


「そうだな」


 蓮は否定しなかった。


「ただ、俺は今、それを仕事のためにやってる。咲良を安心させるために。咲良は、自分を罰するためにやってる」


 咲良は返事をしなかった。


 水を一口飲む。喉が思っていたより乾いていた。冷たい水が体の奥へ落ちていく感覚だけが、今の咲良に現実を教えてくれる。


 蓮は再びパソコンの前に座った。


「事務所から連絡が来た。午前十時にオンラインで話したいって」


「怒られる?」


「怒られるというより、状況確認。案件先への説明も必要になる」


「契約、切られるかな」


「一部は止まると思う」


 咲良は目を閉じた。


 わかっていた。

 でも、言葉にされると重い。


「ただ、全部が今日終わるわけじゃない」


「終わるよ」


「咲良」


「だって、見たでしょ。あの写真」


 咲良は、伏せてあるスマホを見た。


 あの集合写真。

 美容部員時代の自分。

 今より丸い顔。浮いているアイライン。少し作りすぎた笑顔。隣には由衣がいる。控えめで、でも確かにそこにいる。


 写真そのものは、悪いものではなかった。

 むしろ、当時の咲良は楽しかったはずだ。


 なのに今は、それが証拠写真のように扱われている。


「昔の顔、出ちゃった」


「昔の顔が出たことと、咲良の価値がなくなることは別だ」


「きれいごと」


「そうかもしれない。でも事実でもある」


「蓮さんは見られる側じゃないから言えるんだよ」


 また、棘が出た。


 蓮はすぐには返さなかった。少し考えてから、静かに言った。


「そうだな。俺は咲良ほど見られる側じゃない。だから全部はわからない」


 その素直さに、咲良は言葉を失った。


「でも、見られる側じゃない人間にも見えることはある。咲良は、昔の自分を敵にしすぎてる」


 咲良は膝の上で手を握った。


「敵だよ」


 声が出た瞬間、自分でも驚くほど冷たかった。


「あの頃の私は、何も持ってなかった。可愛くもなかったし、自信もなかったし、誰かに選ばれることもなかった。写真を撮られるのも嫌だった。なのに、周りは『そんなことないよ』って言うだけで、本当には助けてくれなかった」


 蓮は黙って聞いている。


「だから、自分で変えたの。メイクも、髪も、話し方も、顔も、生活も。やっと今の私を作ったのに、昔の私を出されたら、全部引き戻される気がする」


 咲良は声を落とした。


「あの顔に戻される気がする」


 蓮は少しだけ眉を寄せた。


「戻らない」


「わからないじゃん」


「顔の話じゃない。時間は戻らない。咲良がやってきたことも消えない」


 咲良は唇を噛んだ。


 言葉ではわかる。

 けれど、体が信じない。


 昔の自分は、ずっと咲良の内側にいる。暗い廊下の奥に立って、こちらを見ている。どれだけ新しい服を着せても、どれだけ光を当てても、ふとした瞬間に追いついてくる。


 午前十時、事務所とのオンライン面談が始まった。


 画面の向こうには、代表の三島と広報担当の女性がいた。どちらも表情は硬い。咲良はメイクを直す気力もなく、薄くリップだけ塗ってカメラの前に座った。蓮は隣にいるが、画面には映らない位置にいた。


 三島は最初に言った。


「まず確認します。現在問題になっている『サクラの裏側』というアカウントは、桜井さんが作成したものですか」


 桜井さん。


 仕事でその名字を呼ばれるとき、咲良はいつも少し距離を感じる。画面の中の咲良ではなく、契約書上の桜井咲良に戻される。


「……はい。作ったのは私です」


 広報担当の女性がメモを取る。


「現在の投稿も、桜井さんによるものですか」


「違います。昨日の夜からログインできなくなりました。メールアドレスも変更されています」


「それを証明できる資料はありますか」


 咲良は蓮を見た。蓮が頷き、スクリーンショットのフォルダを共有する。


 淡々と状況が整理されていく。

 まるで自分のことではないみたいだった。


 三島は資料を確認したあと、深く息を吐いた。


「乗っ取りについては、正式に申し立てを進めます。ただし、最初に桜井さん自身がアカウントを作成し、自己批判的な投稿をしていた事実は残ります。そこは今後説明が必要です」


「はい」


「美容医療についても、事実確認をさせてください。受けたことがありますか」


 喉が詰まる。


 咲良は一瞬だけ目を伏せた。


「あります」


 言った瞬間、画面の向こうの空気が少し変わった気がした。誰も責めていない。けれど、記録されている。判断されている。


「これまで、受けていないと明言したことは?」


「ありません。でも、聞かれても答えていませんでした」


「案件商品について、使用実態と異なる紹介をしたことは?」


「それはありません。使っていないものを使ったとは言っていません」


 そこだけは、はっきり言えた。


 どれだけ自分の顔を作っても、紹介するものについて嘘をつくことは避けてきた。案件でも、合わないものは断った。言葉を選んでも、実感のない褒め方はしなかった。


 咲良にはまだ、守りたい線があった。


 三島は頷いた。


「わかりました。今日の段階で、桜井さん本人からの発信は控えてください。こちらで文面を作成します」


 咲良は顔を上げた。


「文面?」


「事実確認中であること、乗っ取りの可能性があること、関係各所と協議していること。まずはそれを事務所から出します」


「私の言葉では、出さないんですか」


「今は危険です」


「でも、私のアカウントのことです」


 三島の表情は変わらなかった。


「だからこそ、感情的な発信は避けるべきです」


 感情的。


 その言葉に、咲良の胸が少しだけざわついた。


 確かに、今の咲良が書けば危うい。余計なことを言うかもしれない。誰かを傷つけるかもしれない。自分をさらに追い込むかもしれない。


 でも、自分のことなのに、自分の言葉で話せないのか。


 画面の中の三島は、続けた。


「今後については、炎上の推移を見ながら判断します。しばらく投稿は停止してください。案件先には弊社から連絡します」


 咲良は頷いた。


 投稿停止。


 その四文字が、胸の奥に落ちた。


 通話が終わると、部屋はまた静かになった。


 咲良は椅子に座ったまま、しばらく動かなかった。


「投稿、止めるんだ」


「今はそれが安全だ」


 蓮が言った。


「安全って、誰にとって?」


 咲良は画面の消えたパソコンを見つめた。


「事務所? 案件先? フォロワー? 私?」


「全部だ」


「私は今、全然安全じゃない」


 蓮は言葉を探すように黙った。


 咲良は立ち上がり、窓際に置いてあるリングライトに触れた。いつもなら、これをつけるだけで仕事の自分になれた。顔を明るく照らし、肌をなめらかに見せ、瞳に光を入れる輪。


 電源を入れると、白い光が部屋に広がった。


 咲良はその前に座った。カメラは回っていない。けれど体が勝手に角度を探す。少し顎を引き、肩の力を抜き、口角を上げる。


 いつもの咲良が、そこにいる。


 咲良はふと、笑いそうになった。


「私、気持ち悪いね」


「やめろ」


「だって、こんなときでもきれいに映る角度探してる」


「それは癖だ。気持ち悪いことじゃない」


「じゃあ何?」


「生き方になりすぎてる」


 蓮の言葉は、責めるでも慰めるでもなかった。


 咲良はリングライトの白い輪を見つめた。光が強すぎて、少し目が痛い。


 そのとき、通知を切っていたはずのスマホが震えた。電話だった。


 画面には、母の名前が表示されていた。


 咲良の心臓が別の意味で沈んだ。


 母。


 地元に住む母は、咲良の活動をよく知らない。SNSで仕事をしている、くらいの認識だ。たまにテレビや雑誌に出ると喜ぶが、ネット上で何が起きているかまでは追っていない。


 でも、炎上が広がれば、誰かから耳に入るかもしれない。


 咲良は電話を無視しようとした。


 蓮が静かに言った。


「出たほうがいい」


「今は無理」


「出なかったら、余計心配する」


 咲良は深く息を吸い、通話を押した。


「もしもし」


「あ、咲良? 今、大丈夫?」


 母の声は、いつも通りだった。少し高くて、少し急いでいる。咲良はそれだけで泣きそうになった。


「なに?」


「今朝ね、近所の田中さんに会って。咲良ちゃんネットで有名なのねって言われたのよ。なんか写真がどうとか……お母さん、よくわからなくて」


 咲良は目を閉じた。


 もう、届いている。


「別に、大したことじゃない」


「そうなの? でも、咲良、大丈夫? 声、疲れてる」


「大丈夫」


 反射のように答えた。


 すると母は、少し黙った。


「あなた、小さい頃からすぐ大丈夫って言うのよね」


 咲良は息を止めた。


「転んで膝から血が出てても、大丈夫って言ってた。泣きそうな顔で」


「そんなの覚えてない」


「お母さんは覚えてるわよ」


 母の声が少し柔らかくなった。


「咲良、昔から写真嫌いだったでしょう。運動会も、入学式も、撮ろうとすると怒って。お母さん、あの頃はただ反抗期だと思ってたけど」


 咲良はスマホを握る手に力を込めた。


「お母さん、何が言いたいの」


「何も。ただ、もし昔の写真のことで嫌な思いしてるなら、咲良は昔から咲良だったよって言いたくて」


 その言葉は、咲良の一番弱いところに触れた。


 昔から咲良だった。


 そんなこと、言わないでほしかった。

 昔の自分と今の自分をつなげないでほしかった。


 咲良は変わったのだ。変えてきたのだ。あの頃の自分から逃げるために、必死で。


「お母さんにはわかんないよ」


 声が硬くなった。


「え?」


「昔から咲良だったとか、簡単に言わないで。私は昔の自分が嫌だったの。写真も嫌いだった。顔も嫌いだった。お母さんが可愛い可愛いって言うのも嫌だった。全然可愛くないのに、適当に言ってるみたいで」


 電話の向こうで、母が息を飲んだ気配がした。


 咲良は止まれなかった。


「今さら昔の私も私だよとか言われても困る。私は、あの頃の私を消したくて頑張ってきたの」


 言ってから、部屋が静まり返った。


 蓮は何も言わない。


 電話の向こうで、母も少しの間黙っていた。


 やがて、母は静かに言った。


「消したかったんだね」


 咲良の喉が詰まった。


「……そうだよ」


「そっか」


 母の声は震えていた。


「お母さん、気づかなかった。ごめんね」


 謝られたくなかった。


 責めてくれたほうが楽だった。そんなこと言わないで、と怒ってくれたほうが、咲良は自分を正当化できた。


 でも母は、謝った。


「ただね、咲良。お母さんは適当に可愛いって言ったこと、一度もないよ」


 咲良は目を閉じた。


「今は聞けない」


「うん。じゃあ、またにする」


 母は無理に続けなかった。


「ちゃんと食べてね」


 いつもの言葉。

 いつもなら少し面倒に感じる言葉。


 今は、それすら痛かった。


 電話を切ると、咲良はスマホをテーブルに置いた。


 涙は出なかった。

 出そうなのに、出なかった。


「私、最低だ」


 蓮は静かに言った。


「最低ではない」


「お母さんにあんな言い方した」


「今のうちに傷つけたことに気づけるなら、まだ戻れる」


「戻れるって、どこに」


「言葉を選び直せるところに」


 咲良は床に座り込んだ。


 もう、誰に何を謝ればいいのかわからない。母に。由衣に。フォロワーに。案件先に。蓮に。昔の自分に。


 どれも正しい気がして、どれも今の自分には遠かった。


 午後になると、事務所から公式の文面が出た。


《所属クリエイター桜井咲良に関するSNS上の投稿について、現在事実確認を行っております。一部アカウントについては、本人の管理下にない状態である可能性があり、関係各所と連携のうえ対応を進めております》


 きれいな文章だった。

 何も間違っていない。

 でも、咲良の声ではなかった。


 その文面の下には、すぐにコメントがついた。


《本人が説明しないの?》

《乗っ取りって便利な言葉》

《事務所文じゃなくて自分で話して》

《昔の写真より、裏アカ作ってたことが無理》


 咲良は読んでしまった。


 蓮に止められる前に、いくつも読んでしまった。


 昔の写真より、裏アカ作ってたことが無理。


 その通りだと思った。


 自分の悪口を自分で書くこと。

 それは、他人を騙すためというより、自分を守るためだった。


 でも、見ていた人からすれば、奇妙で、不誠実で、怖い行為に見えるのだろう。

 咲良自身も、同じことを他人がしていたらどう思うかわからない。


 夕方、灰色のアカウントがまた投稿した。


《事務所は守ってくれるんだね。友達は守らなかったのに》


 咲良は画面を見た瞬間、胃がきゅっと縮んだ。


 由衣。


 やはり、由衣なのか。

 そう思った次の瞬間、別の可能性も浮かぶ。


 由衣を犯人に見せたい誰か。

 咲良と由衣の関係を知っている誰か。

 あの写真を持っている誰か。


 美容部員時代の職場には、他にも同僚がいた。集合写真は咲良だけが持っていたわけではない。誰でも保存していたかもしれない。


 疑い始めると、きりがなかった。


 夜、蓮は一度事務所に戻ると言った。


「一人にして大丈夫?」


「大丈夫」


 咲良は答えてから、少し笑った。


「また言った」


 蓮は玄関で靴を履きながら、咲良を見た。


「大丈夫じゃないなら、そう言え」


 咲良はしばらく黙った。


 いつもの自分なら、言わない。

 言えるはずがない。


 でも、今日はもう何も残っていなかった。


「……大丈夫じゃない」


 声は小さかった。


 蓮は頷いた。


「じゃあ、事務所に行ったら戻る。二時間くらい」


「いいの?」


「いい」


「蓮さんの仕事、私だけじゃないでしょ」


「今は咲良が一番燃えてる」


「言い方」


 ほんの少しだけ笑えた。


 蓮が出ていくと、部屋は急に広くなった。

 咲良はソファに座り、スマホを伏せたまま眺めた。


 見ないほうがいい。

 わかっている。


 けれど、灰色のアカウントの投稿が頭から離れなかった。


《友達は守らなかったのに》


 咲良は立ち上がり、クローゼットの奥から古い箱を取り出した。引っ越しのときに、そのまましまっていたものだ。中には、昔の写真や手紙、使わなくなった名札、イベントの資料が入っている。


 手が止まった。


 美容部員時代の名札。

 桜井咲良、と印字された小さなプレート。


 その下に、写真が何枚かあった。


 由衣と並んで笑っている写真。

 新作リップを手に持ってふざけている写真。

 閉店後の売り場で、二人でピースしている写真。


 咲良は一枚ずつ見た。


 昔の自分は、確かに今より垢抜けていない。顔も違う。メイクも下手だ。

 でも、全部が嫌いかと聞かれたら、すぐには頷けなかった。


 写真の中の咲良は、由衣の横で笑っている。

 今の画面用の笑顔とは違う、少し崩れた笑い方で。


 こんな顔をしていたことを、咲良は忘れていた。


 箱の底に、もう一枚カードがあった。

 由衣の文字だった。


《咲良は、咲良が思ってるより人を明るくするよ。だから、自分のことももう少し明るく見てあげてね》


 誕生日にもらったカードだ。


 咲良はその場に座り込んだ。


 由衣は、見てくれていた。

 咲良が自分を嫌っていることを、きっと昔から知っていた。


 それなのに咲良は、由衣の寂しさを見なかった。


 スマホが震えた。


 今度は、知らない番号からのメッセージだった。


《由衣です。あのアカウント、私じゃない》


 咲良は息を止めた。


 続けて、もう一通届いた。


《でも、あの写真を撮ったのは私。昔、咲良に送った。誰が持ってるのかわからない。ごめん》


 咲良は画面を見つめた。


 疑っていた。

 さっきまで、由衣を疑っていた。


 喉の奥が熱くなる。


 さらに一通。


《私も咲良を傷つけたかった時期がある。だから、疑われても仕方ないと思ってる。でも今回は違う》


 咲良は震える指で返信を打った。


《疑ってごめん》


 既読はつかなかった。


 咲良はスマホを胸に押し当てた。


 犯人は由衣ではない。

 少なくとも、由衣はそう言った。


 それを信じるかどうかは、咲良次第だった。


 咲良は、信じたいと思った。

 今度こそ、由衣の言葉をきれいに処理するのではなく、そのまま受け取りたいと思った。


 その夜、蓮が戻ってくるまで、咲良は古い写真を見続けた。


 昔の顔は、まだ好きになれない。


 けれど、そこにいた自分がただ醜く、消すべき存在だったのかと問われると、答えられなかった。


 写真の中の咲良は、確かに未完成だった。

 でも、未完成なりに、笑っていた。


 その笑顔を見ているうちに、咲良は初めて思った。


 今の自分を守るために必要なのは、昔の自分を殺すことではなかったのかもしれない。

 あの頃の自分を、誰よりも先に傷つけてきたのは、他でもない自分だったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ