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エンシャント・クルーレ② ー『花』の章。冷徹イケメン最強騎士は実の妹である私にだけはデレデレ!? 幸せ宮廷生活に魔導女学院でほのぼの日常オホホホホ!!ー  作者: 藤村 樹
嵐! 頽廃の学園祭編(仮)

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孤児院の子どもたち

◇

 チューパーさんと別れたあと、私はカフェの給仕係の仕事に戻った。

 

 カフェの運営は順調に進み、満員御礼、用意していた材料分もソールド・アウトになった。

 ウワサでは、学園祭の最優秀企画の受賞もほぼ間違いないみたい!

 

 気分がちょっと落ちてたトコだけど、クラスのみんなで頑張ったことが評価されるのは素直にうれしい。

 終了の時刻までは少し早いけれど、みんなホクホク顔で店仕舞いの準備を始めていた。

 

 と、そこで……。

 何やら店先で騒ぐ、小さなお客さんたちがいた。 

 

「ヤダヤダ! ボクもコーヒー飲みたいよぅ!」

「わたしも飲みた〜い」

「お前ら、ワガママ言うなよ。もう店仕舞いだってよ」

「だって、せっかくここまで来たのにさ〜!」


 子どもたちの団体さん?

 でも、幼稚園の年少さんみたいな子から、高校生くらいの子まで、年齢はさまざまだ。

 そのうちの何人かの子が、コーヒーを飲ませろとゴネてるみたいね。

 対応してくれてる受付のコも、困ってるみたい。


 すると、引率者らしき男性が前に出てきて、ペコペコ謝り始めた。


「ゴメンなさい、ゴメンなさい。子どもたちがワガママを言ってしまって……。ほら、ティム、エナ、ダメじゃないか。お姉さんたちが困っているでしょう……?」

「だって、ボクもコーヒー飲みたいんだもん!」

「ここに来れば美味しいコーヒーが飲めるって言ってたじゃない! ジサイアさんの嘘つき!」


 ジサイアさんと呼ばれた男の人は、子供達に責められて オドオドしている。

 引率者なのに、まるで 威厳がない。

 

 ……まったく、仕方ないわね〜。

 ここは私がひと肌脱ぐとするか。


 私はカウンターのほうを仰ぎ見た。

 カウンターの脇では、ブランが持ってきたお菓子を片付けている。

 私はブランのもとに駆け寄り、彼女に耳打ちした。


「プラン。お菓子の余り、まだある?」

「はい、サヤさま。お菓子はまだ、たっぷりとありますよ。あそこの怪獣たちのお腹を満たすのには十分なだけのね」

「うん、ありがと♪」


 私はプランからお菓子を受け取ると、子供たちのところへとお菓子を持っていった。


「ハイ、これ。ちょっとだけど、お裾分けよ」

「え、くれるの?」

「やったー!」

「フフッ、特別よ 。他のお客さんにはナイショにね」


 お菓子を与えると子供たちは幸せそうに頬張り始めた。

 ひとまずは、満足してくれたみたい。

 みんな、ブランの作ったお菓子の美味しさに驚いてるわ。


 子供たちの幸せそうな顔を見て、ジサイアさんという男の人は私にお礼を述べてくれた。


「ありがとうございます。こんな美味しそうなお菓子を恵んでいただいて……」

「いえいえ、そんな。余っていたお菓子を配っただけですよ。それにしても大変ですね、ひとりでこれだけのお子さんの引率をして」


 ジサイアさんは、子供たちのほうを振り返った。

 子供たちを見る彼の目は、慈愛に満ち溢れていた。


「この子たちは、戦災孤児なんです」

「戦災孤児?」

「ええ、戦争で親や身寄りを失った子供たちです。僕は、そういった子供たちを預かって育てているんです」

「へぇ……?」


 この王国ドルジェオンは一見平和に見えるけれど、常に周辺諸国との小競り合いが続いている。

 北方の蛮族・ヴァルムンクだって、そうした勢力のひとつだ。

 テュミルトでの一件でようやく国交の足がかりを作ったけれど、長年にわたって 争い続けてきた。

 そうした争いのなかで、数多くの孤児が生まれていたとしても全く不思議ではないわね。

  

「申し遅れました。僕の名前はジサイア=ハイドランジア。戦災孤児院『樅(もみ)の家』の院長です。お見知りおきを」


 そう言って、ジサイアさんは握手のために手を差し出してくれた。


 ……ほとんど白髪に近い銀髪だから、遠目に見たときおじいちゃんかと思ったけど、よくよく見ると 若い。

 私たちよりちょっと上くらいかも。

 ナヨッとしてて頼りないけど、どこかミステリアスな雰囲気もある。

 なんか初号機パイロットと第17使徒を足して2で割ったみたいな感じだわね。

 

 でも、こんな 若くして戦災孤児院の院長をやってるなんて、立派な人なんだなぁ。

 

 握手を握り返して、私も自己紹介した。

 

「サヤ=エルローズです。よろしくお願いします」

「なんと、あのご高名なエルローズ家のご息女でしたか。これはなんとも失礼いたしました」

「あ、そんな畏まらないでください……」


 そんなお決まりのやり取りをしていたら、お菓子を食べ終わって飽きた子供たちがまた騒ぎだした。


「ジサイアさん、もう帰ろうぜ〜」

「もう眠いよぉ。院長先生、抱っこしてぇ」

「ハイハイ。院に帰ろうね」


 ワガママ放題の子供たちに対して、ジサイアさんは本当の親と変わらぬ愛情を与えている。

 ちょっと甘やかしすぎのような気もするけれど、家族を失った子供たちに必要なものこそ、きっと愛情なのだろう。


 ……こっちの世界での私の両親も、亡くなったのは戦争が原因だという話だ。

 私はお兄さまに愛情をもって育ててもらった。

 最近は放置気味だから、喧嘩してるけどさ。


「それでは、お世話になりました。またどこかでお会いしましょう」

「お姉ちゃんたち、バイバ〜イ!」

「はい、お元気でね♪」


 私たちは子供たちに手を振って送りだした。

 

 ……なんだかんだで今日はいい1日になったな。

 お兄さまは見に来なかったけど。

 フン、悔しくなんかないもんね。


 そうして私たちがまた、片付けの準備を再開した、 そのときだった。


 今度は他のクラスのコが、息を切らしながら飛びこんできた。

 おさげの可愛らしい女の子。

 たしか名前は……ヴィータだったかな。

 今度は一体、何事かしらん?


「大変大変! 大変だよぉ!!」

「どうしたの、ヴィータ? そんなに慌てて」

「げっ、げっ、玄関ホールのほうで……」


 ヴィータの顔色は ゾンビ化してるんじゃないかと疑いたくなるほどに真っ青だ。

 普段は朗らかで、ちょっとうるさいくらいに元気な子なのに。 

 彼女は腰砕けになり、そのまま地べたにへたり込んだ。 


「人が殺されてる……」

「「えっ!?」」


 話を聞いた私たちは、片付けをほっぽりだして玄関ホールのほうへと駆けだした。


……

…………

……………… 


 私たちは、息を呑んだ。


 学院の玄関ホール。

 巨大な円筒形の吹き抜けになっていて、中心の螺旋階段がどこまでも上に伸びている。

 途中では、宙に浮かんだ動く階段が気まぐれに動いて回ったりして、いつも生徒たちを困らせている。


 そんな螺旋階段の麓には、巨大な騎士の銅像が立っている。

 見上げるほどに大きな銅像。

 勇ましく騎馬に跨(また)がり、天高く剣を振りかざしている。


 ……その剣の、刃先。

 刃先には人が刺し貫かれ、ぶらさげられていた。

 そして、その顔には見覚えがあった。


 私が、メルサが、リコが、ノハナが、その絶望的な光景を目の当たりにして、言葉を失った。


「そんな……ッ!」

「チューパーさん!!」


 剣に刺し貫かれていたのは、変わり果てた姿となったチューパーさんだった。

 容貌の美しい彼女は、血の気を失い、白い大理石の像のようだった。

 最初から像の一部だったと言われても、ぜんぜん違和感がない。


 ただ、そのなかで鮮烈に目を惹くのは剣の刃を伝って滴り落ちる血液。

 そして、剥き出しにされた腹部に付けられていたのは……。

 彼女の血液で象られた、真っ赤な『手』形だった。


 頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。


「そんな……どうして……?」


 ほんのちょっと前まで、いつもと変わらず元気そうにしていたのに。

「しばしのお別れ」だって、言ってたのに。

 それって、「また会える」って意味じゃなかったの……?


「オイ、ホントに人が死んでるぞ!」

「あの人、誰……!?」

「怖いわ、助けてぇ!!」

「皆さん落ち着いて! 下がってください、もうギルドに調査依頼は出していますから!!」

 

 周囲がどんどん騒がしくなっていくのに、現実感がなくて、まるで別の世界での出来事のようにしか感じられなかった。

 

 腰の力が抜けて、私はその場にへたり込んでしまった。

 クラスのいじめっ子たちや、イヤな先生が殺されたのともまた違う。

 私の身近にいた人が、死んで、死んで、死んで……

 

「いやあああああぁっ!!!」


 私の叫び声が、広大なホールのなかを延々と響きわたっていった。




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