学園祭
◇
パルレマインでの戦いから、およそ1ヶ月が経った。
季節は移ろい、秋の気配が漂いはじめていた。
高く澄んだ空にすじ雲がたなびき、木々の葉が色づく。
魔法の力で年じゅうを通して花が咲き乱れるこの国でも、季節は流れていく。
そんなちょっとセンチになりがちな、この秋空の下。
私はゴリゴリのゴスロリなコスプレをしていた。
◇
時を少し巻き戻しましょう。
話は、夏休みの前にまで遡るわ。
私たちが通うルーフェリア魔導女学院には、秋に学園祭なるものがある。
当然、クラスで出し物をするという話になる。
今年は春にコットリカの事件があったから、自粛しようという話も、もちろんあったわ。
でも、そんな状況だからこそ、逆に明るいことをしたい。
一度しかない学園生活を、精いっぱい楽しみたい。
そういった声も強かった。
最終的にはうちのクラスでも出し物をすることになったんだけど、今度は何をするかで揉めることになった。
「絶対にゴースト・ハウスよ、ゴースト・ハウス! 背筋も凍るような吸血鬼の館にするの♪」
「そんな大がかりなものにしたら小物を作ったり、セットを作ったり、大変じゃない。女子ならやっぱり、クレープ屋さんよ♪」
みんななんだかんだ言って、ワイワイと楽しそうに盛り上がっている。
でもみんな貴族のお嬢様だけあってか、発想がお上品で、ちょっとパンチが足りないわね。
うちにはせっかくこの国では珍しい長身黒髪がいるのだから、メルサにコスプレさせてベースでも演奏させたらいいのに。なんちゃって。
そんな風に妄想していたら、急に話を振られた。
「「それで、サヤはどう思う??」」
「へ? 私??」
クラスじゅうの視線が私に集まっているのを感じる。
ぼぅっとしてるところに話を振られたから、ものすごく間抜けな顔をしてしまっていたわ。
……パルレマインでの戦いの功績が評価され、私は最速でISRR・CランクからBランクに昇格していた。
いよいよクラスのみんなからの私を見る目は変わって、最近では 一挙手一投足に注目されているのを感じる。
これはこれでやりづらいのだけれど、悪い気はしないわ。オホホホホ。
「うーん、そうねぇ……」
私は顎に手を当て、考え始めた。
他人の意見を批判するからには、パンチが効いたアイディアを出さねばなるまいわね。
道場の娘だけに。打つべし!
「そうね、じゃあ……。コーヒーなんていかがかしら?」
「「コーヒー?」」
「ええ。それも、ただのコーヒーじゃつまらないわ。『罪深きコーヒー』にするというのは、どう?」
「「ギルティコーヒー!?」」
フフッ。いい食い付きだわ。
我ながらナイスアイディア。
「そうよ。こだわりぬいた極上の豆を挽いて、甘い甘ぁ〜いバターとリキュールをたぁ〜っぷり入れた、背徳感まみれのコーヒーよ!」
「「おぉ〜!!」」
ここにベーシストの黒髪少女……じゃなかった、メルサたちも乗っかってきた。
「ギルティコーヒーか、面白そうだな!」
「はや! さすがサヤちゃん!」
「面白いアイディアなのデス。奇抜なネーミングだから、出店の雰囲気にもひと工夫欲しいところなのデス」
メルサとリコが賛成してくれて、うれしい。
ノハナも賛成して、より盛りあげるための意見を出してくれてるのがうれしいわ。
クラスのみんなも賛成の雰囲気で、話がトントン拍子で進んでいく。
他のクラスメイトのコたちからも、続々とアイディアが出てきた。
「ギルティコーヒーってことなら、ゴスロリの格好なんていいんじゃない? 頽廃的で背徳的、血・傷・髑髏、少女の純潔とエロスの融合よ!」
「わぁ、それ面白そう!」
ちょっと言ってることが意味わからないけど、たしかに面白そうね。
いわゆるコンセプト・カフェってやつかしら?
「それじゃあ、調理組と給仕組に分かれないとね」
「ゴスロリの格好は誰に着せる?」
「そりゃあモチロン……」
「「へ??」」
みんなの視線が、私たちいつもの四人組に向けられていた。
◇
夏休みのあいだも少しずつ準備は進められていき、とうとう学園祭の日を迎えた。
クラスのみんなに担ぎあげられ、私とメルサたち四人は問答無用で給仕側へと振り分けられ、ゴスロリメイドを着る羽目になった。
おぉ……。
なんかスゴい。
黒を主体としたメイド服にフリフリのフリルが付いた、定番のデザイン。
妙に胸元がはだけてるし、ボディラインにピッチリだし、ミニスカートは丈が短い。
デザインしてくれたクラスメイトのコの趣味らしいけど、やたらとエロい気がする。
生前もこんな服着たことないわ〜。
メイクも血色を抑えて陶器みたいに真っ白にして、ダークなアイシャドウで囲い目をした。
闇人形になったみたいでとってもイイ感じ。
メルサたちとも互いにメイクし合って、笑っちゃった。
この世界にもスマホがあったら絶対写真撮ってるのに。
ちなみにデザインしてくれたコは服飾系の商家のお嬢さんで、私たちひとりひとりの個性に合わせてデザインを細かく変えるというこだわり様。
例えば、メルサの場合……。
「な、なんか私のだけ露出多くないか!?」
メルサのだけ、ビキニスタイルでヘソ出しルックになってる(笑)。
長身でスタイルのいいメルサによく似合ってて、デザインしたコのけしからん趣味がありありと窺えるわ。
それにしても、布面積が小さい。
トラ柄に置き換えたら「ダーリン、好きだっちゃ♥」とか言いだしそうだわ。
生徒会長にこんな格好させちゃっていいのかしら。
「はや! メルサちゃん、すごい……。私のは、どちらかというと普通かな?」
癒やし系のリコは他のコよりもゴスロリ感は控えめで、メイド寄りの仕立てになってる。
メイクもゴスロリというより、『地雷系』に近い感じだ。
控えめに言って、めっちゃ可愛い〜。
こんな地雷なら、喜んで踏みに行っちゃいそうだわ!
「リコちゃんも、とっても可愛いのデス。私のはファサファサのフレアロングスカートで、ちょっと動きづらいのデス……」
ゴスロリという観点から言えば、最もイメージに忠実に似合ってるのはノハナだった。
アイシャドウもガッツリ濃いめで、黙ってるとホントのお人形さんみたい。
さすがロリータ代表、闇に魅入られそうだわ!
……え? ちなみに私はどんななのかって?
私はいたって普通のゴスロリスタイル。
デザイナーのコによれば「サヤに余計な工夫は不要」とのこと。
悪い意味じゃなければいいケド。
そうこうしているうちに、校舎の屋上から魔法の花火がド派手に打ち上げられた。
学園祭開始の合図だ。
花火が打ち上がるのとともに、お客さんが入場しはじめたわ。
この日に限り、学園は一般のお客さんたちにも公開される。
校舎を囲む水の城壁からはシャボン玉のような泡がたくさん浮かびあがって、すっかりお祭り仕様。
普段は制服に身を包んでいる生徒たちも、各々 コスチュームを着ていて、とっても華やか。
各クラスからも出店が催されていて、チュロスやクレープが販売されていたり、凝ってるところだと手作り杖の販売などをしているクラスもある。
クラブが出し物をしていることもあり、例えば魔生物 クラブでは魔法生物の展示をしていることもあったり。
「火の精霊トカゲは魔道具で合成可能な魔法生物です。うっかり家を燃やされてしまわないよう、しっかり家の防火処理を行ってから合成するようにしましょう……」
歴史クラブでは王国の歴史の謎に迫ったり。
「『智髄の賢者』は王国の礎を築いた二百人の賢者です。しかし、その亡骸は王国に引き取られ、どこかに隠匿されています。果たして王国の光なのか、それとも影なのか………」
と、こんな感じで興味深いコンテンツが山ほどある。
さすが王国随一の魔導女学院だけあって、学園祭の規模もダントツだわ。
空き時間ができたら、ぜひ私もゆっくりまわってみたいところだわ。
こんな群雄割拠のなか、ギルティコーヒーが売上を伸ばせるのか不安になってくるところだけど……。
心配ご無用。
我らがギルティコーヒーの売り上げは絶好調でした。
お店の雰囲気作りの都合上、校舎内の奥まったところに出店したけど、到着したお客さんからどんどん並んでいってくれた。
私たち給仕係の仕事はと言うと、オーダーを取ったり、コーヒーを運んだりしながら、
「我らがゴルビウス=マーティン卿の館へようこそ。この罪深きコーヒーで退廃的で甘美なひと時を味わいください……」
と、気怠そうに言うのがお仕事。
いや、コルビウス=マーティン卿なんて人いないけどね。
設定よ、設定。コンセプト=カフェだからね。
癒やし特別枠のリコ以外のメンバーは、お客さんに愛想よくすることも禁止。
あくまでお店全体の雰囲気を大事にすること。
そんなだから、一部の物好きなお客さんに刺さればいいかなぐらいに思ってたけれど……。
ぬおおお。
なんか私の前にめっちゃたくさん人が並んどる!
しかも心なしか、男性のお客さんが多いような……。
「サヤ=エルローズさま。以前に王都でお見かけした時からお慕い申し上げておりました。どうかこの僕と結婚してください!!」
ひとりの男性客から、突然に交際を申し込まれた。
「待て待て。サヤ殿は最上級貴族であるエルローズ家のご令嬢だぞ。彼女のお相手は僕のような上級貴族こそがふさわしい!」
「愛に貴賤があるものか!!」
何か勝手に私の取り合いが始まった。
こんなん漫画でしか見たことないわ。
私も結構、モテるかも!?
「本日はエルローズ家……じゃなかったマーティン家付きのパティシエ、私ブラン =カプリコットもささやかながら焼き菓子を用意しております。よかったらこちらもお召しあがりくださいな」
お店の奥、お会計のカウンターの脇では世界的に有名なパティシエであるブランも、こっそり焼き菓子を提供してくれた。
「カロリーが気になるお方は、私とリリィの『永遠の零』でカロリーをゼロにして差し上げますよ。よかったらご利用ください」
「ご利用ください♪」
さらに、ブランの隣には美容魔術師のマリィとリリィも控えていた。
お揃いのゴスロリの格好をして、希望のお客さんには美容魔法をかけてあげていた。
ギルティコーヒーの背徳感を楽しみつつも、やっぱり高カロリーに抵抗を感じちゃう女子もいるからね。
ブラン・マリィたちがいることの効果は絶大で、口コミで密やかに彼女らの存在も知れわたり、お店は大盛況となった。
こんな甘くて美味しいコーヒーと焼き菓子を堪能して、カロリーもゼロにできるんだから、そりゃお客さんも来るわよね。
エルローズ家のプライベートな家臣を連れてきて ちょっと気が引けるけど、そこはルーフェリア魔導女学院。
貴族のコが多数在籍するこの学院では、こうした学園祭も貴族の威光をアピールする場のひとつであるらしく、各家の個人的なコネや、家臣を用いることは大目に見られているとのこと。
せっかくの自慢の家臣なんだから、思いっきり活躍してもらいたいわよね!
「サヤ、ちょっと休憩行ってきていいよ!」
「あ、はーい」
小一時間ほど忙しく働いたあと、休憩の順番がまわってきた。
上に軽くカーディガンだけ羽織って、お店の外へ出る。
ちょっくら他のお店でも見てまわっかな、と思って出たところで……。
「ハァイ」
「あっ……」
聞くだけで鳥肌が立っちゃう、オトナの色気たっぷりのセクシーな声。
私のことを、出待ちしていた人がいた。




