紛い物の命
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パルレマインの中心部付近、街全体を見渡せる高台の上ではメルサとシド、そして『救い主の手』の幹部のひとり、リブ=レグラントとの戦いが始まっていた。
メルサはどうして自分たちの情報が筒抜けになっていたのか気になりつつも、猛攻を仕掛ける。
そんなの、敵を倒してから吐かせればよいことだ。
「炉に戯れし火の精霊よ、我が手により解き放たん! 喰らえ、ゾンビ野郎ォ! 『炎球』!!」
メルサは得意の『炎球』を連続で撃ちはなった。
だが、リブはアンデッドとは思えぬ身軽さでバク転し、なんなく回避してみせる。
驚異的な身のこなしだが、シドもリブの隙を狙って先回りしていた。
「背中がガラ空きだぜ!」
「ッ!!」
リブが着地した瞬間を狙い、シドは思い切りハンマーを振った。
背中のダークアメジストを狙い、思い切りスマッシュ!!
……だが、これも空振り。
リブは宙高く跳びあがり、クルクルとバク宙していた。
これには、メルサとシドも目を丸くした。
「ウソぉっ!?」
「クソ! ゾンビのくせに、なんて身軽なヤツだ!」
リブは見事に着地を決めると、呆然としているメルサとシドに言い放った。
「死死死死! 俺のスタンスはいつでも『いのちだいじに』だァ! てめぇらの大味な攻撃なんざ当たりゃしねぇよ!」
ーーリブ=レグラントは生前、冒険者のひとりであった。
それもAランクパーティーの、『盗賊』。
盗みの腕はもとより、戦闘力も高い一流の盗賊であった。
だが、スリルを好み、わざと危険に飛びこむ傾向が強かった。
ダンジョンの最奥で宝を守護するモンスターをわざと起こしたり、クエストの最中に捕まえた希少生物を違法売買して、ギルドに目を付けられたり……。
巻き込まれたパーティーが全滅に陥りそうになることもしばしばであった。
そんな彼がアンデッドになったのは他でもない、このパルレマインでのことであった。
ミスリルリザードを討伐するクエストで地下洞穴の奥深くを探索しているときに、突如として仲間に裏切られたのだ。
剣士に胸を袈裟斬りにされ、リブは仰向けに倒れた。
「ごぶフォッ!!」
地面から生えていた魔鉱石が背中に刺さり、リブは大量に吐血した。
致命傷だった。
「まったく、いつもいつも俺らを危ない目に遭わせやがって……」
「てめぇといっしょにいたら、いくら命があっても足りねぇんだよ!」
「この……死に急ぎクソバカ野郎が!!」
死に行くリブに対し、仲間たちは散々罵倒して、立ち去っていった。
薄れゆく意識のなか、リブは吐き捨てられた言葉を冥土の土産にして、この世を去る……はずであった。
この地下深く暗い場所で、彼は命の終焉を迎えるはずであったのだ。
ーーチクショウ。
俺はスリルを求めて今まで生きてきた。
そのためにAランク冒険者にまでなったっていうのによ。
最後の最後に、こんなしみったれた場所でつまんねぇ死に方しちまうって言うのかよ……!?
……だが、ここで彼は思わぬ転機を迎えることとなる。
地下に潜むという低位級悪魔モンスター。
彼らは無限とも言える寿命を持てあましつつ、いつか大悪魔になることを夢見ていた。
悪徳を積むべく、いずれ世界に名だたる大事件を起こそうと、コツコツと丹精こめて魔鉱石に邪気を注ぎ、『紫魔鉱石』を造りあげた。
リブの背中にたまたま突き刺さったのがまさにこの、ダークアメジストだった。
ダークアメジストはリブの血を吸い、その効能を発揮した。
リブを生前の記憶と人格はそのままに、強力なアンデッドとして復活させたのだ。
リブは周囲でキーキー喚く低級悪魔たちを一瞬で消し去ったのち、ただちにかつての仲間に報復しに行った。
地下洞穴の探索を再開していたパーティーは隙を突かれ、復讐はまたたく間に達成された。
新たな生を得て、自分を殺した者たちへの復讐を速やかに遂行できたことを、リブは喜んだ。
彼の背中から滑稽にも生え出でたダークアメジストの光を浴びて、冒険者たちはあっという間に自我のないゾンビへと変貌した。
しかも、リブは彼らの思いのままに操れるということが分かった。
不死者と化した男のゾンビは繰り返し繰り返し徹底的に殴りつけ、苦しみを与え続けた。
女の格闘家と僧侶のゾンビには、自身に奉仕させ、思いのままに凌辱した。
しかし、彼はそこで異変に気が付く。
……感覚がないのだ。
痛みもないが、期待していた快感も得られなかった。
所詮は紛いものの生命。
再び回りはじめた人生はまやかしに過ぎないのだ。
しかし、彼が絶望にうちひしがれることはなかった。
「なら、必ずまた人間として甦ってみせるぜ。そして、今度は必ずこんなクソみたいな死にかたはしねぇ! 死死死死死!!」
こうして、リブは人間として甦るべく活動を開始した。
裏社会で生きていた彼はやがて『救い主の手』からの勧誘を受けた。
彼の目的は『理想郷』の実現を目指すという組織の目的とも合致し、迷わず『救い主の手』の一員となった。
強い信念を持ち、強力なアンデッドと化した彼が、幹部に登り詰めるのにまで時間はかからなかったーー。
リブはメルサたちに対し、攻撃へと転ずる。
「てめぇら、来やがれ!!」
「「ヴオオオオォ……」」
「!?」
背中のダークアメジストが明滅するとともにリブが叫ぶと、高台の下から数体のゾンビが駆けつけてきた。
動きの鈍重なゾンビとは思えぬ速力だ。
ゾンビはリブに加勢して共闘するのかと思いきや、飼い主に飛びつく犬のようにリブに飛びこんでいく。
ゾンピたちは瞬時に肉の塊になると、リブの肉体と融合した。
「んああ゛ぁッ!!」
リブが力を込めると同時に、右腕は丸太のように太く、長く膨れあがった!
腐臭のただよう、醜悪な肉の塊。
しかもその腕の先からは、剣のように長く太い爪が伸びだしていた。
「死死死死死! ぶっ潰れやがれ!!」
『不死者の爪』!!
リブは太く、長く伸びた腕を鞭のようにしならせ、メルサたちへと叩きつけた!
地面を容易くえぐるほどの破壊力。ドワーフの造った武具で完全武装した重装兵でも、跡形もなく粉砕してしまうだろう。
しかも、その爪にはダークアメジストの光を宿し、『ゾンビ化』の効果まで付与されている。
「うぁっ!」
「危ねぇっ!」
この凄まじい攻撃をメルサたちは持ち前の反射神経でかろうじて躱した。
メルサは攻撃を躱しつつも体をねじり、リブへと腕を差しのばす。
「ッのゾンビ野郎! まわりのゾンビを取りこむなんて卑怯だぞ。でも、火炎属性が弱点なのは変わりないだろ!」
メルサが撃ちはなったのは、無詠唱による『炎球』。
詠唱ありの場合と比較して威力は数段落ちるが、リブの攻撃後の隙を狙った速攻。
名門ルーフェリア魔導女学院の生徒ともなれば、無詠唱での魔法発動もお手のものなのだ。
攻撃直後の硬直で、リブは回避行動を取ることができなかった。
だが、ダークアメジストから発生した角錐型の結界により、炎球は弾かれてしまう。
「死死死死死! 火炎使いはヤッカイだなァ。俺は回避も防御も隙はねぇ。だが、危機管理はいくら対策を施してもやりすぎということはないよなアァ」
再びダークアメジストが明滅したかと思うと……。
高台の下から、ご丁寧に属性変化を遂げたファイアーゾンビが駆けつけてきた。
今度はファイアーゾンビと融合し、リブは『火炎耐性』まで身につけてしまった!
「クソっ、どんだけ慎重派なんだよあのゾンビ野郎!」
「あの腕の攻撃もとんでもねぇ威力だ、お嬢さん。気を付けていこうぜ」
攻守ともに隙のないリブに対し、活路を見出だせずにいるメルサとシド。
果たして、メルサたちに勝機はあるのかーー。




