再会と、再会
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錬金術師の末裔・ルビエ=モズクォズは呪動車へと変化した魔人形・タンボ=ツリーピオに乗り、街のほうへと向かっていた。
ウルミナス=ベラドンナの追撃を華麗にかわしてみせたルビエであったが……。
その実、彼女は憔悴しきっていた。
「ウヒャヒャ、ウヒャ……。ウヒャウヒャしてられるか!」
「クヒヒ! いかガしまシた、ルビエサマ? 新タな呪いデモ受けまシタでショーか??」
「マジかよあの女、魔水晶で造った龍のモニュメントに軽々と大穴あけたぞ! 強すぎるじゃろ!!」
「ヤッとルビエサマの好敵手になれソウな者が現れまシタネ。本気デ戦えル時ガ楽しミでスネ。クヒヒ!」
「アホか! 勝てるわけねぇじゃろ! ワシは戦うのは好きじゃない。ワシは好きなだけウヒャウヒャして、楽しく生きていきたいんじゃ!!」
「そうデスか。そレデはワタクシが、代わリニあノ女を呪っトイテあげマショー! クヒヒヒ!」
ルビエとツリーピオはそのままパルレマインの街へと突入する。
『木の葉を隠すなら森に隠せ』の言葉どおり、街の人混みに紛れて身を隠すつもりだった。
しかし……。
「なんじゃ、コリャ!?」
「クヒヒ! この街ハ呪ワレていマスネ!」
街にあふれているのは蠢くアンデッドばかり。
身を隠す場所などありはしない。
身を隠すどころか、アンデッドたちはルビエを重要な標的として認識し、ジャンジャカ集まってきた!!
「ルビエサマを狙っテ集まっテきマスヨ! ヤハリ呪わレテまスネ~、クヒヒ!」
「ええい、轢け、轢きまくれ!!」
超音速で駆けぬけるツリーピオ。
その身を構築するボールは呪いの力で覆われており、近づく者を粉砕する。
近寄ってくるアンデッドたちをポンポン撥ね飛ばしながら、街のなかを爆走している。
「フッ。不運と踊っちまったのぅ……」
「そレハ新タな呪いノ言葉でスカ?」
「何でもないわ、ウヒャヒャ!」
ツリーピオは暴走車と化して、行く宛もなく街のなかをさまよう。
道行くアンデッドたちから見れば、まさしく理不尽に破壊を運ぶ呪われし車である。
「そレでルビエサマ、どチラへ向かエバイイんデショーカ??」
「分からん! とりあえず捕まらんよう、街の中を逃げまわっておれ」
「リョーカイでス」
今後の方策を練りながら逃げまわることとしたルビエたち。
だが、ツリーピオ以上の驚異的な機動力を有するウルミナス=ベラドンナは、既に先回りをしており……。
「チョコマカとせわしない奴らだ。だが、この私から逃げられるわけがなかろう?」
『終焉の雨』!!
「ッ!!」
ウルミナスの魔力によって局地的に降り注がれる、猛毒の雨。
生者・不死者を問わず、その水滴にわずかにでも触れた者はその生命活動を終了することとなる。
さらに、その猛毒は有機物・無機物を問わず溶かし尽くし、犠牲者もろとも地面を陥没させた。
「のあああぁぁぁ……」
ルビエはとっさにアダマンタイト製の腕輪を種金として頭上に傘を錬成し、なんとか難を逃れた。
だが、地盤の沈下に巻きこまれ、ツリーピオもろとも地下へと落ちていった。
ーーー
ーー
ー
ウルミナスの魔法により、あたり一帯は毒の沼と化していた。
さらに地下の溶岩溜まりにぶち当たったため、毒沼とマグマが混じりあい、まさしく地獄の様相を呈していた。
グツグツと煮えたつマグマの熱で毒の蒸気が舞いあがり、陥没した地面の底に溜まる。
異様な臭気。
吸えば肺臓が腐り、全身の穴という穴からたちまち血を噴きだし、死に至る。
そんな地獄のような光景のなか、ウルミナス=ベラドンナは地へと降りたった。
熱気と毒気で空気が揺らめくなか、涼しげな顔をしている様は異様であり、見る者に恐怖を与えたであろう。
「……フッ。この環境で生きているとはさすがだな。見込みどおりだよ。チョコマカ逃げまわるものだから、うっかり殺すところだった」
ウルミナスの視線の先では、息も絶え絶えとなったルビエが跪いていた。
「フーッ! フーッ! フーッ!」
眼は充血し、顔は苦悶にゆがんでいる。
普段、ウヒャウヒャしているルビエからは想像もつかぬ有り様。
人型に戻ったツリーピオが、彼女の肩を支えている。
……ルビエは自身の周囲の空気中の毒素を無害な物質へと錬成することで命を保っていた。
だが、ウルミナスは無数の毒素を複合して使っている。
種類が多く、その化学構造は複雑。
一流の錬金術師としての技能を持つルビエをもってしても、全ての毒素を処理することができないほどなのだ。
「フーッ、フーッ! ……キサマは何者なのじゃ。突然襲いかかってきおってからに。だいたい、なぜワシを狙うのじゃ!?」
「私の名はウルミナス=ベラドンナ。故あって、お前の身を確保しにやってきた」
「故、じゃと? フーッ、フーッ」
「お前の力を貸してもらおうと思ってね。お前の力が必要なのだ。我らが求める『理想郷』を実現するために、な」
「『理想郷』だと? ウヒャヒャ、さっきから何を言っとるんじゃキサマは? ワシはそんなもん知らぬし、頼まれても何もできんぞ! フーッ、フーッ」
「ハッ。しらを切っても無駄だ。お前がスキルを継承しているのは分かっている。……『究極錬成』のスキルを、な」
「ッ!!」
ーー『究極錬成』。
かつて、王国の歴史上もっとも偉大な錬金術師と謳われたルティエロ=モズクォズ。
ルティエロの名を呼び声高くのしあげたのが、彼が編み出した究極の錬金術である。
そのスキルは『賢者の石』を遥かに超えた奇跡を実現すると言われていたが、その仔細は謎に包まれている。
そして、その伝承はとうに途絶えたとされていたが……。
「伝承は途絶えることなく、現代まで受け継がれていた。だが、お前ら一族はそのことをひた隠しにしてきた。結果として没落し、こんな地の底で隠れ住むに至っている。いいのか、それで? かつての栄光を取り戻したいとは思わないのか? ……もっとも、慎ましやかに隠れ住んでいた先代までと違い、お前はド派手に暮らしているようだがな」
「フーッ、フーッ……。ワシは何代にもわたってコソコソ隠れ住む自分の一族に嫌気が差してたんじゃ! 『究極錬成』だかなんだか知らんが、国を守るため、人を守るためと言って、我が身を犠牲にしてつまらん人生を送るこの一族にな!」
『究極錬成』は国家の存亡をも揺るがしかねない秘術。
モズクォズ家は国を守るため、人々からいくら謗られようとも技術をひた隠しにし、ひっそりと地に潜るように生きてきた。
ルビエは幼少の頃より、そんな生き方を馬鹿らしく思っていた。
顔も知らない誰かのために、自分を殺して生きていくなんて。
だから彼女は魔人形であるツリーピオだけを傍らに置き、錬金術で莫大な資産を築いては湯水のように浪費して、放蕩の限りを尽くした。
コソコソと人目を忍んで生きてきた一族を嘲笑うかのように。
……いや、それは生まれたときから課せられた運命に抗おうという、彼女の決意表明だった。
「ワシはワシのためだけに、好きに、自由に、ウヒャヒャしながら生きていくんじゃ!
運命に縛られて生きていくのなんてゴメンだね! ウヒャヒャ!!」
ウルミナスに中指を突き立て、笑うルビエ。
……だが、そうしているあいだにも宙を漂う毒素はルビエの体を蝕んでおり……。
「ゴフッ!!」
「! ルビエサマ!!」
ルビエは大量に吐血した。
ウルミナスが撒き散らした毒素が、全身にまわったのだ。
じきに全身の臓器がドロドロに腐り、死に至る。
ルビエはとっさに口を押さえたが、黒く濁った血が止めどなく溢れ出てくる。
地面が、瞬く間に彼女の血液で黒く染まった。
「オブッ……グェッ……!!」
「フッ。粋がったところで惨めなものだな、賢者の末裔よ。せっかく人生を楽しもうにも、死んだら元も子もあるまい。素直に命乞いして、我らに忠誠を誓ったらどうだ? 永遠の忠誠をな。アハハハハ!」
もはやルビエに残された選択肢は、少ない。
だが、得体の知れぬ連中の言いなりになるなんて、面白いわけがない。
ルビエが死を選ぼうとしたそのとき……。
フワリと鼻をくすぐる薬草の香りとともに、天からキラキラと輝く粉が舞い落ちてきた。
『天使の妙薬』!!
……ハイポーションと聖水をベースに、種々の薬草を絶妙な配分で調合することによってのみ実現する、奇跡の秘薬。
万能薬とも呼べるほどの効能。
さらに、ウルミナスがばらまいた毒の種類に対してより効果が高まるように、薬草の配分を微調整してある。
粉が振りかかったことにより、ルビエの体内の毒素が急速に解毒されていった。
青いを通り越して全身紫色になっていたルビエの皮膚が、みるみる健康的な肌色へと戻っていく。
「おぉっ! すっかり元に戻ってたぞ!」
「セッかくワタシと同ジ紫色になっテタの二残念でスネェ……。クヒヒ!!」
ウルミナスは自身が生みだした毒素が解毒されていく様を眺めていた。
この地底においてそんなことができる人物を、彼女はひとりしか知らなかった。
「……チッ、来たか。目障りなヤツめ」
舞い落ちる薬粉とともに降りてきたのは、王国正規軍所属・ラナ=ベンダラ。
彼女は地に降りたつと、ウルミナスを見やる。
その表情はどこか淋しげで、悲しげでもあった。
「お久しぶりですね……師匠」
運命の歯車が、音を立ててまわりだした。
◇
私がラナさんと別れる、ちょっと前のこと。
私はルビエの城のほうへと向かって走るラナさんの後ろについて懸命に走っていた。
「はぁっ! はぁっ!」
疾い……!
ラナさんの身体能力がこんなに高いなんて。
『脚力強化』と『心肺強化』を使ってるのに、付いていくのがやっと。
さすがは王国正規軍所属の軍人さん。おっとりしてるように見えるけど、鍛え方が違うわ……!
「とりゃあっ!!」
私たちはバルクールよろしく、洞穴の屋根から屋根へと飛び移ろうとした、そのときだった。
……視界の片隅に、白い何かが高速で接近してくるのが見えた。
「う゛ッ!!!」
白い何かはそのまま激突し、私は吹っ飛ばされた。
全身を強い衝撃に貫かれて、意識が飛びそうになる。
その白い何かは外側は柔らかいのに、中はものすっごく硬くて……。
アルデンテ!? なんて言ってる場合じゃない。
私は今、間違いなく敵の攻撃を受けているッ!!
「ラナさん、私に構わないで先に行ってて!!」
「サヤさん!?」
異変に気付き、こちらを振りかえったラナさんの姿が、どんどん遠ざかっていく。
遠く遠く、一気に街のはずれまで飛ばされた。
そして、鉄骨のような塔に強く背中を打ちつけられて、ようやく止まった。
「ぁぐっ!!!」
息が止まるかと思った。
背骨がきしむ、肋骨が折れそうになるくらいしなるのを感じた。
プリンケッツの『打撃耐性』がなかったら、間違いなく死んでたわ。
プリンケッツ様々ね、もうっ!
「うっ……ゲホゲホゲホ!!」
私は鉄骨に背中をぶつけたあと、無様に地に落ちた。
痛みで意識が朦朧としながらも、自分の今の状況を把握しようと努める。
ここは……魔鉱石の採掘場?
鉄骨で組んだ塔と足場が、延々と地の底まで続いている。
そして、痛む背中をのけぞらせ、私が鉄骨に背中をぶつけたあたりを見あげた。
その鉄骨の支柱に、彼女はいた。
全身に蠢く『綿花』をまとわりつかせ。
逆さまになって蜥蜴のように梁にしがみついている。
目を血走らせ、全身の血管を浮かびあがらせていたのは……かつての級友、メルツバウ=コットリカだった。
「久しぶりね、サヤ。会いたかったわ♥️ ウフッ、ヴフフフふふぅっ……!!」




