命を語るゾンビ
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ノハナたちはメルサとシドが道を切り拓きながら、街の中心部へと向かっていた。
無数のアンデッドたちを倒しながら進むのは、容易な道ではなかった。
屈強なドワーフの戦士たちも奮闘していたが、あまりにもアンデッドたちは強く、そして数が多すぎた。
通常、人型のアンデッドの戦闘力はDランク、生前から強かった個体でもせいぜいCランク相当である。
肉体は朽ちており、理性的な行動を取れないからだ。
しかし、このパルレマインを埋め尽くすアンデッドたちは皆Cランク相当、なかにはBランクに到達する個体もいる。
武器・防具屋からかっぱらった武具を勝手に装備し、『死霊騎士』にまでランク・アップする者までいるのだ。
しかも、ドワーフの造る装備品はどれも性能がいいので余計にタチが悪い。
また、魔力災害などを契機として局所的にアンデッドが大量自然発生することは稀にあることだが、これほどの規模の大量発生は未だかつて世界でも報告がない。
なにせ、パルレマインは都市国家と呼べるほどの面積を誇る街なのだ。
……これは明らかに人為的な魔生物災害。
しかも、恐ろしいほどの力を持った者による仕業に違いないのだ。
その事実を見抜いていた数少ない知恵者のひとりであるノハナは、周囲への警戒を強めていた。
アンデッドの支配者は見晴らしのよい高所にいるとは推理していたのだが、どうしても地に倒れている人やドワーフが気になってしまう。
傷ついた者たちは手足を食いちぎられて欠損していたり、瘴気に当てられて徐々にゾンビ化が始まったりしていた。
あまりの惨状に、リコが口許を手で覆った。
「ひどい……」
「早く『聖水』や反転魔法で治療しないと、ゾンビ化している人たちは手遅れになってしまうのデス」
「つまり、さっさと敵のボスをブッ倒さなきゃならないってワケだな! ……ハァッ、ハァッ」
メルサは魔法と剣を交互に使って戦いを進めていた。
だが、休むことなく戦い続けていたので、体力と魔力を消耗してしまっていた。
「はや! メルサちゃん、疲れてきてる……。それじゃハイ、コレを食べてみて!」
「ん? リコ、何だコレ?」
「『トレント炭火のビーフジャーキー』だよ。最近、いろんな事件に巻き込まれることが多いから、マジカル☆キッチンで保存食を作ってみたの」
そう言って、リコは幾本かの干し肉を差し出した。
トレントとは、樹木系魔物の総称である。
長年生きた樹木が濃密な魔素を吸収することで発生するが、その身には高い知能と魔力が宿る。
倒したトレントから得た薪で肉を炙れば、その肉にも魔力が注ぎこまれ、良質なタンパク・魔力の補給源となる。
リコがマジカル☆キッチンで調理したビーフジャーキー。
干し肉とは思えぬ柔らかさと濃厚に凝縮された旨味を実現、噛めば噛むほどにトレント炭火の香ばしい香りが楽しめる1品に仕上がっていた。
ちなみに、素材となる肉には高級牛魔物である『赤角牛』を用いている。
あくまで保存食ではあるものの、戦いでお腹を空かせていたメルサには、頬っぺが月から落ちるほどの品だったのである!!
『体力回復・大』!!
『魔力回復・中』!!
「んッッッま!!!」
「ホント? よかった! ハイ、シドさんも」
「おぅ! サンキュな、お嬢さん。……んッッッま!!!」
「すごい。ハイポーションとエーテルを足したくらいの回復量なのデス!」
体力・魔力ともに充実、一向は探索を再開した。
すでに街の中心部にまで来ており、ノハナの祖父の家はもう目と鼻の先だ。
と、ノハナがこのあたりで1番高い高台ーー実際には、このあたりの名士が住む洞穴の屋根なのだがーーを見あげたところで……。
「! いたのデス! あの高台の上!」
「「!!」」
そこには、街の住民がアンデッドにいたぶられる様を、愉快げに笑って見ている男がいた。
◆
『救い主の手』の幹部がひとり、リブ=レグラントは自身が操るアンデッドたちの働きぶりを見おろし、満足げに笑みを浮かべていた。
だが、血の通わぬ土気色の顔で浮かべる笑みは、見る者に不気味な印象しか与えなかったことであろう。
そう。あたかも柩に入れた遺骸が、笑いかけてきたときのような……。
「死死死死死。楽しみだなァ、楽しみだなァ。早く見つかるといいなァ、『賢者の石』の素」
彼の期待感に呼応するかのように、背中から生え出でた『紫魔鉱石』は光の波動を放ち続けていた。
しかしーー
『炎球』!!
「ッ!!」
不意打ちで、リブの背後から放たれた『炎球』。
だが、ダークアメジストによって形成された角錐型の結界によって弾かれてしまった。
「クソっ! なんだあの背中の宝石は……!」
「てめぇがゾンビどもを操ってる親玉だな? 街をメチャクチャにしやがって……。この街は俺の第二の故郷なんだ、絶対に許さねぇぞ!」
高台に登ってきたのは、メルサとシドのふたり。
ふたりは怒りに満ち満ちた目付きでリブのことを睨みつけていた。
熱血どうし、互いが互いの熱血を高めあい、その熱血ぶりたるや血管がヤケドするほどの熱血ぶりである。
だが、それに対するリブの反応は思いも寄らないものでーー
「オ、オイ! お前らまさか、オレに勝負を挑む気じゃないだろうなァ!? 悪いことは言わん、やめておけ!」
「「は??」」
「お前ら、このオレを誰だと思ってるんだ? 命は大事にしろよ。命を無駄に捨てるようなマネはするなァ!」
突然の説教に、目を丸くするメルサとシド。
ふたりは互いに顔を見合わせる。
ふたりが考えていることは、同じだった。
「命を大事にってアンタ……」
「「ゾンビじゃん!!」」
「あと、お前のことなんて知らねぇ!」
メルサとシドが総ツッコミするも、リブはどこ吹く風。
彼は自身へと向けられる敵意など意に介することなく、考えを熱く語りはじめた。
「ハァ? アンデッドが命を語っちゃいけねぇってのかァ? 命は素晴らしい。人生は前向きに。他人と比べるな、一度きりの人生を楽しもう。失ったことがあるからこそ、説得力があるってもんだろうがァ!」
説得力があるようなないような。
だが、彼がこの街で行っている所業を考えれば、その言い分は理解不能と言うよりほかない。
メルサとシドは、ますます怒りを煮えたぎらせた。
「この街の住民を殺しまくってるクセに、どの口が言うんだよ!」
「お前、いったい何が狙いなんだ!?」
「あァん? この街をアンデッドで埋め尽くしたのはウルミナスの姉御の命令だから仕方ねぇけどよ。ついでにオレも、目的を果たさせてもらおうと思ってなァ?」
「目的……?」
リブは、ゴソゴソと自身の懐をまさぐりはじめる。
「てめぇらは錬金術師に『命の滴』を造ってもらおうとしてんだろ? いいなァ。うらやましいよなァ。それがあればオレも人間に戻れるかもしれねぇじゃねぇか。だから、オレも探すことにしたんだよ」
……そうしてリブは、懐から出した物をメルサたちへと見せつけた。
「なっ……!?」
「てめぇ! どうしてそれをッ!!」
ーー『時空石』。
リブが手にしていたのはまさしく、メルサたちが探し求めていたもののひとつ、『時空石』であった。
美しく清らかに輝く、紡錘形の結晶。周囲の空間がゆがんで見えており、空間に影響を及ぼしていることが分かる。
人智を超えた、神秘の結晶。
……だが今は、真っ赤な鮮血が、したたり落ちるほどにまとわりついていた。
「まさか……! てめぇ、グライラドさんをどうしたぁっ!!」
「お前らがグライラドってドワーフの爺さんからコレを譲ってもらうって聞いて、真っ先にアンデッドたちを集結させたぜ。そして早速ゲットしたってんで、急ぎ持ってこさせたんだよ。……爺さんをどうしたかって? そんなモン、オレの可愛いアンデッドたちが食っちまったよ!」
「グライラドさんは親方の大切なお客さんだぞ……! 絶対に許せねぇっ!!」
「アンタ、命は大事なんじゃないのかよ!?」
「ああ、モチロン大事だよ。オレはオレの大切な命を取り戻すためなら! どんな犠牲も厭わねぇ! それが、オレの生きる道だからだァ!!」
「カッコつけて言ってんじゃねぇよ! 自分勝手にも程があんだろうが!!」
「…………ッ!!」
怒り心頭に達し、感情の赴くままに激昂するシド。
工房の職人にとって、長年の常連は何物にも代えがたいほどの宝なのだ。
対して、メルサはとある異常に気付き、言葉を失っていた。
ーー待て。
どうして、私たちの情報が筒抜けになってるんだ……!?
「なァ、気付いてたかァ? 昼夜のない地下じゃ分からねぇだろうが、時刻はもう夜だァ。夜はオレたちアンデッドの目覚めの時間、最高の人生は素晴らしい目覚めから始まるんだぜぇ!!」
リブの背中のダークアメジストはよりいっそう妖しく輝き、街じゅうのアンデッドたちが身の毛のよだつ叫び声をあげた。
◆
ノハナとリコは、メルサたちとリブ=レグラントの会話を聞いていた。
『潮寄せの貝殻』
テュミルトの街で、アメリから贈られた特産品の魔道具。
貝殻の先端を聞きたい方向に向けて耳を当てると、どんなに遠くても聞きたい音を聞き分けることができる。
航海などの際、風や波の音を聞き分けて予測するのが本来の用途であるが、その効能はさまざまな場面で応用できる。
これほど広範囲のアンデッドを高度に操る能力者だ。
メルサたちとボスとの戦いは激闘になることが予測されたため、ノハナとリコは高台に登らず、離れた所から様子を見ることにしたのだ。
周囲のアンデッドたちを一掃してもらったのち、建物のなかに身を潜めていた。
会話を遠くから聞いているうちに、ノハナもメルサと同様、その異常に気が付いていた。
ーー私たちの情報が、敵に漏れているのデス……!?
ノハナはすぐにその原因に思い至った。
……ひとりだけ、いる。
魔法のペンと手帳で、ノハナたちの動向を事細かに書き記していた者が。
ノハナの背中を冷たい汗が伝った。
ここには、戦闘が苦手な自分とリコしか残っていないというのに。
ノハナは、傍らにいるリコにささやいた。
リコにだけ聞こえる、小さな声で。
「リコちゃん、ここから走って逃げるのデス」
「はや! 逃げるって、どこへ? 誰から……?」
「とにかく、アンデッドがいない方向に向かってガムシャラに走るしかないのデス」
「アラ? どこに行こうというのかしら?」
「「!!」」
ノハナとリコは、恐怖のあまり後ろを振り向けないでいた。
カツン、カツンとハイヒールを鳴らす音が近づいてくる。
彼女らの背後ではプレティ=チューパーがその長い髪をかきあげ、艶美な笑みを浮かべていた。
それはあたかも自身の獲物を見て舌なめずりする、美獣。
「せっかく邪魔する者は誰もいなくなったのだから……。私と踊りましょう、あなたたち♥️」




