熱魂ハンマー
◇
ファイアーゾンビが量産されたことで、メルサは手詰まりとなってしまった。
得意の火炎魔法が封じられてしまって、彼女は歯噛みをしている。
「クソっ、なんなんだよコイツら! あっという間に属性変化なんてしやがって……。ココが地下の溶岩地帯だからってのはあるんだろうけど……」
と、『魂拍のピアス』から映像が投影され、声が聞こえてきた。
『サヤ、気をつけて。そこのアンデッドたちは普通じゃないわ』
「あっ、ヒヅキちゃん!」
「ミュウ!」
久々のヒヅキちゃんだ。
(ネネミュウも出番が少ないけど、ちゃんと私の服に潜ってる)
急に出てきて、どうしたのかしら?
何か慌ててるような感じだけど……。
『あのアンデッドたちは何者かの支配を受けている。自然発生したモノではないわ』
ヒヅキちゃんによると、溶岩地帯や火山など、火の『精霊波導力』が多く集まる場所でファイアーゾンビが自然発生すること自体は珍しいことじゃないらしいわ。
(そのような場所では元が冒険者であることが多いらしい……)
でも、理性なき亡者が、自分が不利であることを見て取って、自身の肉体を再構築し、属性変化することなどは絶対にあり得ない。
間違いなく、何者の庇護下、あるいは支配下にいることの証左。
つまり、亡骸を思いのままに操り、弄んでいるヤツがいるっていうこと。
許せないわよね、そんなの……!
私もメルサの手助けをしなきゃ。
でも、もしかしてその操ってるヤツを探すのが先かしら……?
などと考えていたら、ファイアーゾンビたちが近くの家やお店にも押し入り、建物内に隠れている一般市民を襲い始めた。
そのうちの1体がすぐそばにある武器屋にも侵入し、店主のオヤジさんが「うわー、助けてくれ!」と悲鳴をあげる。
メルサがそれを見咎め、武器屋のなかへと駆けこんだ。
メルサはお店のなかに駆けこみながら、壁に掛けられていた1本の剣に目をつけた。
「!! オヤジさん、助けてあげるから、この剣貸してくれ!」
「なぬ!? ……何でも好きなだけ貸してやるから、助けてくれ!!」
オヤジさんの許可を得て、メルサが手に取ったのは真銀の剣。
剣の柄には大っきな魔石が嵌め込まれていて、使用者の身体能力と魔力を最大限に引き出してくれる。
かなりの値打ち物で、お店のなかでもご自慢のひと振りみたいね!
メルサは剣を両手に握りしめると、あっという間に敵との距離を詰め、ゾンビの首を斬り飛ばした!
力強い踏み込み、華麗な剣の振り。
なんて見事な一撃なの!
「すごいメルサ、一流の魔法剣士みたい!!」
「フフン、剣術は小っちゃいころから習ってるんだ。貴族の娘をナメんなよ!」
そう言えば、クローバー家では貴族の嗜みとして幼少時から剣術を習わせられるって話を聞いたことがあるな。
と言っても、あくまで嗜みで、護身術程度までしか習わないって話だったと思うけど……。
ここまでの使い手になるなんて流石メルサ、運動神経バツグンね!
メルサはお店の外へと出て、手にしたミスリル・ソードでバッサバッサとファイアーゾンビを斬り倒している。
ミスリルが持つ対魔効果がアンデッドの自己再生を阻害して、有効なダメージを与えているわ!
そんなメルサの活躍を見て、シドさんも奮起したようにハンマーを振りあげた。
「うおー! お嬢さん、イカすぜ! その剣をここに置きな!!」
「え、こう?」
メルサはシドさんの気合いに押され、言われるがまま彼の前に剣を置いた。
すると、シドさんのハンマーが燃えあがるように真っ赤になり、剣の刀身へと振り降ろされた!
『熱魂ハンマー』!!
躍動する筋肉!
ほとばしる血と汗!!
そしてハンマーのヘッドに込められた熱き魂!!!
暑苦しいほどに注ぎこまれた情熱。
それに応えるかのようにミスリル・ソードの刀身は震え、いっそう輝きを増したわ!!
『武器攻撃力100%アップ』!!
『武器特性50%アップ』!!
すごい!
メルサの剣は切れ味が増したばかりではなく、あまりの威力にファイアーゾンビの肉体が消し飛ばされているわ!
力を込めなくても高い攻撃力を発揮するので、メルサも体力を温存することができているみたい。
コレにはメルサも大感激。
「なんだコレ! すごいなシドさん!」
「おぅよ! 効果は一時的だし、武器にかかる負担も増えちまうけどな。そのミスリル・ソードはかなりの業物だから、まだまだ頑張れるだろうよ。効果が切れたらまた叩いてやるから、思いっきり剣を振りまわしな!」
「おぅよ! ってか、たんのし~♪」
そう言って、楽しげにファイアーゾンビを爆砕していくメルサは、ちょっとアブない人に見えた……。
気持ちいいのは分かるけどね。
なんか最近、メルサがネタキャラ化してきてるような……?
き、気にしないでおこう。今は緊急事態だし。
ちなみにシドさんは普通に戦っても強い。
ぶんまわすハンマーの威力は絶大だし、ミスリルを叩きあげられるハンマーなのだから、ゾンビの頭を粉砕することなど造作もないことだわ。
熱血どうし、メルサとシドさんの相性はよさそうね。
ここは、メルサとシドさんに任せてもぜんぜん問題なさそう!
……でも、いくらここでゾンビを倒しても、キリがない。
ゾンビは次から次へと新しいのが湧きあがってくるし、街じゅうを埋めつくすゾンビの数はいっこうに減る気配がないわ。
メルサもシドさんも、個の戦闘力では申し分ないけど、もっと根本的に解決する方法を探さなきゃいけない気がする。
いったい、どうすればよいのかしら?
と、そこで、ノハナとリコが話し合っているのが聞こえてきた。
「ここのアンデッドたちはおかしいのデス。通常、アンデッドは理性を持たぬもの。でも、ここのアンデッドたちはみんな建物のなかに入って、何かを探しているように見えるのデス」
「はや! アンデッドたちには、何か目的があるっていうこと??」
「ハイなのデス。自ら属性変化を起こすのも変デス。何者かに操られて、探し物をしているとしか思えないのデス!」
うん、さっきヒヅキちゃんが言ってたことと一致してる。
さすがノハナ、賢いわ!
「それに、気になるのは先ほどの紫色の光。紫魔鉱石の光は死者を操ることができると言われているのデス。もしダークアメジストの光を増幅できる能力を持つ者がいるとしたら……」
「はや! その人が、アンデッドたちを操っているということね!」
「光で街じゅうのアンデッドを操るということは……高くて見晴らしのいいところにいる可能性が高いのデス!」
ノハナによると、パルレマインは小高い丘のような形状をしているとのこと。
つまり、街の中心部に行くほど高度が高く、街全体を見おろせるということ!
「街の中心部にはおじいちゃんの家もあるのデス。おじいちゃんたちも心配デスし……。サヤちゃん、私は中心部のほうに行きたいのデス!」
「そっか。おじいちゃんたちを守りに行けるし、もしかしたら敵のボスを叩けるかもしれないし、一石二鳥ってワケね! いいよね、ラナさん?」
「…………」
「ラナさん?」
ラナさんは私たちがやってきた方向ーーつまり街のはずれ、ルビエの居城があったほうを見つめていた。
その表情はいつも穏やかなラナさんからは信じられないほどに緊迫して、張り詰めていた。
「とてつもなく嫌な予感がするわ。私はルビエさんの所に戻ろうと思います。……サヤさんは、私に付いてきてくれないかしら?」
「え? 私ですか??」
「あなたの力が必要なの。……そんな気がする」
ーーサヤさんが『召喚師』として強大な力を得つつあることは、王国正規軍のなかでも噂になっているわ。
この子の力を借りれば、もしかしたら……。
最終的に、私はラナさんとルビエさんの居城のほうへと向かうこととなった。
ノハナとリコが街の中心部に向かい、メルサとシドさんが戦闘要員として彼女らを護衛する。
チューパーさんは意地でも私に付いてこようとしたけど、シドさんに「危ねぇから俺たちに付いてこい」と首根っこをつかまれ、ノハナたちに付いていくこととなった。
こうして、私たちは別々に行動を開始することとなったのであったーー。




