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エンシャント・クルーレ② ー『花』の章。冷徹イケメン最強騎士は実の妹である私にだけはデレデレ!? 幸せ宮廷生活に魔導女学院でほのぼの日常オホホホホ!!ー  作者: 藤村 樹
錬金術師と命の滴

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快楽主義者

 私たちが入った、その部屋の中に広がっていた光景とは……。


「え!」

「何だ、コレは!?」


 私たちの目の前に広がっていたのは、宝、宝、宝の山。

 金銀財宝がイヤというほど積み重ねられていて、まぶしいわ。見てるだけでドライアイになりそう。


 部屋がぎゅうぎゅうになるほど詰めこまれた財宝の山。足の踏み場もないほどで、山と山のあいだを抜けて進んでいくけど、うっかりぶつかると崩れ落ちてきて潰されそうでコワイ。


 しかも、よくよく見ると、財宝に混ざって可愛らしい人形……いや、かなり不気味な人形も無造作に置かれている。

 大量の釘が刺さっている藁人形、手足のちぎれた人型の人形、脈打つ血管のような異形のバケモノを模した人形……。

 なんだかどの人形もこちらを見ているようで、不思議と目が合うような気がする。

 これってもしかして、呪術で用いるための魔人形なんじゃ……。


「あの~、どなたかいませんかぁ?」

「おいおいサヤ、ホントにこの部屋に勝手に踏み入っていいのかよ?」

「はや! もしかしてこの部屋は、お城の宝物庫なんじゃ?」

「宝物庫にしては、部屋の扉も開いていて無防備デスが……」


 たしかに、こんなお宝だらけの部屋に勝手に入るのはまずかったかもしれない。

 ノハナの言うとおり鍵をかけないほうが悪いのだという気もするけれど、人の気配もしないし、引き返そうと後ろを振り返った。


 列の一番後ろでは、チューパーさんが「サヤ=エルローズ氏は高名な錬金術師の住居の中へと招き入れられ、目を疑うほどの宝物を目の当たりにし……」と相変わらず猛烈な勢いでメモを取っていた。

 あんまりメモに気を取られてると金貨につまずいて転ぶわよ……?

 そんな心配をしながら、私が後ろへと1歩踏みだそうとしたとき……。


 その()()は起こった。


 メモを取るのに夢中なチューパーさんの背後、財宝と財宝の隙間から、何者かの腕がニョキッと伸びだした。

 悪趣味なほどにアクセサリーが巻きつけられた、きらびやかな腕。

 腕はチューパーさんの背中へと伸ばされると……。


 後ろからその豊満な胸を、グワシと鷲掴みにした!!


「あぁんッ……♥️」


 チューパーさんが、あられもない声をあげる。


 積み上がった金貨がジャラジャラと崩れ、腕を伸ばした主が姿を現した。金貨の中に潜ってたの!?

 現れたのは……()()だ。全身にアクセサリーを身にまとった女の人!


「彼女が私たちの探し求めていた人物……錬金術師ルティエロ=モズクォズの末裔、ルビエ=モズクォズよ!」

「「え!?」」


 ラナさんに教えられて、みんな驚きの声をあげた。

 高名な錬金術師って、ダンディなオジサマじゃなくて、女の人だったの!?


 ルビエと言われた人は、私たちが見てるのもお構いなしにチューパーさんの豊満な胸を両手で揉みしだき、存分に楽しんでいた。


「ウヒャウヒャ、こりゃタマランのぅ。こんなけしからんモノを胸にぶらさげて、悪い女じゃ。これはオシオキじゃ、このっ、このっ!」

「あぁんっ、やめてぇ……♥️」


 ブッ!!


 隣に立ってたメルサが鼻血を吹きだした。

 なに興奮してんのよ、スケベね。


 でもまぁ……たしかに、ただでさえ色気たっぷりのチューパーさんが、同性の女の人に思いっきり体を弄ばれている様はなんだかとってもイケナイものを見ているような気にさせられた。

 こんなの青少年に見せたら、鼻血どころの話では済まないわ!


 ルビエはウヒャウヒャ言いながら飽きるまで乳を弄んだあと、腰砕けになったチューパーさんをそこらへんに放り投げ、こちらと向かいあった。

 男だったらマジで最低の所業だけど、本人はいたって堂々と胸を張っているわ。


 ……全身にジャラジャラと宝石やアクセサリーを身にまとう様は、まさしく歩く金銀財宝。

 品性の欠片も感じさせないナリをしているけど、唯一彼女を賢者たらしめている司祭帽も、輝く宝石で派手に彩られている。


 年齢は……若い。私たちよりちょっと上くらい、ラナさんと同じくらいに見える。

 派手すぎる格好に負けないくらいに、華やかなお顔立ち。

 パッチリひらいたルビーの瞳が、遠慮もなく私たちのことを()めまわしていた。


「やぁやぁ、見知らぬ友人たちよ。オヌシらは何が目的じゃ? ワシの財産が目的なら、好きだけ持ってくがいい。金は腐るほどあるからな、ウヒヒ!」

「ちょっと待って、私たちの目的は財宝なんかじゃないわ! その前に教えて、なんでチューパーさんの胸を揉みしだいたの? もしかしてソッチ系の人ですか!?」

「ウヒヒ。ウヒャウヒャするのに、男も女もなかろう? ワシはウヒャウヒャしたいときにウヒャウヒャするだけじゃ!」


 ウヒャウヒャって、何!?

 てか、なぜにジイサン言葉なの、この人……?


「私たちの目的は、お金なんかじゃないのデス! 私たちは賢者の石である『命のしずく』を造ってほしいだけなのデス!」

「はや! ノハナちゃん……」 


 ノハナが一歩前に出て、懸命に訴えかけた。

 その表情は、彼女が今までに見せたどの表情よりも真剣で、彼女の必死さが伝わってきた。

 そうだ、賢者の石! 早く造ってもらわなきゃ困るのよ、早く造りなさいよと、私もこのウヒャウヒャ錬金術師をジロリと睨みつけた。


「ウヒャヒャ。絶対ヤダね」

「「え!?」」

「それは、何でなのデスか!?」

「単純にツマラナイ。無から生命を生みだす可能性をも秘める賢者の石は、錬金技術の極致じゃ。当然、成功難易度も極めて低く、複雑でメンドくさい。そしてそもそも、錬金の素材がない」

「はや! 錬金の素材って、何が必要なの……?」

「基本となる5元素の上級素材なら、常にワシの手元に揃えてある。じゃが、最も重要な、核となる『精霊原石スピリット』と『時空石クロノス』が決定的に足りん」

「『精霊原石スピリット』と『時空石クロノス』……。それは、いったいどこで手に入るんだ? パルレマインでも手に入るのか?」


 問い詰めるメルサ。

 何事もなかったかのように振るまってるけど、鼻に詰めたハンカチが血で真っ赤に染まってるわよ。


「ウヒャヒャ。手に入ることは手に入ると思うぞ? 晶龍クリスタル・ドラゴンを100匹ほど倒せば、ドロップするじゃろ」

「晶龍を、100匹!?」

「晶龍はAランクモンスターであるうえ、遭遇率もかなり低い、伝説レジェンド級のモンスターなのデス。1週間で100匹なんて、とても……」

「そんな……。何かいい方法はないの……!?」

「ウヒャヒャ。ないことはないかもしれんが、タダでは教えられんのぅ。相応の額の報酬金か、オヌシらのうちの誰かひとりを夜伽の相手として差し出すなら考えるがのぅ、ウヒヒ!」


 キー! なんなの、このふしだら変態錬金術師!

 報酬なんて要求してないで、いいからさっさとダイジなこと教えなさいよー!!


 そう言って、私がルビエに掴みかかろうとしたとき……。

 ラナさんがその場に跪いて、頭を垂れた。右手を地面に着き、君主に忠誠を示す騎士のような佇まい。


「高名なる錬金術師の末裔、ルビエ=モズクォズ殿。そうお固いことをおっしゃらず、手がかりだけでも教えていただけませんでしょうかーー?」


 そのとき、フワリと鼻先に、かすかな香りが漂ったような気がした。

 爽やかなような、スパイシーなような、それでいてどこか官能的で、思わず意識が蕩けてしまいそうな香りだった。

 

微小調合ミクロミキシング芳香フレグランスーー自白香トゥルース・セラム


 右腕の後ろに隠した左手の指先を擦りあわせ、ふたつの薬品を調合している。

 混乱を招く『ネプスコ草』を主成分に、神経の興奮を起こし狂戦士化させる『憤怒の酒』(アルコール度数98%!)を微量に混ぜたものらしい。

 この『自白香』を嗅がされた者は問いかけに対してウソを付くことができなくなり、うまく相手を誘導すれば思いのままに操ることも可能なのだそう。


 ラナさんすごい、これならクセ者のルビエも思いどおりに操って、賢者の石を造らせることもできるかも。

 私がそう考えて、「計画通り」と思わず悪い笑みを浮かべそうになった、そのときーー。


 パンッ!!


 ルビエが両手を叩き合わせた音が、空間に響きわたった。

 と同時に、あたりをかすかに漂っていた香りも消え去ったように感じられた。


「なっ……!?」


 ラナさんは跪いた姿勢のまま身を強張らせ、驚きで目を見開いた。


 ーー『自白香』の薬効成分が空気中の物質と錬成されて、無毒化された……!?ーー


「ウヒャウヒャ。オヌシ、さては『薬師くすし』だな? しかも、王国軍所属の者と見た。まったく、大人しそうな顔をして油断もスキもないのぅ」 

「そんな、どうしてッ……!」

「薬の調合に関しては知ったこっちゃないが、精神誘導の作用をもつ有機化合物の匂いがした。だから、ちょいと錬成して悪さしないものに造りかえただけじゃ。ワシは鼻がいいのじゃよ、ウヒヒ!」


 ……そうか。錬金術には高度な魔導知識とともに、化学知識も要求される。

『薬師』は薬品を調合して新たな薬品を生みだすのに対し、『錬金術師』は物質と物質を錬成して新たな物質を生みだす。

 やってることは違うのだけれども、共通する部分はあるのかもしれない。


 これにはラナさんも感服したようで、素直に謝罪し、ルビエに敬意を表した。


「……大変失礼いたしました。大錬金術師・ルティエロ=モズクォズの末裔の名に違わぬお力の持ち主とお見受けしました。しかし、たしかなお力をお持ちなのに、なぜ斯様な辺境の地で陰伏されておられるのですか? そのお力を振るえば、名声を思いのままにできますでしょうに」

「ウヒヒ。ワシは楽しくウヒャウヒャできればそれでいいのじゃ。金ならホレ、そこで寝ているツリーピオに錬成した物を売りに行かせりゃ稼ぎ放題だからな。な、ツリーピオ?」


 ルビエが指差したほうを見ると、人形が壁に背をもたれかけて座っていた。

 人形はルビエに声をかけられると、上から引っ張りあげられているかのような不思議な立ちあがり方をした。

 まるで、見えない糸で吊りさげられているマリオネットだ。


「おヨビでショーか? ルビエサマ?」

「お客人だぞ。自己紹介しろ」

「ハイ。ワタシの名前はタンボ=ツリーピオ。ルビエサマの忠実な魔人形でス。呪いでハッピー、クヒヒヒ!」

 

 ツリーピオは自己紹介をしながら、頭をクルクル回したり、奇っ怪なダンスを踊っている。

 ……動く呪いの魔人形。

 背丈は大人の男性より高く、この部屋の中で転がっている人形たちのなかでもひと際大きい。


 全身が紫色で、ボールを間接でつなげたような体型をしている。

 頭には大量の釘が刺さっていて、カラフルな○✕△で目・鼻・口が描かれている。

 狂ったような笑顔から泣き顔まで、表情がめまぐるしく変わる様は何とも言えず不気味だ。

 こんな魔人形を家来にしているなんて、ルビエはなんて変わった人なのかしら……?


「だがまぁ、そこのナイスな乳に免じて教えてやる。『精霊原石』も『時空石』も、それだけで高い資産的価値を持つ。万一の際の安全資産として隠し持っているドワーフの家はある可能性が高い」

「! それはどこのドワーフの家なの!?」

「ウヒャヒャ。そこまでは知らん。自分たちで調べてみたらどうじゃ?」


 なるほど。オリハルコンやヒヒイロカネ製の武具さえ隠し持っているドワーフたちだ。『精霊原石』や『時空石』も隠し持っていたって、ぜんぜん不思議じゃない。

 あとはどうやって持っているドワーフを探しだして、譲ってもらえるよう交渉するかだけど……。族長さんの命がかかっていると言えば交渉の余地はあるかな?

 晶龍を100匹倒してアイテム・ドロップを期待するのよりはずっと現実的だ。


 そこで腰砕けになって倒れたままのチューパーさん。あなたの乳と犠牲は無駄ではなかったわ。ナイス。


「素材を見つけたとして、錬成してやるかどうかはワシの気分と報酬次第じゃ。まぁ、せいぜい頑張ってウヒャウヒャしてみることじゃな。ウッヒャッヒャ!」

「アナタガタの成功を祈っテ、呪ってサシアゲまショー! クヒヒヒ!」


 なんだか釈然としない気持ちになりつつも、私たちは素材を求めて、再びドワーフたちの街へと繰り出したのでした。




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