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エンシャント・クルーレ② ー『花』の章。冷徹イケメン最強騎士は実の妹である私にだけはデレデレ!? 幸せ宮廷生活に魔導女学院でほのぼの日常オホホホホ!!ー  作者: 藤村 樹
錬金術師と命の滴

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鍛冶職人シド=ウィステリア

 私たちはルビエの家を出たあと、急いで街のほうへと戻っていた。

 方向性を見つけたとはいえ、残されている時間は少ないわ。


「『精霊原石スピリット』と『時空石クロノス』を隠し持ってるお家を探すのよね!? 1週間で探しだせるかなぁ!?」

「パルレマインはとても広い街なのデス。特定の家を探しだすことは、簡単な話ではないのデス!」


 パルレマインはドワーフたちが住む街として、王国の領土とされている。

 でも、実質はドワーフたちの住む国と言ってもよいほどで、王国の認可を得た都市国家とも称すべき街であるみたい。


 ドワーフたちは自治を認められており、豊富な鉱石資源とそれを加工する技術で得た潤沢な資金力、屈強なドワーフの戦士たちによる軍事力とで、王国から見ても力のある自治都市。

 地下空間に広がる街は広大で、人口総数は王国首都をも上回るほど。

 それだけの人口から、隠し財産として『精霊原石』と『時空石』を持つ家を探しだすだなんて、容易な話ではないわ!


 まずはどこへと向かったらいいものやら……。

 片っぱしから全ての家をお邪魔していく?

 いや、そんなことをしていたらすぐに時間が足りなくなる。事情を話したとして、素直に差し出してくれるとも限らない。

 

 なにしろ、ひとつ売却すればたっぷりドワーフ7代にわたって働かずに暮らしていける代物なのだ。(しかも、ドワーフは長生き!)

 ドワーフは働くのが好きだから、それでも大切に隠し持って、お仕事してしまうのらしいけれども。


 探索魔法を使ってもいいけど、そんな貴重品は厳重に秘匿結界付きの金庫に隠されているだろうし、魔法の探索範囲をもってしてもとうていカバーできぬほどに、パルレマインは広い。


 こんなときに使うのは魔法よりも頭よ!

 とは言え、いったいどうすればよいのか皆目見当もつかない。

 頭脳派のノハナやラナさんも、さっきから考えこんでいるままだ。


 行くアテも見つからぬまま、なんとなくノハナのおじいちゃん家に戻るほうへと向かって歩いていくうちに、街のはずれへとたどり着いた。


 商店が並ぶ街の中心部とは違って、はずれのほうには鍛冶場や工房が数多く並ぶ。

 これぞ、ドワーフの街の真骨頂!

 穴からは煙がモクモクとあがり、金属をカーン、カーンと叩く音とともに、ドワーフたちの陽気な歌声が聞こえてくる。

 それを聞いて、ノハナは何かを思いだしたかのように顔をあげた。


「そうだ! ちょっと寄りたい所があるのデスが、いいデスか?」

「あっ。ノハナ、ちょっと!」


 ノハナは行き先も告げず、その小さな体を弾ませるようにして駆けだした。

 私たちも、慌ててノハナのあとを追いかける。


 ノハナが駆けこんだのは、鍛冶場のひとつ。

 他の鍛冶場と比べても、金属を叩く音が強く、鋭く、響いている。


 建物である洞穴のなかに入ったとたん、モワッとした熱気が押し寄せてきた。

 入っているだけで全身から汗が噴きだしてしまいそう!

 すぐにラナさんが魔法で空気の衣を造り、熱気を遮断してくれた。危うく脇汗ビッショリになるトコだったわ。


 ノハナが勝手知ったる顔で進んでいくと、金属をハンマーで叩いていた職人のひとりが作業をとめて、彼女に声をかけた。


 ガタイのいい、ガテン系のあんちゃん。

 熱を帯びたハンマーを肩にかけて、こちらを振りあおぐ様は、汗まみれなのに得も言われぬ爽やかさ。


「おっとお嬢さん! 危ないぜ、こんな所にいったい何の用だ……って、なんだ、ノハナか」

「シド兄ちゃん、お久しぶりなのデス!」

「おお、久しぶりだな! どうしたんだよ、ノハナ。急にこんな所にやってきて?」


 どうやら、彼はノハナと顔見知りだったらしい。


 ーー彼の名前はシド=ウィステリア。


 人間の鍛冶屋の息子だけど、ドワーフの技術に惚れこんで、幼いころから住み込みで働き、腕を磨き続けているらしい。

 その情熱とセンスは凄まじく、今では若くして王国でも指折りの鍛冶職人であるとのこと。すご~い!


 パルレマイン住む数少ない人間どうし、ノハナとは幼なじみだったんだって。

 年齢は、シドさんのほうがちょっと上みたい。ラナさんと同じくらいかな?


「おっと、お嬢さんたち。『魔鉱炉』の光を直接見るなよ? 目がイカれちまうからな?」


 ミスリル鉱石やマナ鉱石は、通常の炎の熱では溶けないので、加工することができない。

 そこで、それらの金属を加工するには魔導の火を宿す『魔鉱炉』が必要であるとのこと。

 ミスリルやマナのような魔力を秘めた鉱石は魔導の火で熱され、一流の職人に叩き込まれることで、更なる魔力を発揮できるようになるらしいわ。


「シドお兄ちゃん、教えてほしいことがあるのデス! 『精霊原石』や『時空石』を持っているドワーフがいるか、知らないデスか? 知ってたら、教えてほしいのデス!」

「『精霊原石』に『時空石』!? そりゃ大変なお宝だな! なんでそんなドエラいもんを探してるんだ?」

「それは、かくかくしかじか……」


 ノハナはシドさんに、賢者の石の素材を探している経緯について説明した。

 ドワーフの族長であるノハナのおじいちゃんが病に倒れたことは、街の重役や長老たちは知っていることだけれども、一般市民には非公開とされていることだった。


「なんと、族長がな……。だが、誰かが持っているという噂は聞いたことがないよ。とてつもない財産だから、たとえ持っていたとしても、そう簡単に他言することはないだろうな」

「はや! それじゃ、街中にお触れを出すっていうのはどう? 族長さんが危篤って言えば、提供してもらえるんじゃない?」

「提供してもらえる可能性はあるが、難しいかもな……。ドワーフは貴重な鉱石を一族の守り神として大切に継承していく風習があるからな。よほど族長に恩を感じている者たちでなけりゃ、提供はしてくれないかもしれないな」

「う~ん、それじゃ難しいわね。やらないよりはマシかもだけど……」


 シドさんも作業を止めて考えてくれたけど、なかなかよい考えは湧いてこない。

 それでもすがるようにして、ノハナはシドさんの手を取った。

 途端に、シドさんの顔は熱せられた鉄よりも真っ赤になった!


「お願い、シドお兄ちゃん! 何か、手はないのデスか!? 私、なんでもするのデス!」

「!!? ノっ、ノっ、ノハナ、おい! そんなこと言われても、分からんものは分からんし……」

「どんなことでもいいのデス! 何かできることはないデスか!?」

「そっ、そうだな……。親方に頼んで、常連さんにだけでも聞いてみてもらうよ。それと、商工会議所を当たってみたらどうだ? あそこなら、この街の売買記録が残されているから、もしかしたら最後に誰が購入したか分かるかもしれないぞ……?」

「! それデス! さすがシドお兄ちゃん、ありがとなのデス!」

「ナハハハ、それほどでもないさ!」


 ノハナにせがまれて、シドお兄さんは分かりやすいほどにデレデレである。さてはこの男、可愛い女の子に弱いな。

 ノハナは一生懸命お願いしてるだけで、自覚はないのだろうけどもさ。

 幼なじみのよしみというのもあるのでしょう、きっと。


「お~い、シド! てめぇ、いつまでサボってやがる! あんまり放っておくと、せっかくの素材が拗ねちまうぞ!!」

「あぁ、悪ぃ、親方! すぐ再開するよ!」


 どうやら、ドワーフの親方に怒られてしまったみたい。

 私たちが話しかけていたせいで仕事を中断する羽目になっていたので、ちょっと申し訳ない気持ちになる。


「悪ぃな、ノハナ。何か分かったら、あとで連絡するからさ!」

「ハイなのデス!」


 私たちはいったんシドさんと別れ、彼のアドバイスをもとに、街の中央のほうにある商工会議所へと向かった。


 商工会議所ではたくさんのドワーフたちが忙しそうに働いている。

 シドさんがいた工房のドワーフたちみたいなガテン系ではなく、眼鏡をかけてピッチリとした制服を着たインテリ系のドワーフたちだ。

 なかには魔法を得意としているドワーフもいるらしく、書類を高いところの棚にフワリと飛ばしている様子なども見受けられたわ。


 窓口に行って、この街の売買記録に関して、問い合わせをしてみる。

 受付のカウンターでは、眼鏡をかけたお年寄りのドワーフが対応してくれた。数百年生きた樹木の幹みたいに、ソバカスだらけ。

 でも、とっても優しくて賢そう。


「この街での『精霊原石』と『時空石』の売買記録について、教えていただけませんか?」

「『精霊原石』と『時空石』ですナァ。お待ちくだされ。……文字よ灯れ(ルーモス)、『精霊原石スピリット』・『時空石クロノス』」


 該当する文字があると、自動的に光る呪文みたい。

 お年寄りのドワーフはゆったりとした動作で分厚い目録を取りだすと、そのスローリーな動作からは想像もつかないスピードでパラパラパラパラ! っと本をめくり始めた。


 あっという間に1冊のチェックを終えると、またゆっくりと次の1冊を手に取り、目にも止まらぬ速度でめくり始める。ちょっと面白い。


 全ての目録に目を通し終えると、ドワーフは話し始めた。


「公式の記録としては、『精霊原石』と『時空石』の売買記録はありませんナァ」

「え? ないんですか??」

「それだけの貴重品ともなると、表の市場には出回らんのです。恐らく、富豪や有力者が、凄腕の冒険者から直接買い付ける、あるいは支援の対価として譲ってもらうかなどして入手してるものと思われますナァ」

「それじゃ、誰が持ってるかは分からないんだな……」

「お力になれず、スマンですナァ。なにしろ、どちらもドワーフの長い生のなかで生涯にも1度お目にかかれるかどうかという代物ですからナァ」


 ……結局、商工会議所では手がかりを得ることができなかった。

 いいアイデアだと思ったんだけどナァ。


 私たちはションボリ、ションボリしながら建物を出た。


「……どうする? ノハナ、ラナさん。やっぱり、街中にお触れを出してもらう? 一度、おじいちゃんの家に戻ってさ」

「そうデスね。街の重役や長老さんたちに相談してみるのデス」

「大騒ぎになってしまうだろうけれど、仕方ないわね……」


 やむを得ず、またノハナのおじいちゃんの家に戻ろうとしたところ……。

 私たちのことを呼びながら走ってくる、男の人の声が聞こえてきた。


「おーい、ノハナ!」

「あれ、シドお兄ちゃん? 仕事はもういいのデスか?」


 やってきたのは、シドさんだった。

 裸にオーバーオールで、仕事着のまま慌てて飛びでてきた感じだ。

 そんなに慌てて、いったいどうしたのかしらん?


「大ニュースだ、ノハナ! 『時空石』を持ってる人を見つけたぞ!!」

「え、ホントなのデスか!?」

「ああ。南方みなみかたの大地主であるグライラドさんだ。親方の知り合いで、うちの工房が創業のときからの常連さんなんだ。族長さんにも昔から世話になってるから、譲ってくれるってさ!」


 これを聞いてノハナは目に涙を浮かべ、ホッとしたような、とっても嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「はあああぁ……♥️ ありがとなのデス、シドお兄ちゃん!!」

「!! ちょっ、ノハナ!?」


 ノハナはシドさんの胸に飛びこみ、ギュッと抱きついた!


 ブッ!!


 思わず鼻血を噴きだしたシドさん。

 最近、なんだか鼻血を噴く人が多いわねぇ。


 ……でも、よかった。

 乗り越えなきゃいけない課題はまだまだたくさんあるけれど、ひとつ、クリアできそうな足がかりができた。

 何ひとつ進んでいないのと、1歩進めたのとじゃ、ぜんぜん違う。

 1歩進めれば、その先にも進んでいけそうな気がする。

 建物を出たときとは打って変わって、私たちは足取りも軽く、シドさんの案内に付いていった。


 ……でも、もうすでに新たな戦いのときは近づいていた。

 すぐ目前まで、魔の手は迫っていたの。

 自分たちのことを『救い主』と呼んで憚らぬ、何よりもドス黒い悪意の手が。


 ()()()は、パルレマインの街並みを俯瞰できる高台の上から街を見おろし、笑っていた。

 これから実現するであろう、地獄絵図に想像をめぐらして。


死死死死死シシシシシ。生きるってやっぱり、スバラシイことだよなァ」




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