錬金術師の家
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おじいちゃんのお家の前で待っていたチューパーさんと合流し、私たちはパルレマインの街のなかへと歩きだした。
みんなで歩きながら、あらためて街のなかを観察してみた。
魔鉱石をふんだんに使った優れた武器防具がたくさん売りに出されているのは先に述べたとおり。
お店のなかには、職人気質の気難しそうな顔をしたドワーフのおじさんが腕を組んでお客さんを待っているわ。
ひとりで自信ありげにフフン、としているのがちょっと面白い。
店先に並んでいる剣を1本、メルサが手に取った。
剣の柄や刀身に散りばめられた魔鉱石が、キラリと輝く。
「うーん。いいなぁ、コレ。カッコいいなぁ。私も1本買っちゃおうかなぁ」
「うん。メルサ、似合う似合う~!」
「ルーフェリア魔導女学院には、高等部3年から魔剣士科コースもあるのデス」
「はや! それじゃメルサちゃんも、来年から魔法剣士!?」
私も試しに1本手に取ってみたら、驚くほど軽くてビックリした。これでめちゃくちゃ切れ味が鋭いというのだからスゴい。
剣を手に取った瞬間、「ポーズ取って! こっちに視線ちょうだい!」とチューパーさんが猛烈にカメラのシャッターを切りはじめたのには参ってしまったけれど。
ミスリル鉱石、マナ鉱石といったメジャーどころの素材はもちろんのこと、アダマンタイトの防具まで揃えてある。ゴツい。
さすがにオリハルコンやヒヒイロカネ級の武具は店頭には出ていないけど、大きいお店なら1つ2つかは秘蔵しているものらしい。
お店の主人に気に入られれば、交渉次第で購入できる可能性があるとのこと。
このへんのお店探しと交渉は、武具マニアのお金持ちにはたまらない駆け引きらしい。
さらに特筆すべきはやはり、パルレマインの名産である『魔鉱石』を使った装備品ね(『魔晶石』とも呼ぶ)。
どの属性が吸収・濃縮されているかによって、性能や性質がぜんぜん違ってくるのが何よりもの特徴ね。
「このパレルマインで採掘される魔鉱石の量と品質は世界で随一さぁ。ま、品質でタメを張れるのは『塒国』って国の『桜導鉱』くらいなもんだが、この春に大量の粗悪品が出回っていたことが判明したらしい。もはや敵ナシってわけだ、ワッハッハ!」
店主のオヤジさんが、自慢げに笑った。
へ~、そんな国があるんだ。
『桜導鉱』だなんて、なんとなく元いた世界の和の雰囲気を思い出させる。
……そういえば、元いた世界のお父さんとお母さんは元気かな。
恵介と風太は大丈夫だったのかしら。
思い出したら、なんだか急にセンチな気分になってきちゃった。
仰々しい武具以外にも、ドワーフの作る製品には、さまざまな物がある。
ジュエルを惜しみなく散りばめたティアラやブレスレットなどの装身具はもちろん、可愛らしいオルゴールやベビーベッドまで。
ドワーフってホントに手先が器用だし、センスもいいわ!
じっくりお買い物を楽しみたいところだけど、今はノハナのおじいちゃんを助けるちめに、早く目的地に向かわなきゃね。
ウィンドウショッピングもほどほどに、私たちは高名な錬金術師の末裔であるという人のもとへと向かった。
万病を治すという『霊薬』。霊薬を産みだすための『調合』スキルや、賢者の石である『命の滴』。
いろいろ気になるワードが出てきたので、歩きながら、それらのことについてラナさんに尋ねてみた。
「ラナさん、そもそも霊薬って、どんなお薬なんですか? おいしいの??」
「プッ。……そうね、水銀のように金属とも液体ともつかね性状をしているとは聞いているわ。その効能は1滴口に含めば瀕死の重症を負った者を死の淵から救い、不治の病を何事もなかったかのように癒す。健康な者が飲めば、不老不死にも近い寿命を得ると言われているわ。味は……舐めたことないけど、きっとほろ苦いんじゃないかしら? ウフフ」
ずっと緊張した面持ちだったラナさんから、笑みがこぼれた。
フム。『良薬口に苦し』とはよく言ったもの。
そんな貴重なお薬をシロップと混ぜたらさすがにダメかしらね……?
「霊薬の『調合』って、とっても難しいんですよね? 教えてくれたっていうお師匠さんにお願いしちゃうことはできないんですか?」
「『調合』は、ただ薬剤を混ぜ合わせるだけのスキルではないわ。薬剤を性質転換させ、分解し、必要な成分を必要な量だけ抽出し、混ぜ合わせる……。霊薬の調合ともなれば、寸分のミスも許されぬ、緻密な作業が要求されるの」
「うわ、ムズカシそ……。それならやっぱり、お師匠さんにお手伝いをお願いしたほうがいいんじゃ……?」
「そうしたいのは山々なんだけどね。私の師は遥か遠く、手の届かぬ所へと行ってしまった。今はもう、どこにいるのかも分からないわ」
「そうだったんですね……。お師匠さんは、どんな人だったんですか?」
「薬師としての、頂点に立つ人だった。誰に対しても優しく、多くの病に苦しむ人を助けた。誰よりも尊敬できる、私の自慢の師匠だったわ」
「スゴイ! そんな素敵な人が、ラナさんのお師匠さんだったんですね」
「私は、もっともっと師の教えを受けたかったわ。でも、あの方はある日突然……」
そこで、ラナさんは口をつぐんでしまった。
思い出したくないことを思い出させてしまったのかもしれない。悪いことしちゃったかな……。
少し、話題を変えてみることにした。
「今から会おうとしてる錬金術師の末裔って人は、どんな人なんですか?」
「それも、分からないの。祖先となるルティエロ・モズクォズはかつて霊薬の原料となる賢者の石を始め、その高度な錬金技術によってさまざまなマジック・アイテムを産みだしたと言われるわ。王国の歴史上、もっと偉大な錬金術師と呼ばれてるけど……。その末裔は表舞台から姿を消して、隠れ住んでいるというわ。現代の継承者がどんな人物なのか……。誰も知らないの」
ウーン、謎多き人物というわけね。
でもきっと、高名な錬金術師なんだからダンディなオジサマに違いないわね。気難しい人だったらどうしよう。
後ろを歩くチューパーさんがまたブツブツと「サヤ=エルローズ氏は不治の病に苦しむ者を救うべく、賢者の石を求め高名な錬金術師のもとを訪れ……」と猛烈な勢いでメモを取っている。
いや、そのとおりなんだけど、文字に起こすととんでもないことになってるわね。変に話題にならないかホントに心配。
てか、見た目のハデさとは違ってめちゃ熱心に取材してるな、この人。じつはかなり真面目?
巨乳は心も豊かだから、悪い人はいないのね、きっと。ウン。
そんなこんな話をしているうちに、ドワーフが住む街の境を抜け、人気のないエリアへとたどり着いた。
あたりにはゴロゴロと転がる溶岩石と、キラキラと煌めく魔鉱石とが、静かに佇むばかり。
「ここからは魔物が出てきてもぜんぜん不思議じゃないわ。魔鉱石の光をたっぷり吸収した手強い魔物が多いから、気をつけてね」
ラナさんが注意を促したので、私たちも気を引き締める。
このあたりだとミスリル・リザードや、低位の悪魔系モンスターが現れるが多い。最悪、晶龍にまで遭遇する可能性があるらしい。
さすが地底、おっかないわ!
早く目的地にたどり着けるといいんだけれど。
「ラナさん、錬金術師の人のお家はまだですか?」
「うん。そろそろ着くはずなんだけど……。あっ、アレじゃないかしら」
岩陰に隠れるようにして、建物が見えた。
それは小振りではあったけれども、たしかに煉瓦のお城だった。
ドワーフたちが自然の洞穴に住むことを好むこの地下都市において、初めて見る人工建造物。
あたりの暗がりに紛れるように暗めの色合いの煉瓦が使われていて、吸血鬼のお城のような不気味さも醸しだしていたわ。
「煉瓦のお城……。地上から煉瓦を運びこんできたのかな?」
「いえ。恐らくアレは、錬金術で造りだしたものね」
「え、そうなの!?」
「高度な錬金術師は、材料となる元素から物体を錬成することが可能なのデス!」
ノハナが補足してくれた。
目的となる錬金術師の家が見えてきたことで、俄然張りきってるみたい!
ノハナの気合いに圧されたのか、魔物に遭遇することもなく、無事にお城の前までたどり着くことができた。
「こんな地底に城なんてスゴイな~! でも、どうやって入ればいいんだコレ?」
メルサが城を見上げてつぶやいた。
たしかに、城の入り口は固く閉ざされていて、とてもじゃないけど開けられそうにない。
はて、どうしたもんかと思い悩んでいたら、そんな私たちを見透かしていたかのように、入り口の扉が勝手に開いた。
扉の戸は重く引きずるような音を立てながら、私たちを招き入れるように内側へと開いた。
「これは……中に入れってことよね?」
私たちは導かれるままに、城のなかへと足を踏み入れる。
まずはホールがあって、人気はないけど、一見して普通の城だ。
いくつか扉があるけど、ひとつだけわずかに開いて、明かりが漏れでている部屋があった。
そこにおったか、という感じで私はソロ~リと部屋の中を覗きこんだ。
「あのぉ~、お邪魔しますぅ~。誰かいらっしゃいますかぁ? ……って、え!」
「何だ、コレは!?」
私たちの前に広がっていた、その部屋の光景とは……。




