魔鉱都市『パルレマイン』
◇
駅から出て、ノハナが地下都市への入り口へと案内してくれた。
「このトロッコに乗って、パレルマインへと向かうのデス」
ノハナが連れていってくれたのはトロッコ・ステーション。
レールの上を無人のトロッコが一定の間隔をあけてガタゴトと走っている。
遊園地の乗り物みたいというか、スキー場のロープウェイみたいというか。
魔法の力で、自動的に運行しているみたい。
トロッコには自由に乗ってよいらしく、適当なのをひとつ選んで乗りこんだ。
6人乗りなので、1個のトロッコに全員で乗りこむことができた。
トロッコのレールの先は、山に開いた大きなトンネルの中に潜りこんでいて、その先は見えない。
ガップリと開いた魔獣の口のようで、なんだかオドロオドロシイ。胸はドキドキ、気分はアドベンチャー!
ちなみに、どんなに山頂から濁々とマグマが噴きだしてても、地形や気流の関係で、ステーションからトンネルの間にはマグマや有毒ガスは流れこんでこないのだとか。
あたりにただようのは温泉地のような硫黄の香り。トロッコにガタゴト揺さぶられながら、魔獣の口に飲みこまれに行く。
「けっこう急な下り坂もあるから、しっかりつかまったほうがいいのデス!」
「へぇ~、トロッコで街に入るだなんて面白い……って、ヴオッ!!」
思わず男の人みたいな野太い声が出てしまった。
トロッコは暗いトンネルの中に入った途端、いきなりトップスピードにギアをあげ、有無を言わさず坂の頂点まで駆けのぼり、そしてそのまま急降下へと転じた。
え、センター・オブ・ジ・ア○ス!?
徐々に坂を登って気分を盛りあげるみたいな心の準備はいっさいナシ!
最初からクライマックス!!
しかも、下り坂は延々と、無限に続いていく。左右にブンブン振られ、内臓が揺さぶられる!!
てか、安全バーとか何もないんですケド!?
「アハハハ。この、トロッコで坂を下るのが楽しいのデス!」
「キャー! キャー!」
「ギエエエエ!!」
「ノハナちゃん、この下り坂はいつまで続くの~!?」
「まだまだ続くのデスよ? パルレマインは地下鉱脈のなかでも、一番深い所にあるのデス」
「しょんなあああぁ……!!」
無邪気に笑顔を振りまくノハナとは裏腹に、私たちは叫んだ。叫び続けた。ひたすらに叫びまくった。
お腹の底から絞りだす私たちの悲鳴は正面から顔に受ける猛烈な風の音と、火花をあげて車輪とレールが擦れる音とで、かき消されてしまったけれど。
「誰か止めてえええぇ……」
トロッコは私たちの懇願を聞き入れる素振りすら見せず、私たちを暗闇の深淵へと運び去っていった。
………………
…………
……
無限とも思える下り坂を下り終え、ようやくトロッコは静かになった。
今はのんびり緩やかな坂をゴトゴトと下っている。
私たちは全員(ノハナ以外)グロッキー状態で、グッタリと座席にもたれかかっていた。
「ここから先は急な下り坂はないのデス。もうすぐ、街に着くのデス」
「はぁ~、ようやく終わった……」
「こんなキツイの初めてだな……」
「はや……。叫びすぎて声がカスカス……」
「オエエエエ……」
あ、チューパーさんがトロッコの縁にしがみついて吐いてる。
美人が人前で嘔吐だなんて、気の毒ねぇ。
それにしても、ホントにキツかった。
真っ暗闇のなかをブンブン揺さぶられたから、スペ○ス・マウンテンの要素もあったと思う。
最終的には恐怖というより、めちゃくちゃ酔った。
……でもまぁ、気分が落ち着いてきたら、あとにはスッキリした感覚が残った。
あれだけ思いきり叫びまくる機会も、なかなかないものね。
今は、ゴトゴト揺さぶられながら緩やかな坂を下るのも心地よく感じるわ。
あと、ノハナにこんなヤンチャな側面があるとは知らなかった。
勝手知ったる道とはいえ、あれだけ激しい乗り物を楽しそうに乗り、今も上機嫌に鼻唄を歌ってる。
真面目で堅実な優等生タイプだとばかり思ってたのにね。油断ならないわ!
真っ暗なトンネルのなかを延々と走ってきたけれど、先のほうが明るくなってきた。
どうやらトンネルを抜けて、開けた空間に出るみたい。
暗闇を抜けて、その先に広がっていたのは……まるで別世界だった。
大っきな山が何個も入りそうなほどに広い空間。
空間は複雑な形状をしていて、鍾乳洞のように自然に形成された洞穴であることが分かる。
そして、地面のあちこちから、魔導力の結晶ーー魔鉱石が、雑草のように生え出でている。
色とりどりに輝く魔鉱石は、見るも美しい。魔鉱石自体が淡く光を放っているので、照明がなくとも洞穴のなかは明るいみたい。
天井はどれくらい高いのかなぁ、お空みたいだなぁ、と思って上を見あげていたら、鼻頭にポツン、と水滴が落ちてきた。
「ん? 何コレ、生温かい……」
「それは魔導力が溶けだしたモノなのデス。地脈に乗って集まった精霊魔導力が、地熱で濃縮されて、溶けだすことで、この世界でも最大規模の魔鉱窟が造りだされているのデス!」
「へぇ~。それで、地面のあちこちから魔鉱石の結晶が生えてるってワケか」
「はや! 大自然の神秘ってカンジね♪」
そして、トロッコが進むにつれて、どこからか陽気な歌声が聞こえてきた。
ハイホー♪ ハイホー♪
俺たちゃ働くのが好きなのさ
ココ掘れソコ掘れ
宝がザクザク夢あふれだす♪
あ! よ~く見ると、あちこちで魔鉱石をザクザク掘りだしてる人たちがいる。
でも、なんだか背丈が小さいような?
大地の妖精?
いや。ま、まさか……。
「ノハナ、あの魔鉱石を掘りだしてる人たちは??」
「あれは、ドワーフなのデス!」
「おぉ~!!」
私が感動してるのを、メルサが不思議そうに見てる。
いけないいけない私ったら。落ち着かないと。
でもでも、ドワーフって、ファンタジーで有名なあのドワーフよね?
実物を見れて、感動。
地獄の絶叫アドベンチャーから、宝石の国ファンタジーへと早変わりだわ!
思ってたより体は小さいけど、ずんぐりムックリ、期待どおりのお姿。
やっぱり、鉱山と言えばドワーフよね!
「パルレマインはドワーフの街ってワケね! ……って、ここはノハナのおじいさんが住んでる街じゃ?」
「私のおじいさんはドワーフだから、あたりまえなのデス」
「えっ! ってことは……」
「私はドワーフのクォーターなのデス。あれ? 言ってなかったデスっけ?」
「「初耳です!!」」
これには全員で総ツッコミ。
今までずっといっしょにいたのに、ぜんぜん誰も知らなかった。
どおりでノハナは小っちゃいワケだ。
でも、やっぱりドワーフはヒゲモジャだったり、顔が濃くて赤ら顔だったりする。
小作りで可愛らしいノハナの顔つきとは似ても似つかず、ドワーフの血が混ざっているとは夢にも思わなかったのよ。
「ドワーフはこのパレルマインで魔鉱石を掘りだしたり、加工したりして生活を営んでいるのデス」
「へぇ~、そうなのか。でも、魔鉱石はそこらへんにいっぱい生えてるし、勝手に取って持っていこうとする輩はいっぱいいそうだけどな。私も1個持ってっちゃおうかな」
「許可を得ていない者が密堀しようとすると、ドワーフの戦士たちがあっという間に集まって、処刑されるのデス。ドワーフの戦士は、とっても強いのデス!」
「はや! 怖~。メルサちゃん、密堀はやめとこ!」
「あ、ああ。そうだな!」
そんなこんな話をしているあいだにもトロッコはガタゴト進み、ついに街の入り口にあたるステーションへとたどり着いた。
トロッコを降りて、街のなかへと入っていく。
天然の地下洞穴を利用して作られた街。
ドワーフたちは洞穴をそのまま自分の住み家にしたり、お店にしたりしているみたい。
道にはたくさんのドワーフたちが行き交い、鼻歌を歌ったり、陽気に挨拶を交わしたりしていて、賑やかだ。
なかには人間も混じっていて、ドワーフのお店に買い物をしに訪れたお客さんたちみたい。
ドワーフが採集し、加工して造られた魔鉱石の武具は非常に性能がよく、冒険者たちから人気がある。
一般人が購入するのには、非常に高価だけどね!
武具以外にも、可愛らしい小物など、さまざまなマジック・グッズがたくさん売られている。
あとでゆっくりとお店を見てまわりたいわ。
でもまずは、ノハナのおじいちゃんのお家へ向かわなきゃ。私たちはノハナの案内に従って、街のなかを歩いていく。
ノハナのおじいちゃん家は街の中心部、1番大きな洞穴のなかにあるとのこと。
「え、ってことは、ノハナのおじいちゃん家が、この街で1番大きなお家ってこと?」
「私のおじいちゃんはドワーフの族長なのデス。ドワーフのなかで、1番エライ人なのデス!」
「へぇ~、それはすごいな」
「はや! さすがノハナちゃんね」
「サヤ=エルローズ氏はドワーフの族長の孫とかねてより深いご親交があり……」
後ろに連いてきているチューパーさんが猛烈な勢いで魔導速記ペンを走らせているのがコワイ。
さっきまでトロッコに酔ってグロッキーだったのにね。大げさに書かれてなきゃいいけど……。
それにしても、ノハナのおじいちゃんが、まさかドワーフの族長さんだったなんてね。
さすが学年イチの優等生、只者ではなかったというワケね!
街の中心部まで歩き、あともう少しでおじいちゃんの家にたどり着くというところで……。
私たちのほうに駆けてきた人がいた。
「ノハナちゃん!」
「あ、ラナお姉ちゃん!」
ノハナもその人物を認めると、うれしそうに駆け寄っていった。
ノハナの知り合いらしき、その人物。彼女が私たちにもたらした、知らせとは……。




