ノハナの里帰り
◇
週末のお休みには、みんなでリコのお家を訪れた。
テスト終了後の打ち上げをするために集まる約束をしてて、今回は持ち回りでリコのお家に集まることになったのだ。
「はや! いらっしゃいませ、ようこそ我が家へ♪」
玄関のドアノッカーを叩くと、いつものとおり元気いっぱいなリコが出迎えてくれた。
リコもルーフェリア魔導女学院の生徒なので、当然お嬢さま!
お家ももちろん大きくて立派だわ。
チョコレート色の煉瓦でできた、立派なお家。建物の角とか、ところどころがアクセントとしてマーブルチョコのような明るい原色で縁どられていて、お菓子のお家のような不思議な可愛らしさがある。
実はリコの家系は貴族ではなくて、有名なチョコレート工房の家元なの!
貴族でなくとも、成功した商家の娘で魔法の素質があれば、ルーフェリア魔導女学院に入学することがあるわ。
だから、リコも立派なお嬢さまというわけ。
広いリビングに入ると、テーブルの上にはたくさんのチョコレート菓子が準備されていた。
定番の大ヒット商品から、話題の最新お菓子まで……。工房で作られている多種多彩なチョコレート菓子が置いてある!
「みんな、好きなの食べてね♪」
「ええぇ~。リコ、ホントにいいの?」
「おいおいサヤ、がっつくなよ!」
「そういうメルサちゃんも、誰より先に手を伸ばしてるのデス!」
テーブルの中央には、魔力でてっぺんから延々と溶けたチョコが湧きつづけるチョコレート・タワー。
リコの甘いお誘いにつられ、チョコレート・タワーに群がるあたしらはカブトムシ。
私は定番お菓子のチョコレート玉を指でつまみあげ、包み紙をほどき、口のなかにひと粒放りこんだ。
……あぁ、このチョコレート玉。
濃厚なのにミルクが優しい。まるで仔牛に乳を吸われる母牛の温もりが伝わってくるかのようだわ。
それに、この生チョコ。
口に含んだ瞬間に柔らかくほどけ、口のなかに甘みが融けひろがっていく。それでいてしっかりと重さと存在感があって、たしかな満足を得られる。
これぞまさしくオ・ト・ナの贅沢♥️
ホント、チョコレートってなんて素晴らしいの。カカオが産んだ、奇跡の結晶……。
私たちがチョコを楽しみながらワイワイ騒いでいると、リビングの入り口の扉から、ヒョイと顔を覗かせた人がいた。
おヒゲがダンディな、スラリと背の高いオジサマ。リコのお父さんだ。
「リコのお友だちだね? いつも娘が世話になってます。どうぞ僕の工房で作ったチョコレートを、味わっていってくださいね」
「「はい、ありがとうございます!」」
リコパパは優しくほほえみながら手を振ると、部屋には入らずにそのまま立ち去っていった。
私たちも思わずニッコリほほえみ手を振りかえし、彼を見送った。
「はぁ~。リコのパパ、やっぱりステキねぇ。ダンディなイケオジで、うらやましいわ!」
「しかも、世界的に有名なショコラティエなんだろ? 毎日こんな美味しいチョコ食べられるなんて、うらやましいよな」
「アハハ……。チョコなんて毎日食べてたら、飽きるけどね」
「? リコちゃんは、あまりお父さんのことが好きじゃないのデスか?」
うつむくリコ。
ノハナの問いかけに対して、彼女は首をフルフルと横に振った。
「ううん。ただ、私はスイーツ作りがあまり得意じゃないから。チョコレートも、もちろんダメ。お父さんは、私にあまり期待していないの」
たしかに、リコはスイーツ作りよりも、スパイシーな料理が得意な印象だ。
リコパパのチョコレート工房は、魔法で生みだした擬似生命である調理器具たちが作業をしていることで有名だ。
その楽しげな作業風景が、しばしば雑誌や新聞で取りあげられているわ。
そのスキル・才能は間違いなくリコの『マジカル☆キッチン』に受け継がれているのだけれど、職人の世界ともなると、子が親の技術をそのまま再現できるとは限らない。
リコのスキルは私たちにとってはとてもステキなものに見えるけど、お父さんからは違った見え方をしているのかもね。
「リコ……」
「はや! 大丈夫だよ、サヤちゃん。お父さんは優しいし、私もあまり気にしてないから。それよりせっかくみんな遊びにきたんだから、楽しい話をしよ!」
リコがそう言うので、私たちは話題を変えることとした。
リコは少し無理をして、明るく振るまっているようにも見えたけど……。彼女のお家で深掘りするような話ではないように思えた。
ひとしきり楽しい話題で盛りあがったのち、今度はノハナのお家に遊びに行こうということになった。いつ行こうかという話になったところで……。
「ちょうど、今度の連休におじいちゃんのお家に遊びに行こうという話になっていたのデス。よかったらみんなも、いっしょに行くのデス!」
「え、いいの??」
「おじいちゃんは賑やかなのが好きだし、若い人とお話しするのも大好きなのデス。ぜひ、いっしょに来てほしいのデス」
そう言って屈託なく笑うノハナの笑顔に、私たちはみんな、キュ~ンとなってしまった。ホント、可憐に野原に咲くお花のようだ。
私たちもついついノハナの提案にうなずいてしまう。
こうして今度の連休、泊まりがけでノハナのおじいちゃんの家にお訪ねすることとなったのでした。
◇◇◇
連休当日、セント・ウィンザー駅の駅前広場に待ち合わせしていたのはいつものメンバー。
私・サヤ=エルローズに、メルサとリコ。言い出しっぺのノハナに、そして……。
「「この人、誰??」」
「いやあの、これは……」
「はじめまして! 私はプレティ=チューパー、サヤさんの密着取材のため、同行させていただくわ。よろしくね♥️」
「「密着取材??」」
堂々と自己紹介をするチューパーさん。
あぁ、そんなに胸を張って。頼りないシャツのボタンが弾けて、たわわな乳がこぼれ落ちたらどうするの。
道行く男性らの視線が、彼女の胸元へと集まっているのを感じる。
かくかく然々と、今回の取材が実行(強行)されることとなった経緯をみんなに説明した。
最近活躍したせいか取材の要請がきたと。自分で言っててとても恥ずかしい。
なにもお友だちのおじいちゃんの家をお訪ねするのに同行しなくてもいいじゃない……。
「国民のみんなは、お休みにあなたがどう過ごしているのかを知りたがってるわ。お友だちの祖父の家をお訪ねするなんて、ニュー・ヒロインの飾らない姿として最適だわ! さぁ張りきって取材よ、ヒュイゴー♪」
「あはは……」
誰より浮かれてるチューパーさんに、私たちは置いてけぼり気味だ。
ノハナに謝ったけど、彼女はぜんぜん気にしない様子だったのが救いだった。
ちなみに、ノハナのご両親は前の便で先に出発されたとのこと。
テュミルトに行ったとき以来、再び魔導列車に乗り込みガタゴト揺られること数時間。
今度は南の山脈の方面だ。テュミルトよりもずっと遠い。う~ん、里帰りってカンジ。
魔法のトランプ(自動シャッフル機能付き。絵柄が勝手にしゃべるので、いかに黙らせるかが勝負のポイント)などしながらノンビリ列車に揺られ、たどり着いたその先にあったのは……。
ズバドゴーンッ!!!
ゴゴゴ……
ズビドゥバババ……
「「えっ……」」
駅から出た目の前に広がるのは黒い火山地帯。
そびえ立つ巨大な活火山の頂上からは、今まさしく熱く燃えたぎるマグマと大量の有毒ガスが噴きだしたところだ。
え、何コレ。
滅びの国? モルドール??
可愛らしいノハナのおじいちゃんのお家だがあるところだから、空気の澄んだ高原のお花畑とか想像してた。
てか、こんな所に人住めんの?
黒煙うずまく魔界への入り口を背景に、めいっぱい背伸びして、ようこそポーズを取るノハナが愛おしかった。
「ようこそ皆さん、私のおじいちゃんの家はこちらなのデス!!」
ーー王国の背骨と称される巨大山脈・ガルバドロス山脈。
その山脈の地下奥深くには、魔鉱が煌めく地下都市が広がっているという。
魔鉱都市・『パルレマイン』!
ここが、私たちの新たな冒険の舞台となるのであった!!
今さらながら『転スラ』にハマってしまい、書くのが遅れがちになっております。
来週投稿できてなかったら申し訳ないです……。




