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夢見る蛇の都 その43

 「ねぇ、シュナンはどうして死んだの?」


曇天の下、ラピータ宮殿の門前に広がる石造りのスペースで、シュナン少年の石像に寄り添ってうずくまるラーナ・メデューサが発したその声が、石畳に反響し周りの空気を幽かに震わせます。

一方、変わり果てた姿のシュナン少年の傍らに座るメデューサを威圧する様に、その背後に屹立する巨大ロボット魔神兵の内部の操縦席で、メデューサの発した声を聞いた魔術師レプカールは、シュナンの石像と共に眼下にうずくまる異形の少女の姿を、モニターを通じて高所から見下ろしながら、大火傷を負った顔に困惑した表情を浮かべます。


「何を言っている、メデューサ?お前が石化の魔眼で、シュナンを石像に変えたのではないか?彼を殺したのはお前だ。ラーナ・メデューサ」


しかし、シュナン少年の石像に寄り添うラーナ・メデューサは、巨大ロボの音声装置を通じて背後から聞こえるレプカールのその声が耳に届いても、魔神兵が立っている後ろの方を振り向く事はなく、相変わらず石化した少年の姿をじっと見つめながら、石床の上に座り込んでいます。


「違うわー。わたしが言ってるのは、そういう意味じゃない。シュナンは、何も悪い事はしていない。ただ、みんなを助けようと、一生懸命に頑張っていただけー。なのに何故、こんな風に死ななければならないの?」


それを聞いた、彼女の背後に屹立する魔神兵に搭乗する魔術師レプカールは、その巨大な機械人形の頭部内に設置された操縦席に、大火傷を負っている身体をうずめながら、吐き捨てるような口調で、眼下の蛇娘に向かって答えます。


「フンッ、なんだそんな事か。分からないのなら教えてやろう。坊やだから・・・もといっ、愚かだからだ。理想だの夢だの、甘い事を言っているから、こんな目に遭うのだ。師である、わしを見習って、冷酷非情に生きていれば良かったものをー。まったく、馬鹿な奴だ」


魔神兵の音声装置を通じて聞こえるくぐもった声が、その巨体に背を向けながら変わり果てた姿のシュナンに寄り添う、石床に座るラーナ・メデューサの耳に冷たく響きます。

するとメデューサは何を思ったか、シュナン少年の仰向けになった石像の傍らで、ずっとうずくまらせていたその身体をムクリと起こすと、今度は石床の上にユラリと立ち上がりました。

そして、足元の石床に横たわっているシュナン少年の石像を悲しげに見ると、相変わらず後ろを振り返る事はなく、背後に屹立する魔神兵の巨体に対し、完全に背を向けた状態で声を発します。


「確かに、シュナンは甘い人だったわー」


石像となって床上に横たわる、シュナン少年の側に立ち、少年の変わり果てた姿を見下ろすメデューサ。

一方、両者の姿をすぐ近くで寝転びながら見つめる、レダとボボンゴの二人は、メデューサの様子が明らかに尋常では無い事に気付き、思わず石畳の上でブルっと、その拘束された身体を震わせます。

そして、そんな彼らを少し離れた場所から見下ろす、石造りの床に屹立する魔神兵の巨体を内部から操る、魔術師レプカールもまた、シュナン少年の石像に寄り添って立つメデューサの、こちら側に向けているその後ろ姿に、何かとてつもなく異様で危険な、予兆のようなものを感じ取っていました。


「シュナンは甘い人だった。そして、何より優しい人だった。たとえ、どんなに憎い相手でも、私情で人を傷付けたりは、絶対にしなかったー。でも、わたしは違うー」


メデューサは、背後にそびえ立つ魔神兵の巨体に完全に背を向けており、その魔導ロボットの内部の操縦席に座るレプカールからは、モニターを通じて眼下の床上に立つ彼女の後ろ姿が、かろうじて確認できるだけであり、蛇の前髪の下で蛇娘が、どんな表情を浮かべているのかは判りません。

しかし、魔神兵に搭乗した魔術師レプカールは、眼下の石床の上で、シュナン少年の石像の側に立つメデューサが見せるその後ろ姿を、モニターを通じて確認し、彼女が放つ危険な妖気を感じて、背中にぞくりと悪寒を走らせます。

また、メデューサのすぐ側で、拘束された身体を石床に横たえているレダとボボンゴにも、石像と化したシュナンの傍に立つ彼女の、蛇の髪の毛に覆われた顔の奥の表情は見えておらず、普段とは全く違う仲間のその様子に二人は困惑します。

そんな風に、その身を拘束されて床上に伏せるレダとボボンゴの二人が、困惑の表情を浮かべながら見守る中、ラピータ宮殿の門前で直線上に居並んだメデューサと、彼女の背後にそびえ立つ魔神兵の間には、一期触発の、ひりついた空気が張り詰めていました。

そして、ついにー。


「わたしは、そんなに甘くないー。シュナンを苦しめ侮辱した、あなたなんかに、一片の情けだってかけはしないー」


メデューサはそう言うと、背後にそびえ立つ魔神兵の巨体に背を向けたまま、首だけをゆっくりと後ろに振り向かせました。

そして、肩越しに振り向かせたその頭に生えた蛇の前髪を、ほとんど直角に立ち上がらせると、露わになった魔眼で背後に立つ魔神兵の巨体を、憎しみをこめて凝視しました。

メデューサのその魔眼からは、血のような赤い液体が止めどもなく流れており、その瞳自体も、元々赤かった瞳孔とその周りの白目の区別がつかないほど赤一色に染まっていました。

蛇の髪の毛は一本残らず逆立ち、その下の顔は凄まじい形相で血の涙を流しており、大きく見開かれた魔眼は真っ赤な光で不気味に輝いています。

その異形の姿は、まさしく(いにしえ)から伝わる神話上の大怪物「メデューサ」そのものでした。

そんな仲間である彼女の恐ろしげな姿を、すぐ近くの床上に横たわる身体を拘束されたレダとボボンゴは、まともに見る事もかなわず、その身を石畳に伏せながらブルブルと震わせています。

しかし、メデューサに睨みつけられている当の本人である、魔神兵に乗り込んだ魔術師レプカールはといえば、眼下の床上に立つ彼女がずっとそむけていたその顔を肩越しに後ろの方に振り向け、魔眼を露わにして自分が搭乗する魔神兵の巨体を睨み上げているのを、操縦席のモニターを通じて確認すると、まるで強がりのような笑みを口元に浮かべます。


「フンッ、お前の石化の魔眼は、直接見なければ効果はない事は確認済みだ。この魔神兵の内部にいる限り、お前にいくら睨みつけられようと痛くも痒くも無いわー」


眼下の床上で、こちらに背中を向けて立ち、首だけを肩越しに後ろに振り向けて、自分が搭乗する魔神兵を睨み上げているラーナ・メデューサの姿と、彼女の足元に横たわる石像と化したシュナン少年の亡骸を、魔神兵内部の操縦席からそこについたモニターを通じて同時に見下ろし、その火傷をした顔を勝ち誇らせる魔術師レプカール。


「フフフ、いくら睨みつけても無駄だ、メデューサ。今からお前を捕らえて、メデューサ族の宝物をすべて我が手中に収めてくれるわー。待っていろ、メデューサ」


魔術師レプカールはそううそぶくと、自身が内部から操縦する魔神兵を起動してその巨体を、少し離れた場所でシュナン少年の横臥した石像に寄り添って立つ、肩越しにこちらをにらみ上げているラーナ・メデューサのいる地点まで移動させ、彼女の身柄を確保しようとします。

しかしー。


「う、動かんっ!これはどういう事だ!?」


石造りの床の上で背を向けながら立ち、肩越しにこちらを睨み上げているメデューサの方へと、自身の操縦する、その巨大ロボットを動かそうとしたレプカールですが、なぜか、彼が手に握る操縦桿が、ピクリとも動かない事に気付きます。

これでは、魔神兵を動かす事は出来ません。

そして、更に彼は、もっと驚くべき現象に気付きました。

なんと、彼の操縦桿を握る手が徐々に石化ー。

つまり、メデューサの足元に横たわるシュナン少年と同じく、石像のような状態へと、段々と変わりつつあったのです。

メデューサの石化能力は、その目を直接肉眼で見なければ発動しない事は確認済みであり、魔神兵の内部からモニターを通じて外の様子を確認している自分は、絶対安全なはずでした。

それなのに何故ー。


「こ、これは一体!?メデューサの魔眼は、直接見なければ無効化されるはず。現に言の葉の杖を使って、メデューサの姿をずっと見ていたシュナンが、石になる事はなかった。だから大丈夫なはずー。何故だー」


魔神兵の操縦席で、徐々に石化する自分の身体を見つめ、パニックを起こすレプカール。

彼の身体は、いつのまにか手だけではなく、両足や背中の一部も石化しており、その範囲は、全身に広がりつつありました。


「うわあぁーっ!!か、身体が動かんっ!!ピクリともー。おおおぉぉーっ!!!!」


するとその時、そんなパニックを起こす彼の耳に、外部から何やら、聞き覚えのある声が届きます。

それは魔神兵の巨体を、眼下の床上から悪鬼のような形相で睨み上げている、メデューサの足元に横たわる、シュナン少年の石像の傍らで、真っ二つに折れて石畳の上に転がっている、レプカールの分身である、師匠の杖が発した言葉でした。


「愚か者めー。メデューサはその気が無くとも、漏れ出すわずかな魔力で、見たものを石に変える力を持っているのだ。だから、普段の彼女は、自分のその力を必死で抑えていた。そのメデューサが、相手を本気で石化させようとしたら一体どうなるのかー。たとえ、どんな対策を取ろうと、無駄なのが解らんのかー」


魔神兵に乗ったレプカールは、自分が操縦する巨大ロボットを、眼下の床上から肩越しにらみつけるメデューサの足元で、物言わぬシュナン少年の側に添い寝する様に転がっている、その折れた杖の発する言葉を聞いて、すでに石化が始まっている顔を悔しげに歪めます。


「そうか・・・。フフフッ、なるほど、そういう事かー」


そんなレプカールに対して、彼の分身である二つに折れた魔法の杖は、その先端の円板についている大きな目を光らせると、眼下の床上から哀れむような口調で声を発します。


「レプカールよ。お前はシュナンたちと一緒に旅に出るべきだったのだ。わしを代理に立てるのではなく、自分自身でー。そうすればメデューサが、自分の力を必死に抑えている事にも、すぐに気付いただろう。わしを通じて、安全な宮廷で、シュナンたちの旅を監視するのではなく、自分の足で大地を踏みしめて歩き、彼らと旅の苦楽を共にすべきだったのだー」


眼下の床上から聞こえる、師匠の杖のその声を、魔神兵の内部で聞く魔術師レプカールは、石になりかけた顔に、引きつった皮肉な笑みを思わず浮かべます。

そんな彼の耳に、まるで別れの言葉のように、師匠の杖の言葉が届きます。


「そうすれば、お前もきっと変われたはずー。わしの様にー。だって、お前とわしは、元々は全く同じ心を持っているのだからー」


その言葉を聞いた魔術師レプカールは、魔神兵の内部の操縦席に半ば石化した身体をうずめながら、口元に更に引きつった笑みを浮かべました。


「そうかー。さすがはメデューサ。永遠に語り継がれる伝説の怪物よー。では、さらばだ」


次の瞬間に、魔術師レプカールの身体は、完全に石像と化していました。

石化したその顔に、彼らしい皮肉っぽい笑みを浮かべたままでー。

彼の、その最期の言葉を、魔神兵についている、音声装置を通じて聞いたメデューサは、かのロボの巨体を、眼下の石床の上から肩越しに更に激しく睨み上げ、己の念力を、自分の背後にそびえ立つ相手に、容赦無くぶつけます。

すると、石像と化した魔術師が搭乗する、巨大ロボット兵器、魔神兵は、自身もまた、メデューサの魔眼の力により、その身体に無数のひび割れを生じさせると、まるで砂で作った城のように、ボロボロと崩れ去って行きます。

メデューサは、肩越しに睨み上げていた魔神兵の身体が、ボロボロと崩れだしたのを確認すると、まるで、興味を無くした様にプイッと前を向き、自分の後ろで崩れゆく、その巨体に対して、再び完全に背を向けました。

それから、足元の床上に視線を落とすと、そこに横たわるシュナン少年の石像を、蛇の髪越しに、もう一度悲しげに見下ろします。

そんな彼女の背後で、ラピータ宮殿の正面に広がる石造りのスペースの上に屹立していた、魔神兵のボロボロになった巨体は、搭乗者である魔術師レプカールの、石化した亡骸と共に、砂塵となって崩れ去り、間もなく一陣の風が吹くと、それはたちまち、跡形もなく空中へと四散してしまいました。


[続く]


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