夢見る蛇の都 その42
曇天の下、高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前に広がる、石造りのスペースの上で、石像となったシュナン少年の亡骸にしがみつき、慟哭の声を上げる、ラーナ・メデューサ。
彼女の魔眼からは、赤い血液のような液体が、止めどもなく流れ続けています。
床上に仰向けの状態で横たわったまま、石像となったシュナン少年と、彼にしがみつきながら傍らに膝をついているメデューサの側には、真っ二つに折れた師匠の杖が石畳の上に転がっており、その先端の円板についた大きな目を悲しげに光らせています。
また少し距離を置いた石造りの床上には、旅の仲間であるレダとボボンゴが、いまだに身体を拘束されたまま寝転がっており、事態のあまりの成り行きに茫然としながらも、首を苦しげに捻りながら、石像と化したシュナン少年の方に、懸命にその顔を向けています。
そしてー。
そんな沈痛な雰囲気の中、シュナン少年の石像にしがみつきながら石床の上にうずくまるラーナ・メデューサに対して、背後から近づく黒く大きな影がありました。
それは、シュナンの師匠である魔術師レプカールが、内部から操縦する、巨大な魔導ロボット「魔神兵」でした。
シュナンの放った究極魔法によって、全身を打ち砕かれた魔神兵ですが、頭部内の操縦席に座ったレプカールは、大火傷を負いながらも、まだかろうじて生きていました。
そして、まるで打ち首にされたみたいに石床に転がっていた、魔神兵のその頭部からは、信じられない事に徐々に身体が再生し、今では破壊される前の姿を完全に取り戻していました。
復活した魔神兵は、ラピータ宮殿を支える土台スペースの外縁に近い場所で、かつては自身を構成していた白煙を上げるバラバラになった各部位と共に、しばしの間その身を横たえていました。
けれど、やがて完全に破壊される前の姿を取り戻すと、身体のサイズの割には細長い手足を動かして、石造りの床上に、ムックリと、その再生させたばかりの巨体を立ち上がらせます。
そして、宮殿前に広がる石畳で出来た、だだっ広いスペースに、再びその巨体を屹立させた魔神兵は、自分が立つ場所からは少し距離を置いた、ラピータ宮殿の門前に近い場所で、石像になったシュナン少年に寄り添いながら石床にうずくまる、メデューサの方へと、ゆっくりと歩み寄って行きます。
ズシンズシンと石畳の上を歩き、ラピータ宮殿を支える高い土台の外縁部から、宮殿本体が建つその中心部へと、徐々にその円筒形の巨体を移動させる、魔術師レプカール操る「魔神兵」。
かの魔法使いの目標はもちろん、その進行方向の先に広がる、ラピータ宮殿の門前に近い石畳で出来た広場のようなスペースの上で、シュナン少年の仰向けになった石像の傍らに寄り添い力無くうずくまる、薄幸の少女ラーナ・メデューサでした。
魔術師レプカールは、シュナン少年を失って意気消沈するメデューサを捕らえて、彼女のみが出入り出来るメデューサ族の秘宝殿、「夢幻宮」の内部に眠っている財宝を全て手中に収め、あわよくばその力で、世界を我が物とするつもりでした。
そして状況さえ許せば、主人であるペルセウス王をも蹴落として、自分が世界の王となる大それた野望さえも、彼の胸の中には密かに燃え上がっていたのです。
致命傷に近い大火傷を負いながらも、魔術師レプカールは、そんな風に自らの野望にもまた、その身をこがしており、魔神兵の頭部内で眼をギラつかせつつ、操縦席に鎮座していました。
彼の操縦する巨大なロボット魔神兵は、ラピータ宮殿を足元から支える高い土台の上に広がる石造りのスペースを、外縁部から中央付近に向かって、その細長い両足でギシギシと歩き、宮殿の門前に近い場所で、石像のシュナン少年と共に床上にうずくまる、メデューサの方へと徐々に近づいて行きます。
やがて、徐々に彼我の距離をつめた魔神兵は、宮殿の門前に近い石造りのスペースの上で、石像と化したシュナン少年に寄り添って座る、こちらに背を向けたメデューサに、自身の巨大な影が届くまで急接近します。
そして、床上に座り込んだ彼女の背後でピタリと足を止めて静止すると、そこに広がる石畳の上で、まるで威圧するみたいに、その巨体を屹立させます。
眼下の床上にいる蛇娘たちの様子を、頭部モニターを通じて、冷たく見下ろしながらー。
石化したシュナン少年に寄り添うメデューサは、レプカールが内部に乗る魔神兵に背中を見せながら、石造りの床上にうずくまっており、かの魔術師の操縦する巨大なロボットが、背後から接近して、すぐ後ろの地点にピタリと立ち止まっても、振り返る事もなく、ずっと、目の前に横たわる物言わぬ石像にしがみついています。
一方で、そこから少し離れた石床の上で、身体を拘束されて寝転ぶレダとボボンゴは、復活した魔神兵が巨体を揺らしながら、段々とこちらの方に近づき、更に狙いを定めたかのように、メデューサの背後に立ち止まったのに気づくと、ほとんど身動き取れないその身体を懸命によじり、石畳に伏せた顔を何とか浮かせると、見上げるような魔導ロボットの巨躯を、下から睨みつけています。
しかし、魔神兵に背後に立たれた格好の当のメデューサは、自分を捕らえようとする危険で巨大な敵がすぐ後ろにいるにも関わらず、それに一切関心を示す事なく、相変わらず、仰向けに横になった姿で石像となったシュナン少年に寄り添いながら、石造りの床上にがっくりと座り込んでいます。
そんな風に自分に背を向けている、メデューサのその姿を、魔神兵に搭乗する魔術師レプカールは、少し離れた場所に屹立する、件の巨大ロボットの内部の操縦席から、モニターを通じて、冷たく見下ろしていました。
「シュナンめー。死んだか・・・。馬鹿なやつだ・・・」
魔神兵に搭乗するレプカールは、操縦席についたモニターに映った、石像と化したシュナン少年の姿を見て、一瞬その目に憐れみの光を浮かべます。
しかしすぐに冷徹な表情に戻ると、再び操縦席のモニターに視線を移し、そこに映っている眼下の床にうずくまる、シュナン少年の石像に寄り添うメデューサの姿に目をやります。
それから彼は、魔神兵についた音声装置を使い、眼下の床上で、シュナン少年の石像に寄り添いうずくまる、メデューサの背中に向かって、高所から呼びかけます。
「メデューサ、悪い事は言わん。わしに従え。最終兵器「ギガス」を含めたメデューサ族の秘宝を、すべて我々に提供すればお前の命は保証しよう。ペルセウス陛下に上手く取り入れば、宮廷内で、それ相応の地位を得る事も可能だろう。そうすれば、今までお前を迫害した人間たちを見返し、復讐する事も出来るー」
宮殿前に広がる石造りのスペースの上で、シュナン少年の石像に寄り添い座り込んでいるメデューサは、すぐ背後に屹立する巨大な魔神兵の発する、そんなくぐもった声が耳元に届いても、相変わらず後ろを振り返る事もなく、膝元に横たわる石と化した少年の姿にじっと見入っていました。
しかしやがてメデューサは、その視線を、床上に座した自分の膝元に横たわる、シュナン少年の石像に固定したまま、後ろを振り返りもせずにボソリと声を出すと、背後に屹立する巨大な魔神兵に乗る魔術師レプカールに向かって、ある一つの問いを発します。
その声は、普段のメデューサの声とは、似ても似つかない低く暗い声で、それを聞いた、彼女の側で寝転がっているレダとボボンゴの二人は、思わず我が耳を疑います。
「ねぇ、シュナンはどうして死んだの?」
[続く]




