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夢見る蛇の都 その35

 瀕死のシュナン少年の横臥した身体に寄り添う、ラーナ・メデューサが発する、悲痛な叫び声が、高い土台に支えられた、ラピータ宮殿の門前に響き渡ります。


「なんで、あたし達をこんなに苦しめる、人間たちを、助けなきゃいけないのっ!?冗談じゃないわっ!!あんな連中、勝手に滅びればいいのよっ!!!」


「黄金の種子」の詰まった麻袋を、胸元でかき抱きながら、眼下の床に、その身を横たえる、シュナン少年に向かって、泣き叫ぶラーナ・メデューサ。

メデューサは、死を間近にしたシュナン少年に対して、自分がこんな風に感情をあらわにするのは、間違っている事だと言うことは、もちろん判っていました。

しかし、シュナンの、ぼろぼろになった悲惨な姿を目の当たりにして、彼をこんな風になるまで追い詰めた、人間たちに対する、怒りと憎しみを収める事が、どうしても出来ませんでした。


「人間たちは、両親を無くした、身体の不自由なあなたを、あんなに酷く虐めたじゃない!?抵抗も出来ない、幼いあなたを!!その上、散々に利用したあげくに、今度は、とうとう命までー。許せないーっ!!絶対にっ!!!」


「黄金の種子」が詰まった麻袋を胸にかき抱きながら、石床の上に座り、膝元に横たわるシュナン少年に向かって、泣き叫ぶ彼女の、蛇の前髪に隠された赤い瞳からは、涙が止めどなく流れ続けています。

そんなメデューサの傍で、傷ついた身体をぐったりと横たえるシュナン少年は、石畳に乗せた端正な顔を、泣き叫ぶ蛇娘の方に向けながら、じっとその言葉に耳を傾けています。

レダとボボンゴも少し離れた場所で石床の上に、拘束された身体を横たえながら身をよじり、悲しげな顔をメデューサの方に向けて、彼女の泣き叫ぶ姿を見ています。

「黄金の種子」を、きつく胸元にかき抱きながら、自分やシュナンを苦しめてきた人間たちに対する、怒りの言葉を吐き続ける、ラーナ・メデューサ。

ペルセウス王の大軍勢に包囲されながらも、奇妙に静まり返ったラピータ宮殿の周辺に、メデューサが放つ怒声が、空気を切り裂いて響き渡ります。


「人間は、愚かで、自分勝手な生き物だわっ!!あんな奴らに地球を任せたら、他の動植物を、自分の都合で滅ぼして、いつか、この星自体も、駄目にするに決まってる!!神々が四度も、人間共を滅ぼしている理由が分かるわっ!何回も神罰を受けてるのに、あいつらが、その悪い心を、全く改めないからよっ!!」


傍に座って泣き叫ぶ、メデューサの膝元で、石畳にぐったりと、その身体を横たえるシュナン少年は、そんな憎悪を撒き散らす彼女の姿を、下の方から悲しげに見上げていましたが、やがて、ゆっくり息を吐くと、静かな声で言いました。


「確かに、人間は愚かで、身勝手な生き物だ。そしてそれは、永久に変わる事は、無いだろう。なぜなら、それが、人間の本質であり、最も大切な部分なのだからー」


「えっ?」


自分の膝元にぐったりと横たわる、シュナン少年の発した、奇妙な言葉を聞いたラーナ・メデューサは、その言葉の意味が気になったのか、涙で潤んだ真紅の魔眼を、蛇の髪の毛の下で、一瞬、大きく見開きます。

そして、あらためて石畳の上に座りなおすと、彼の声に、じっと耳を傾けます。


「人間の事を、愚かだったり自分勝手だとー。つまり悪だと感じるのは、その行為を外部から、大局的に見ているからだ。でも実は、その行為自体は、自己の幸福を追求するという、人間の本質的な部分から、生じているものなんだ。だから、それを頭ごなしに否定する事は、人間の存在それ自体を否定する事だ。そして、人間から、その本質的な部分を無くしたり、切り離したりする事は、絶対に出来ない。何故なら、それは、命そのものなのだからー」


メデューサの膝元で、石床の上に横臥するシュナン少年は、そこまで言うと、無理がたたったのか、再び咳き込みます。


「ゴホッ!!」


横臥する彼の口元から、再び、鮮血が飛び散ります。

それを見て、彼の側に寄り添い、石床に膝をつくメデューサや、少し離れた場所で、光線に拘束されたまま、その身を石畳で出来たスペースの上に横たえる、レダとボボンゴも、一斉に悲鳴を上げます。


「シュナンッ!!」


「シュナン、もう、喋っちゃ駄目っ!!」


「シュナン、無理するなっ!!」


しかし、彼らに見守られながら、まるで生贄の獣の様にぐったりと、石床の上に身体を仰向けにしたシュナン少年は、顔だけを、側に寄り添って座るメデューサの方に向けながら、静かな口調で話し続けます。


「いや、大切な事だから聞いてくれ。僕の遺言だと、思ってー。特に、メデューサは。君はなんと言っても、人間たちを率いる、彼らの王なのだからー」


シュナン少年は、宮殿前に広がる石造りの床の上に、力無く横たわりながらも、必死に声を振り絞り、傍に座るメデューサに、何とか、自分の気持ちと考えを伝えようとしていました。


「これから何百年、何千年たとうとも、人間の本性は変わらない。いつまでたっても、その愚かさと自己中心的な部分は、無くならないだろう。何故なら、それは、人間の生命の根源的な部分であり、核心なのだからー。たとえ時代や状況によって、一見変わったように見えても、人間の元々の性質自体は変わらない。変わるはずがないー」


シュナン少年は、そこでいったん言葉を切ると、メデューサの方に向けていた顔を、上に向けます。

ラピータ宮殿前に広がる、石畳みで出来たスペースの上で、メデューサに寄り添われながら、仰向けに横たわるシュナン少年の目に、宮殿の上空を厚く覆う、灰色の雲海が映ります。

そしてシュナン少年は、石畳に後頭部をつけて空を見上げたまま、一度息を吐くと、傍に寄り添って座るメデューサに向かって、少し語気を強めた口調で言いました。


「人間は変わらないー。いつまでたっても、その本質は、愚かで、自分勝手なままだろう」


シュナン少年が、側に寄り添って座るラーナ・メデューサに、懸命に訴えかける、か細い声けれど真摯な声が、周囲の敷き詰められた石畳で出来た空間に、乾いた音を立てて反響します。


「だから、彼らの住む、社会の方を変えなければー」


[続く]


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