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夢見る蛇の都 その34

 魔神兵を倒したシュナン少年は、ペルセウス軍の弓攻撃によって空中から墜落し、ラピータ宮殿前の石畳で出来たスペースの上に、轟音を立てて激突しました。

彼の胸には、矢が深々と突き刺さっており、そんな瀕死の状態の彼を見て、ラピータ宮殿内に隠れていたメデューサは、危険もかえりみず、思わずそこから飛び出してしまいます。

安全な宮殿から外に飛び出したメデューサは、宮殿前の石畳の上に大の字になっている、シュナン少年の元に駆け寄り、彼のぐったりとした身体の近くにひざまずくと、ぴったりと側に寄り添います。

またそんなシュナンとメデューサの側には、いまだに拘束光線に身体を縛られて自由がきかない、レダとボボンゴも寝転がっており、懸命に身体をよじって、シュナン少年の様子を確認しようとしています。

一方、ラピータ宮殿を支える高い土台を、それがそびえ立つ堀の中で、周りにひしめく兵士たちと共に包囲するペルセウス王は、宮殿前に落下したシュナン少年の命が、今まさに尽きようとしているのを察すると、冷徹な声で部下たちに、指示を飛ばします。


「兵士たちに、突撃の準備をさせろ。シュナンドリックが死んだら、すぐに兵たちに、目の前に立つ高い土台についた階段を昇らせ、その上に建つラピータ宮殿へ向かわせるのだ。そして、ラピータ宮殿の前にいるメデューサを、拘束せよ。いいか、あくまで、シュナンドリックが、死んだタイミングを見計らって、捕まえるのだ。たとえ虫の息でも、シュナンが生きていれば、あの小娘は、死に物狂いで抵抗するに決まっているからな」


ラピータ宮殿が建つ高い土台を、自軍でぐるりと取り巻きながら、その周囲に広がる深い堀の底に配下の兵士と共に立つ、馬上のペルセウス王は、シュナン少年の死が近いことを察すると、この機に乗じて兵を動かし、メデューサをその手中に収めようとしていました。

そして、そんなペルセウス王が部下たちと取り囲む、堀の中に屹立する高い土台の上では、そこに建つラピータ宮殿前に広がる、石畳で出来たスペースの上に倒れ伏した、瀕死のシュナン少年と、彼の側で寄り添うようにひざまずく、ラーナ・メデューサの姿がありました。

シュナン少年は、高い土台に支えられたラピータ宮殿前の、まるで広い舞台のような石造りのスペースの上で、大の字になって横たわっており、その胸にはまだ、深々と矢が突き刺さっていました。

その傍の石床には、隠れていたラピータ宮殿内から飛び出して来たラーナ・メデューサが、倒れ伏した彼の身体に、寄り添うようにひざまずいています。

また少し離れた場所にはレダとボボンゴが、いまだに、身体を光線で拘束されたままの状態で寝転がっており、懸命に石床の上で首をねじ曲げて、シュナン少年の様子を確認しようとしていました。

石床の上で大の字となり、仰向けにした身体を苦しげに横たえるシュナン少年は、そんな仲間たちの様子を寝転んだままの状態で、チラリと横目で見ると、最後の力を振り絞って、自分の胸に深々と突き刺さった矢を、力任せに引き抜きます。


ブシュッ!!!


石床の上に寝転んだ、彼の胸の傷と、まだあどけなさを残す顔の口元から、噴水のように、真っ赤な血が噴き出します。


「うぐっ!!」


苦痛のあまりか、思わずうめき声を上げる、シュナン少年。

彼が利き腕で、自分の胸から無理やり引き抜いた矢が、その手を離れ、カランと音を立てて、石床の上に転がります。


「シュナンッ!!!」


シュナン少年の大の字になった、身体の側にひざまずくラーナ・メデューサは、寝転んだまま吐血している、彼のその姿を見て、口を両手で押さえながら、悲鳴を上げます。


「あぁーっ!!シュナンーッ!!!」


「ううーっ!!シュ、シュナンーッ!!」


近くに寝転がっている、光線で身体を拘束されたレダとボボンゴも、自由にならないその身を、石床の上でジタバタさせながら、悲鳴を上げます。

一方、当のシュナン少年は、石床の上に大の字になって寝たまま、視線だけを動かして、自分の為に泣き叫ぶ仲間たちの様子を、その青く澄んだ目で、静かに見つめていました。

そんなシュナン少年ですが、やがて傍らに座るメデューサの方に視線を戻し、途切れがちな声で、彼女に聞きました。


「メデューサ、師匠は・・・魔神兵はどうなっている?」


大の字となって、石畳上に力無く横たわるシュナンの傍にひざまずく、ラーナ・メデューサは、少年の言葉を受けて、自分たちがいるラピータ宮殿前の広い石造りのスペースで、いまだに白煙を立ち上らせている魔神兵の、バラバラになった破片の方に目をやります。

するとー。

砕けた陶器の破片みたいになっている、魔神兵のバラバラになった身体の中で、頭部だけが、首をはねられた様に石造りの床上に転がっており、なんとその頭から、徐々にではありますが、少しずつ身体が再生しつつあるのが見て取れました。

大の字になって石床に横たわる、シュナン少年の傍で、寄り添う様にひざまずくラーナ・メデューサは、シュウシュウと音を立てて再生しつつある、魔神兵のその姿を、蛇の前髪の隙間から、驚愕の目で見つめます。


「生きてる・・・。あいつまだ生きてるわ・・・」


石床の上に、大の字になって横たわるシュナン少年は、自分の側でひざまずいている、ラーナ・メデューサのその言葉を聞くと、顔を空に向けたまま、落胆した表情を浮かべます。

そして横目で、自分の側に転がっている、真っ二つになった師匠の杖を見ると、悲しげな口調でつぶやきます。


「そうか・・・。なまじ、目が見えるようになった為に視覚に頼りすぎて、目標を、わずかに外してしまった。師匠の杖を信じて目をつむり、視覚を遮断しながら、戦うべきだった。今まで、ずっと、そうして来たようにー」


空に顔を向けながら、大の字になって石床の上に横たわるシュナン少年は、苦しげに息を吐くと、自分の傍にひざまずくメデューサに向かって、辛そうな声で謝ります。


「恐らく師匠は生きてるー。レダやボボンゴの拘束が解かれていないのが、その証拠だ。魔神兵はじきに、元通りに復活するだろう。そして僕には、もう戦う力が残っていない。僕の負けだー。すまないー。結局、君を守る事は出来なかった」


シュナン少年のその言葉を聞いた、彼の側にひざまずくラーナ・メデューサは、蛇の髪で覆われた頭を激しく振ると、石床の上で仰向けになっている少年の身体に、覆いかぶさるように我が身を寄せました。

そして、蛇の前髪の隙間から、血で汚れたシュナン少年の顔をじっと見下ろすと、涙まじりの声で言いました。


「いいえ、シュナン。あなたはわたしの為に、懸命に戦ってくれたわ。今度は、わたしの番だわ。必ず、あなたを守って見せる。だから、お願い、死なないでー。あなたは、わたしにとって、まさしく比翼の人。あなたがいなければ、わたしは生きてはいけないわー」


しかし、メデューサの声を聞いた、石床の上に横たわるシュナン少年は、悲しげに首を振ってから、寝たままの状態で声を発します。


「もちろん、君が本気になれば、師匠やペルセウス王に、負けたりはしない事はわかっていたよ。でも、なるべくなら、僕の手で、君を守りたかった。君の心をー。君に、人殺しをさせた・・・くっ、うぅーゴホッ!!」


その瞬間、シュナン少年の、上向きになった顔の口から、咳と共に、再び血が噴き出しました。

飛び散った血が、石床の上に横たわる彼の、貴族風の服や、周りに敷きつめられた石畳の表面を、点々と赤く染めます。


「シュナンーッ!!」


石床に横たわる彼の身体に、更に身を寄せて、泣き叫ぶメデューサ。


「シュナン!!シュナン!!いやぁーっ!!!」


「シュナン、しっかり、しろーっ!!!」


少し離れた場所で倒れているレダとボボンゴも、拘束された身体を、石畳の上でジタバタさせながら、シュナン少年がいる方に向かって首をよじり、大声で泣き叫びます。

しかし、そんな泣き叫ぶ仲間たちとは対照的に、彼らに周りを囲まれたシュナン少年は、ラピータ宮殿前に広がる、石造りの床の上に静かに横たわっており、咳が一応収まると、自分の傍に寄り添うメデューサの方に、血で汚れた顔を振り向け、か細い声で彼女に聞きました。


「メデューサ、デイスに渡された「黄金の種子」を、持っているよね。僕に、よく見せてくれないか?」


石造りの地面に仰向けになって横たわる、シュナン少年の隣でひざまずき、ぐったりとした彼の身体に、へばりつくように寄り添っていたメデューサは、少年のその言葉を聞くと身を起こし、ワンピース風の自分の服のポケットから、両手で持てるくらいの大きさの、もっさりとした麻袋を取り出します。

そして、地に伏せるシュナン少年の傍に、あらためて座り直すと、石畳に頭を半分乗せたまま、ぐったりとした表情でこちらを見上げる、石床の上に横たわる、少年の顔に向けて、両手で持ったその麻袋を差し出します。


「これが「黄金の種子」よ。あなたが、ずっとずっと捜し求めていたー。メデューサ王の後胤である、このわたしが、ちゃんと保証するわ。もちろん、これは、あなたの物よ。ずっと探していた宝物が、見つかったのよ。だからお願い。元気を出してー」


シュナン少年の生きる気力を、少しでも保とうと、手にした麻袋を、祈るような気持ちで、地に伏した彼の眼前に差し出す、メデューサ。

石床の上に、仰向けの状態で横たわるシュナン少年は、傍に座っているメデューサが目の前に差し出した、その一見変哲もない麻袋を、視力を取り戻したばかりの、青い瞳でじっと見つめます。

彼が、生涯をかけて捜し求めて来た、人々を飢餓の苦しみと恐怖から永遠に救い、平和な世界をもたらすという、伝説の作物の種子がいっぱいに詰まった、その麻袋をー。

石造りの床に仰向けになって横たわる、瀕死のシュナンは、側に座っているラーナ・メデューサが目の前に差し出した、そのたくさんの種子が詰まった麻袋を、しばらくの間、注視していました。

しかしやがて意を決したように、視線を移動させると、今度は、その麻袋を両手に持っているラーナ・メデューサの方へと、その目の焦点を合わせます。

石造りの床に伏したシュナン少年は、傍に座る「黄金の種子」の麻袋を持つメデューサの、蛇の髪で隠された顔を、真剣な眼差しで下から見つめると、懇願するような口調で言いました。


「君に、頼みたい事があるんだー。どうか引き受けて欲しい」


石畳の上に大の字となり、仰向けに横たわる彼は、何か胸に秘するものがあるのか、瀕死の状態で地に伏しながらも、傍に座るラーナ・メデューサを真剣な表情で見上げ、彼女に何らかの、大切な願い事をしようとしています。

その言葉に、ラーナ・メデューサは即座に反応して、「黄金の種子」の麻袋を両手で胸に抱え込みながら、前屈みになると、食いつくような口調で答えます。


「何っ!?シュナン!頼みたい事って!?何でも、言って!!わたし、何でも、聞くわっ!!」


「黄金の種子」の詰まった麻袋を、胸にかき抱きながら、涙声で叫ぶメデューサ。

倒れ伏したシュナン少年の、側に座るメデューサの、蛇の前髪で隠された、真紅の魔眼からは、先ほどから涙がどんどんと溢れており、彼女の頬を、とめどなく濡らしていました。

しかしー。

傷つき倒れたシュナン少年の口から、その後に発せられた、メデューサに対する、彼の頼み事というのは、蛇娘にとっては、とても意外なものであり、その内容は、とうてい許し難い、信じられないものでした。

そうー。

シュナン少年を愛する彼女にとってはー。

果たして、彼が頼もうとしている願いとは、一体、何なのかー。

石造りの床上に伏した、シュナン少年が発した、か細い声が空気を伝わって、彼の側に寄り添うように座る、ラーナ・メデューサの耳にまで届きます。


「メデューサ、僕は、もう駄目だ。魔法力を使い果たした上に、肉体に、致命傷を受けてしまった。もうすぐ、確実に死ぬだろう。だから、お願いだー。僕の代わりに「黄金の種子」を、人間たちの元に、何とか届けてくれ。もちろん、僕が、昔いた村にもー」


途切れがちな彼の、その声が、メデューサの耳に届くと、彼女の蛇の前髪で隠された顔から、サッと血の気が引きます。


「ーっ!!!」


そして、その瞬間、石造りの床の上に倒れ伏したシュナン少年の姿を、蛇の前髪の隙間から涙を流しながら見つめる、メデューサの真紅の瞳に、大切な人の命を失う事に対する悲しみと恐れとは別の、もう一つの感情の光が加わります。

それは、自分の大切なシュナン少年を、瀕死の状態にまで追い込み、今までもさんざんに利用し、苦しめ続けてきた人間たちに対する、怒りと憎悪、そして彼らを含む人類社会全体への、不信と絶望の気持ちでした。


「冗談じゃないわ!!なんで、あんな連中を助けなきゃいけないの!?あなたをー。わたしの、大事なシュナンを、こんなひどい目に遭わせた人たちをー。人間なんて・・・あんな愚かで自分勝手な生き物、さっさと滅びちゃえばいいのよっ!!」


曇天の下、宮殿前に広がる、まるで舞台のような石造りのスペースの上に横たわる、シュナン少年の傍に寄り添いながら座る、ラーナ・メデューサが涙まじりに発する怒りの声が、周りの空気を切り裂くように、ラピータ宮殿の門前に響きます

メデューサやシュナンがその門前にいる、ラピータ宮殿の周辺は、そこに数多くの人間がいるにも関わらず、何故か、不思議な静寂に包まれていました。

宮殿を支える高い土台の周りに広がる堀の中にひしめく、ペルセウス軍の兵士たちも、指揮官である馬上のペルセウス王と共に、無言で堀の底の石造りの地面に居並び、自分たちが足元から包囲する、高い土台の上に立つラピータ宮殿を、一斉に見上げていました。

まるで、天からの審判を、待っているかのようにー。


[続く]


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