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夢見る蛇の都 その33

 バゴォーンーッ!!!


ラピータ宮殿の周辺に響き渡る、耳をつんざく轟音と共に、魔神兵の巨体は、まるで割れた陶器のようにバラバラに砕けます。

シュナン少年がはるか頭上から放った、究極魔法「バルス」が、眼下のラピータ宮殿前に立つ魔神兵の巨体を、その凄まじい威力で粉砕したのです。

ラピータ宮殿のはるか上空にその身体を浮かせ、宮殿の高い屋根を見下ろす、シュナン少年の勝利は、もはや確定かと思われました。

しかし、その直後、彼の身を悲劇が襲います。

彼が、眼下の魔神兵に向かって「バルス」を放った直後に、その更に下方の、高い土台に支えられたラピータ宮殿を取り巻く、深い堀の中から、無数の矢が放たれ、上空に浮かぶシュナン少年の身体を、一斉に襲ったのです。

それは、はるかな高所に建つ、ラピータ宮殿を足元から支える高い土台を、その周囲に広がる深い堀の中で、そこにひしめく部下たちと共に包囲する、馬上の人ペルセウス王が発した、指示によるものでした。

深い堀の底から上を見上げ、高い土台のてっぺんに建つラピータ宮殿の前で展開する激しい戦いを、部下たちと共に注視していたペルセウス王は、シュナン少年の計略をいち早く察すると、周りにいる兵たちに、一斉に弓を構えさせました。

そして老練な戦略眼を持つ彼は、ラピータ宮殿の上空に高々と舞い上がったシュナン少年が、そこから必殺魔法を放とうとしているのを見るや、その身体に矢を放って空から撃ち落とす為に、周りにいる兵士たちに斉射の指示を出したのです。


「シュナンドリックは、魔神兵の直上の空中にいるぞっ!!皆の者っ!一斉に、空に向かって、矢を放てーっ!!めくら撃ちでかまわんっ!次々と放つのだーっ!!」


馬上のペルセウス王のかけ声と共に、ラピータ宮殿を取り囲む広くて深い堀の中から上空へ向けて、無数の矢が一斉に放たれました。

まるで飛来する鳥の群れのように、天を覆ったその無数の矢が、「バルス」を撃った後もラピータ宮殿の上空に留まる、宙に浮いたシュナン少年の身体を襲います。

シュナン少年は宙に浮きながら、眼下のラピータ宮殿の前で白煙を上げる、バラバラに砕け散った魔神兵の残骸を、何故かその端正な顔を曇らせながら見下ろしており、自分を襲う無数の矢の存在には、ギリギリまで気づいていませんでした。

空に浮く彼に向かって飛来する無数の矢は、その多くが1キール以上の射程距離を持つ、長弓によって放たれていました。

けれどシュナン少年が遥かな高空にいたため、その大半は彼の足元にも届かず、Uターンする様に、地上に力無く落ちていきました。

しかしそれでも軽く100本以上もの矢が、シュナン少年が浮いている高所にまで届き、空中で棒立ちになっている、彼の肉体を襲いました。

ラピータ宮殿の空高くに浮遊するシュナン少年は、自分に向かって数多くの矢が飛来するのにようやく気づくと、魔法の力で自分の周りの空間に空気の壁を作って、それを防ごうとします。

シュナン少年が宙空で展開した、その魔法防御によって、彼に向かって飛来した数多くの矢は、ほとんどが弾き飛ばされ、地上に落下していきます。

しかしー。

「バルス」によって、魔法力の大半を使い果たしていたシュナン少年が、空中で張った防御の壁には、いつものような密度は無く、矢の中の一本が、それをすり抜けると、シュナン少年の胸に深々と突き刺さります。


「ぐわあぁぁーっ!!!」


空中で矢を胸に受けて、悲鳴を上げる、シュナン少年。

彼の胸に深々と突き刺さった一本の矢は、少年の心臓を刺し貫き、その肉体に致命傷を与えていました。


「シュナンッ!!!」


彼が持つ師匠の杖も、少年に握りしめられながら、その手の中で、悲痛な声を上げます。

そして、その師匠の杖を握りしめたまま、空中で浮いていたシュナン少年の身体は、くるりと反転すると、今度は地上に向かって、急速に落下して行きます。

まるで、猟師に鉄砲で撃ち落とされた、巨大な鳥の様にー。

そして、空中でひっくり返った彼の身体は、そのまま、直下のラピータ宮殿前に広がる、石造りのスペースに向かって自然落下すると、磨かれた石畳の上に、叩きつけられる様に激突しました。


ガシィーン!!!


鈍い音と共に、ラピータ宮殿前の石畳で出来たスペースの上に落下した、シュナン少年の、まだ成長途中のきゃしゃな身体は、石の地面に衝突したショックで骨が折れたのか、手足がありえない方向に曲がっています。


「いやあぁーっ!!シュナンーッ!!!」


「シュ、シュナンーッ!!!」


ラピータ宮殿の前に広がる石造りのスペースの上で、魔神兵の放った光線に拘束されて横たわっているレダとボボンゴは、シュナン少年が自分たちのすぐ近くの石畳の地面に落下し、音を立てて衝突したのを目撃すると、身体を寝転ばせたまま、そろって悲鳴を上げます。


「シュナン、しっかりしてーっ!!!」


「シュナン、し、死ぬ、なーっ!!!」


空中から、ラピータ宮殿の前に激突するみたいに落下したシュナン少年は、息も絶え絶えの状態で、石畳の地面の上に、大の字となって寝ており、仰向けなったその身体の胸には、一本の矢が深々と刺さっています。

シュナン少年が持っていた師匠の杖は、その手を離れ、大の字になって石床の上に横たわる、少年の身体の側に、真っ二つに折れた状態で転がっています。

誰がどう見ても、ラピータ宮殿前に広がる石造りのスペースの上で仰向けになっている、か細い息を吐く件の少年が大ダメージを受け、絶命間近の危険な状態である事は明らかでした。

そんな彼の側で、身体を拘束されたまま寝転んでいる、レダとボボンゴは、すぐ近くに大の字になって倒れている、瀕死の少年の姿を目の当たりにして、縛られた身体をジタバタさせながら、悲鳴混じりの声を上げ続けています。

そしてもう一人ー。

ラピータ宮殿の一階部分にあたる、多柱に支えられた吹き抜けの大広間の中に隠れ、そこから戦いの行方を見守っていたラーナ・メデューサも、シュナンが空から落下したと見るや、隠れていた柱の陰から脱兎の勢いで、宮殿の外に飛び出します。

大声で、シュナンの名を叫びながらー。


「シュナーンッ!!!」


メデューサは危険もかえりみず、ラピータ宮殿の一階部分から飛び出すと、宮殿前に広がる石造りのスペースを突っ切るように走り抜け、そこに大の字になって横たわっている、シュナン少年に向かって、駆け寄ります。

一方、ラピータ宮殿を取り巻く、深い堀の中にひしめくペルセウス軍の兵士たちは、自軍が放った矢が、魔神兵を倒したばかりのシュナン少年に当たり、宙に浮かんでいた彼が、地上に落下した、その瞬間には、一斉に歓声を上げました。

しかしその後は、何故か申し合わせたように押し黙り、はるかな高所に建つ、ラピータ宮殿の前に広がる石畳で出来たスペースを、突っ切るように走るメデューサの姿を、堀の底から肩を並べて見上げています。

また彼らを率いるペルセウス王も、ラピータ宮殿の前でまだくすぶり続けている、魔神兵の残骸の横をすり抜けながら、その近くで倒れているシュナン少年に駆け寄るため、石畳の上をひた走るメデューサを注視し、彼女の姿を堀の底から見上げています。

それは、もしかしたら、今から起こる決定的な出来事が、今後の人類の歴史を方向づける分岐点になる事を、彼らが無意識のうちに、感じていたからかも知れません。


「シュナーンッ!!!」


衆人環視の中、ラピータ宮殿の前に、大の字となって倒れ伏したシュナン少年に向かって、懸命に駆け寄る、メデューサ。

やがてメデューサは、シュナン少年が大の字になって寝ている場所まで到達すると、その場で崩れ落ちるように、膝をつきました。

宮殿前の石造りのスペースの上で、大の字になっているシュナン少年は、石畳に仰向けになって寝ている自分の傍に、メデューサがひざまずいたのに気づくと、苦しい息の中、懸命に顔を彼女の方に向けると、か細い声で彼女に告げました。

彼女に対する、惜別の言葉をー。


「メ、メデューサ、僕はもう駄目だー。もうすぐ死ぬだろう。ごめん、君との約束は、どうやら、守れそうにない。本当にすまないー」


大魔女マンスリーがメデューサに予言した、シュナン少年の最期の刻が、まもなく、やって来ようとしていました。


[続く]


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