夢見る蛇の都 その22
魔術師レプカールの操縦する魔神兵は、ラピータ宮殿を支える高い土台についた、長い階段を登りきり、ついにその土台のてっぺん部分に建てられている、ラピータ宮殿の正面前にまで、たどり着きました。
そしてそこには、視力の回復したシュナン少年を始めとした旅の仲間たちが、ズラリと居並んで、待ち構えていました。
宮殿を支える高い土台の上で対峙する、シュナン一行と、その目の前にそびえ立つ、魔術師レプカールが内部から操縦する、巨大な魔動ロボット「魔神兵」。
ラピータ宮殿の建つ、高い土台のてっぺんで向かい合う両者の姿を、そのはるか下の、宮殿の周りに広がる深い堀の中で、包囲陣を敷く、ペルセウス王率いる軍勢が、恐れと好奇心の入りじまった目で、見上げています。
さて、高い土台の上に建つ、ラピータ宮殿の前で向かい合う、シュナンたちとレプカールが搭乗する魔神兵ですが、久々に直接顔を合わせた師弟の間では、上と下から放たれた視線が、空中で交差し、激しくぶつかります。
ラピータ宮殿の本体を足元で支える、高い土台の上に細い二本脚で立ち、眼下の宮殿前にいる、仲間たちに囲まれた弟子の姿を、魔神兵の操縦席の中から、内部モニターで確認する、魔術師レプカール。
彼の弟子に向かって放った言葉は、ロボットの巨体に外付けされた音声装置を通じて、ラピータ宮殿を支える高い土台の周辺に響き渡り、宮殿前で杖を構えて立つ、シュナン少年の耳にも届きます。
「フフフ、シュナンよ。魔神兵のモニターを、通してとはいえ、お前の素顔を見るのは、久しぶりだな。昔から、可愛らしい顔立ちだったが、今ではナルシスばりの、美少年ではないか。目隠しを、ずっと付けていなければ、宮殿の年増女どもが、放っては置かなかっただろうな」
そんな風に、ふざけた口調で、弟子に呼びかけたレプカールですが、更に彼は、ロボットの音声装置を通じて、シュナン少年に自分に従うよう、ある提案をして来ました。
「なぁ、シュナンよ。悪い事は言わん。今からでも、わしとペルセウス陛下に、おとなしく従うのだ。メデューサと「黄金の種子」を、こちらに引き渡せ。陛下には、わしから取りなしてやろう。王は、ああ見えても、心の広いお方だ。必ずや、お前を、許して下さるだろう」
しかし、宮殿を支える高い土台の上で、その魔神兵と向き合うシュナン少年は、杖を強く片手で握りしめながら、見えるようになったばかりの双眼で、師匠の乗る、ロボットの巨体を睨みつけます。
「いえ、あなた方が、僕の両親を殺した事を知った以上、おとなしく、従うわけにはいきません。それにあなた方はメデューサを使って、「夢幻宮」に保管された、メデューサ族の超兵器を手に入れるつもりだ。それで他の国々を滅ぼして、世界を自分たちの、手中に収めるためにー。だが、それではメデューサが、悪魔の手先になってしまう。そんな事が、許せるはずがありません」
シュナン少年は、声の調子を少し落とすと、悲しげな表情で、巨大なロボットに乗る師匠に、訴えかけます。
「あなたこそ、ペルセウス王の軍勢と共に、この場を去って下さい。いくら、実の両親の仇とはいえー。長い間、親代わりだった、あなたと、戦いたくはありません」
シュナンのその言葉を聞いたレプカールは、魔神兵の操縦席で、深いため息をつきます。
そしてモニター越しに、眼下に立つ弟子の姿を確認しながら、彼に向けて音声装置を使い、警告を発します。
「まったく、頑固な奴だ。だが、この魔神兵の力を見ても、同じ事が言えるかな?」
レプカールはそう言うと、操縦桿やスイッチを動かして、魔神兵を稼働させました。
シュナン少年は、目の前にそびえ立つ魔神兵が、機械音を立てて、動き始めたのを見ると、思わず身構えて、杖を強く握ります。
シュナンの背後に隠れる、メデューサを始めとする他の旅の仲間たちも、魔神兵の挙動を警戒して、その身をすくませます。
その瞬間、大きな円筒形の身体を前傾姿勢にした、魔神兵の三角帽子をかむった頭部から、凄まじい輝きの白熱光が、発射されました。
あまりにまばゆい、その光に、シュナンと旅の仲間たちは、目がくらんで一歩も動くことも出来ず、その場に立ち尽くします。
まばゆいその光は、ラピータ宮殿の門前に立つシュナン一行の頭上を一瞬で通過すると、宮殿の屋根をごっそりと吹き飛ばした後で、パロ・メデューサの周囲を取り囲む、山々が連なる場所にまで到達し、山頂の一部を消失させました。
ズガガァーン!!!
ラピータ宮殿の門前に立つシュナンたちは、凄まじい轟音と光に目と耳がくらみ、身体を硬直させて、棒立ちになっていました。
彼らの背後に建っている、ラピータ宮殿の屋根の一部は吹き飛んで、シュウシュウとくすぶっており、はるか彼方のパロ・メデューサの山並みからは、もうもうと火の手が上がっています。
一方、ラピータ宮殿の周りに広がる堀の中でひしめき、宮殿を支える高い土台を包囲する、ペルセウス軍の間からは、大きな歓声が上がります。
「す、すごいー」
「山が、吹き飛んだぞー」
「クシャナ殿下、万歳ー」
宮殿周囲に広がる、深い堀の中に侵入した彼らは、高い土台に支えられたラピータ宮殿を包囲しながら、そこから、宮殿前で対峙する、シュナン一行とレプカールが操る魔神兵の姿を見上げ、事態の推移を固唾を飲んで、見守っていました。
そして今、レプカールが内部で操縦する、魔神兵の放った破壊光線の、すさまじい威力を目の当たりにして、一斉に歓声を上げたのでした。
魔神兵の中に搭乗する、魔術師レプカールは、ラピータ宮殿を支える高い土台を、足元から包囲する、堀の中にひしめく、兵士たちから上がった歓声を聞いて、思わず、その口元を緩ませます。
「フフフ、どうだ、この魔神兵の放つ魔光砲の威力は。お前の最終奥義バルスにも、引けは取らんぞ。基本的に、一回の戦闘時に一発しか撃てないバルスとは違って、こちらは撃ち放題だしな。どうだ?降伏する気になったか」
しかし、高い土台に支えられたラピータ宮殿の前に、仲間たちと共に立つシュナン少年は、師匠の乗る魔神兵の持つ、恐るべき力に脅威を覚えながらも、その青灰色の髪の生えた頭を、激しく横に振って。レプカールの降伏勧告を再び拒否します。
「あなたに、簡単に膝を屈するわけには行かない。あなた方にメデューサを引き渡せは、彼女の人生は破壊され、悪魔の手先にさせられてしまうー。あなたや王はメデューサを使って、彼女の先祖が作った最終兵器を手に入れる気だ。他の全ての国々を滅ぼして、世界を我が物とする為にー。そんな悪魔の所業に、僕の妻である彼女を、加担させる事は出来ない。僕は最後まで、あなた達に抗います。メデューサをー。僕の大切な人を守る為に」
愛する者を、そして危機に瀕しようとしている、数多くの無辜の人々を守る為に、自分の師であるレプカールや、主君であるペルセウス王と、命をかけて戦う決心をした、シュナン少年。
彼の視力が戻ったばかりの、青く澄んだ瞳に、決意の光が宿ります。
そんな弟子の姿を、魔神兵のモニターを通じて見下ろす、魔術師レプカールは、操縦席に身体をうずめながら、しばし目をつむり、思いにふけります。
そして、いよいよ愛弟子である、シュナンと戦う決意を固めたのか、操縦桿を握って魔神兵の足を動かし、眼下に立つシュナン少年の方に、近づこうとします。
しかし、その時でした。
ポフッ!!
どこからか、柔らかな袋のような物体が、レプカールが操縦する魔神兵めがけて、飛んで来ました。
誰かが投げつけたらしい、その袋状の物体は、魔神兵の、のっぺりとした顔に当たってはね返ると、そのままラピータ宮殿の門前の、石造りの床に、ポテッと柔らかい音を立てて、落ちました。
魔神兵の中のレプカールが、頭部のモニターで、その下に落ちた物体を確認すると、それはどうやら、両手の手のひらに載るくらいの大きさの、口元を茶巾結びにした、麻袋のようでした。
袋の中には、何か細かい粒状のものが、いっぱいに詰まっているみたいです。
「黄金の種子・・・」
驚いたレプカールは、頭部のモニターを、再び自分の真正面に立っているはずの、シュナン少年たちの方へと向けます。
するとそこには、シュナン少年の隣で、物を投げつけた後の、腕を伸ばしたポーズのまま固まっている、メデューサの姿がありました。
腕を伸ばした姿勢のまま、こちらを蛇の前髪の隙間から、怒気を含んだ視線で、にらみ上げています。
「それが、欲しいんでしょ?あげるわよ、そんな物っ!!」
他の仲間たちに守られながら、シュナン少年の背後で、隠れるように立っていたメデューサは、魔神兵に乗るレプカールの言動に激昂したのか、仲間たちが止める間も無く、前に飛び出すと、両手で大事に持っていた、「黄金の種子」の詰まった麻袋を、目の前にそびえ立つ魔神兵の顔に向かって、精一杯の力で投げつけたのです。
「メデューサ・・・」
シュナン少年は、メデューサの意外な行動に驚き、自分の背後から、前に飛び出した彼女に、心配そうな視線を向けます。
前方に飛び出したメデューサは、シュナン少年を背にして、彼とレプカールの乗る魔神兵の間に立ちはだかり、少年を背中でかばうような姿勢をとっていました。
蛇の前髪の隙間から、魔神兵の巨体をにらみ上げ、小さな身体を震わせながら、悲痛な声を上げる、メデューサ。
メデューサの悲痛な叫び声が、彼女たちのいる、高い土台に支えられた、ラピータ宮殿の門前に、こだまします。
「そんな物あげるから、それで満足して、この場からいなくなってよ!!お願い、もうこれ以上、シュナンを、苦しめないでーっ。お願いだからー。あたし達の事は、もうほっといてっ!!!」
[続く]




