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つれないね、恋の分からず屋  作者: 伊藤東京
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グランピング 8

 曇りガラスの引き戸の向こう側は灰色がかった茶色の石のタイルが床と壁に敷かれた室内温泉になっていて、壁に鏡とシャワー、風呂椅子やシャンプーなどが並んでいた。

 正面は窓ガラスになっていて、ウェブサイトで見た写真を思い出すに、昼間ならここから富士山が見えるはずだ。

 壁一面が窓ガラスとはいえ、やはり外から見えないように景色の下半分程は竹の形をしたプラスチックの柵で遮られていた。

 四角く区切られた湯船には透明な温泉が張られている。湯船には床から出るタイプのジャグジーがついていて、湯船の真ん中の部分だけ気泡で白く見えた。

 並んでいる風呂椅子のうちの一つに適当に座って髪を洗っていると、美和子と結愛も入ってきたが、私は自分のことを洗うのに忙しくて彼女たちの方を見なかった。

 体を洗い終えてから、私たちは順番に湯船につかった。湯は少し熱めだったけれど、それが心地よかった。床から出てくるジャグジーも気持ちがいい。

「夜だから富士山見えないね」と美和子が窓の方を見つめた。「日の出の富士山、朝頑張って起きて見ようかな?」

「あぁ、確かに見たいよね。でも今何時?」辺りを見渡しても、壁掛け時計はこの温泉にはないようだ。

「さぁ? でも多分睡眠時間、たぶん四、五時間になっちゃうよね」

「えぇ、きっつ。多分起きれないよ」

 そう話していると、結愛が小首を傾げて私の顔を見つめる。それに気づいて「どうした?」と聞いてみる。

「耳大丈夫なの?」

「ピアス外さなくていいのかってこと?」

 軟骨ピアスなので、細い棒を穴にただ通す一般のピアスとは違って、ピアスの棒の先はペットボトルのキャップのように、ボールのキャップを捻ってつけるようになっている。

 外したりつけたりするのが大変というのもあるが、軟骨は治りが遅いので、つけっぱなしというのが普通だ。勿論つけている軟骨ピアスも水がかかっても錆びないように加工されている。

「平気だよ」

「それどうなってるの?」そう言って結愛が私に近づいた。友人同士で温泉に入る時でも、ここまでお互いに近づかないだろうというくらい距離が近い。

 結愛はそのまま遠慮なく私の右耳を触ってきた。軟骨ピアスをあけたのは大分前のことなので、触られて痛いということはなかった。

「へぇ、こうなってるんだ」と感心したように呟きながら、結愛は私の耳を裏返したりして軟骨ピアスを観察していた。

 私は平静でいようと努めて「軟骨ピアス見る機会なかなかないもんね」などと言っていたけれど、美和子は戸惑ったようで、え? と言いたげな驚いた表情をして私たちの様子を交互に見ていた。

 それに気づいた結愛が「あ、ごめんね」と言って私の耳を触るのをやめた。

「あ、いやいや、二人の仲なんだし、いちゃいちゃしてもいいのよ? 私はあっち向いてるから」

「いや、いちゃいちゃはしてないけど」と私が苦笑いをする。

「ごめんね。私距離感わからないから。興奮しちゃう?」と余計な質問をつける。

「いや、しないよ」と返事をするも、そこに美和子が「しないの?」と驚いたように聞き返すので、まいったなとまた苦笑いをした。


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